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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第二十一話 君に憎む呪いを
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「……――鴉座クン、君には分かるだろ。こうした方が幸せなんだ、って分かってても、そっちにいけなくて、結局は不運を見る方に向かう気持ちが」
「……――残念。今の私には、きっと分かりません。だって、私はお前の持っていない物を持ってますから」
「何それ」
「陽炎の心」
鴉座は鮮やかに微笑み、女性ならば少し魅了されてしまうかもしれない眼差しを向けた。
字環はそれを聞くと、益々嫉妬心が募り――陽炎を優しく撫でていた手を止める。
奥歯を噛み、汚い物を見るような目で鴉座を睨み付けて、憎たらしそうに言葉を吐く。
「そんなもの、操ればどうとでもなる」
「――陽炎がお前に負ける? あの人は、少し見かけが柔だからか、弱そうに見えますが、結構お強いんです」
「……――君だって、どうにでも出来る。例えば、だ。心を僕は操れる。記憶を僕は消すことが出来る。目を見えなくさせることだって出来る。――そして、君たちを元通り、二つに分けることもな。僕に武力で勝とうとしても、蟹座クンでは無理だよ、鴉座クン」
字環がそういって、指先を向けた途端、鴉座の心臓の奥が熱くなり――叫ぶと同時に、蟹座が外に出ていた。
蟹座は頭を抑えて、少しふらついたが、すぐに指先を刃物にして、字環へ向ける。
「それがどうした、陽炎はたかが凡人の癖にプラネタリウムの仕組みを、何も使わず変えることが出来る」
蟹座は指先をかしゃかしゃっと擦りあわせて刃物の光りを見せて、にぃと口の端をつり上げる。
己がかつて惚れた男は、己に屈しなかったほどタフな男で、至上の恋に己が破れた男は、己を裏切れるほど策に長けていて。
その二人がどうあろうと負けるわけがないと、信じられる――だから、蟹座は笑い、一歩踏み出す。
字環はそれを不愉快そうに見やり、陽炎を抱えて、立ち上がる。
陽炎は先ほどから起きる様子が無いところを見ると、どうやら牡羊座の眠る術を彼女よりも字環が巧く使いこなして、眠らせられているようだ。
「陽炎を返して貰おうか」
「――断る。彼は僕だけの物だ。君達に――こと座の力を使おう。一番大事な人を――敵だと思うようになる」
蟹座は目を細めて、一瞬で間合いを詰めようとした。恐怖心からかもしれない、怒りからかもしれない。陽炎を敵として見るのはどうしても、何があっても拒否したい――だから、もしかしたら焦りからの行動だったかもしれない。
普通ならば焦りだけの攻撃だとしても、隙をついてもつかなくても蟹座ならば倒せる。
一瞬で間合いを詰めて、字環ののど笛を掻き切ろうとした。だが、字環は間違っても「月」なのだ。彼にも蟹座の戦闘力があるのは、月である彼ならでは――だから、それを平気で避ける。
「蟹座クン、無駄だよ――」
「――……貴様は、陽炎が好きか?」
「まぁね。それなりに――」
――嘘だ。物凄く、好きだ。
だけどそれを安易に口にして、鴉座に笑われるのは耐えられない。
それを見透かしたように、蟹座は睨み付けるように真剣に己に訴える。
「ならば、貴様の好きという気持ちは、陽炎を泣かす物なのか。愛することは、好きな者の不幸を願うことか」
「誰もが今の君のように、健全じゃないんだ。普通は願うだろう? ライバルの敗北を――」
「それならば、貴様が好きなのは陽炎じゃなく、自分だ。自分が傷つくのを恐れている」
字環はそれが怒りの沸点のように、蟹座に術をかけ、鴉座にも何かを言う前に、術をかけた――。
字環は、辛酸を口の中で舐めてるような顔をする。
そんな顔をしながら、最愛の人間が消えるのではないかと恐れるような力で、抱きかかえる。
「……陽炎さん、僕を捨てないで。僕を、見捨てるな――」
字環は、そっと陽炎を牢屋の中へ送り込む――。
「……――残念。今の私には、きっと分かりません。だって、私はお前の持っていない物を持ってますから」
「何それ」
「陽炎の心」
鴉座は鮮やかに微笑み、女性ならば少し魅了されてしまうかもしれない眼差しを向けた。
字環はそれを聞くと、益々嫉妬心が募り――陽炎を優しく撫でていた手を止める。
奥歯を噛み、汚い物を見るような目で鴉座を睨み付けて、憎たらしそうに言葉を吐く。
「そんなもの、操ればどうとでもなる」
「――陽炎がお前に負ける? あの人は、少し見かけが柔だからか、弱そうに見えますが、結構お強いんです」
「……――君だって、どうにでも出来る。例えば、だ。心を僕は操れる。記憶を僕は消すことが出来る。目を見えなくさせることだって出来る。――そして、君たちを元通り、二つに分けることもな。僕に武力で勝とうとしても、蟹座クンでは無理だよ、鴉座クン」
字環がそういって、指先を向けた途端、鴉座の心臓の奥が熱くなり――叫ぶと同時に、蟹座が外に出ていた。
蟹座は頭を抑えて、少しふらついたが、すぐに指先を刃物にして、字環へ向ける。
「それがどうした、陽炎はたかが凡人の癖にプラネタリウムの仕組みを、何も使わず変えることが出来る」
蟹座は指先をかしゃかしゃっと擦りあわせて刃物の光りを見せて、にぃと口の端をつり上げる。
己がかつて惚れた男は、己に屈しなかったほどタフな男で、至上の恋に己が破れた男は、己を裏切れるほど策に長けていて。
その二人がどうあろうと負けるわけがないと、信じられる――だから、蟹座は笑い、一歩踏み出す。
字環はそれを不愉快そうに見やり、陽炎を抱えて、立ち上がる。
陽炎は先ほどから起きる様子が無いところを見ると、どうやら牡羊座の眠る術を彼女よりも字環が巧く使いこなして、眠らせられているようだ。
「陽炎を返して貰おうか」
「――断る。彼は僕だけの物だ。君達に――こと座の力を使おう。一番大事な人を――敵だと思うようになる」
蟹座は目を細めて、一瞬で間合いを詰めようとした。恐怖心からかもしれない、怒りからかもしれない。陽炎を敵として見るのはどうしても、何があっても拒否したい――だから、もしかしたら焦りからの行動だったかもしれない。
普通ならば焦りだけの攻撃だとしても、隙をついてもつかなくても蟹座ならば倒せる。
一瞬で間合いを詰めて、字環ののど笛を掻き切ろうとした。だが、字環は間違っても「月」なのだ。彼にも蟹座の戦闘力があるのは、月である彼ならでは――だから、それを平気で避ける。
「蟹座クン、無駄だよ――」
「――……貴様は、陽炎が好きか?」
「まぁね。それなりに――」
――嘘だ。物凄く、好きだ。
だけどそれを安易に口にして、鴉座に笑われるのは耐えられない。
それを見透かしたように、蟹座は睨み付けるように真剣に己に訴える。
「ならば、貴様の好きという気持ちは、陽炎を泣かす物なのか。愛することは、好きな者の不幸を願うことか」
「誰もが今の君のように、健全じゃないんだ。普通は願うだろう? ライバルの敗北を――」
「それならば、貴様が好きなのは陽炎じゃなく、自分だ。自分が傷つくのを恐れている」
字環はそれが怒りの沸点のように、蟹座に術をかけ、鴉座にも何かを言う前に、術をかけた――。
字環は、辛酸を口の中で舐めてるような顔をする。
そんな顔をしながら、最愛の人間が消えるのではないかと恐れるような力で、抱きかかえる。
「……陽炎さん、僕を捨てないで。僕を、見捨てるな――」
字環は、そっと陽炎を牢屋の中へ送り込む――。
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