【BL】星座に愛された秘蔵の捨てられた王子様は、求愛されやすいらしい

かぎのえみずる

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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー

第十九話 蓮見の才覚

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 ――呉、呉。
 遠くで、鳥の鳴き声が聞こえる。
 歓喜を表しているような、もしくは此処が何処か分からぬことへの警戒心へか、酷く五月蠅い。
 だが尾羽を広げるような感覚があるからには、きっとそこには――。
 
「呉……!」
「亜弓、起きたか」

 呉の体は冷えていた。
 孔雀の術で冷えている己の体をローブをかけて、抱きかかえて、服越しに体温で暖めてくれていたのだ。
 離れようとすると、ぎゅっと抱きしめられて、亜弓は惚れた弱みか動けなくなる。

「呉――陽炎さんや柘榴兄は?」
「陽炎は手に入った。あとは柘榴だ。――……あいつがお前を助けに来るそーだ」

 呉は亜弓の髪に己の顔を埋めて、深く息をする。
 まるで亜弓が呼吸するのに必要な機械のように、亜弓と密着しながら。
 亜弓はその言葉を聞いた瞬間、真っ青になり、首をふる。いやいやをするように。
 でも呉は目を閉じて、リラックスするだけ。

「呉、駄目だ。蒼刻一なんかに、二人を渡しちゃ駄目だ」
「命に別状は、ねぇ。それなら、良いだろ……?」
「駄目だ! 君は蒼刻一というものを、分かっていない! あいつは、自分が記憶に残るなら、世界を破滅に導くことだって出来るんだ!」
「――亜弓、俺だって蒼刻一を見てきた……あいつが、何を望んでいるかも、分かるんだ」
「……呉、それならどうして!」

 呉は急に冷めたように、亜弓から離れる。
 そして、ローブを亜弓にきちんと掛け直して、己は髪の束を纏め直す。
 亜弓は呉の態度に不満があったのか、呉の肩にパンチをする。

「いてぇ。――お前なんかに分かってたまるか、世界中から憎まれる気持ちなんか」
「呉が郷で嫌われた人数と、僕ら聖霊を迫害する人の人数、どっちが多い?」
「……――亜弓」
「呉、思ったより、自分を本気で憎んでる人の人数なんて少ないんだよ? 柘榴兄が言ってた」
「――そんなのまやかしだ。お前を迫害してきた奴の人数を言ってみやがれ、まやかしだと分かる」

 亜弓は首をふり、呉の肩にもたれ掛かる。
 その顔は憂いに満ちていて、頭を撫でてやりたくなるような息をついた。
 
「でもそれは暇つぶしだったり、恐れだったり、誰かに釣られてなんだよ。本気で、心から憎んでいる人は、居なかったと思う。呉は? 呉は、僕が言った以外の理由が原因と見られる動きのあった虐めとかされたの?」
「……――説教する気か? 亜弓の癖に」
「あ、僕の癖にって何だよ! 僕がそんな、黙ってよよっと泣くような奴に見える!?」
「陽炎と柘榴が事故ったって聞いたときは、よよっと泣いたじゃねーか」

 呉はもたれかかっている亜弓の前髪の束をぐいっと引っ張り、くくっと喉奥で笑う。
 亜弓はそれに痛がり、呉ー! と、名を呼び続ける。
 
「お前に説教は似合わない。説教は主役に任せておけ」
「……――陽炎さんより、柘榴兄のが似合いそうだなぁ」
「……んむ…」
「あ、蓮見ちゃん……」

 ふと気付くと、少し遠くの方に蓮見が居て、起きたのか、きょろきょろとしている。
 それを見つけた亜弓は蓮見を指さし、呉を睨み付ける。

「ちょっと、子供にまで手出ししたの!? 浮気?! ねぇ浮気!? 僕が覚悟の一つも出来てないから浮気!? あんな子供に!」
「ばっか、違ぇ! あれは人質だ! あの子供の年齢考えろ!」
「君と僕の年齢考えろ!」
「じゃあお前はショタコンだ! 俺のが年は下だ!」
「げえええ!? うっそー!!!」

 亜弓は目を見開き、ショックを受けている。まさかこの外見で、呉のが年下だなんて信じられない。
 どう見たって呉は立派に二十そこそこ。それに比べて己の背丈ときたら……。
 それを悔しがって、亜弓は呉の腕を地味に抓り攻撃する。

「馬鹿、いてぇ。……――しかし、妙だな。あの子供、……妖術かけたのに」
「効きにくいんじゃない? あ、ほら、親が白雪だし――」
「……――ちょっと待ってろ」

 呉は亜弓をぽいっと投げ出して、蓮見の元へ歩む。
 蓮見は、呉を見つめ、きょとんとしている。呉は、簡単な数式を唱える。

「う?」
「真似しろ」
「……シチョ…? シチョ」

 本当は、シチョ・ブリエールという呪の言葉なのだが、それを蓮見は未完成ながらも、数式を見事唱えたのか、そこに光りが一つほんわりと出来上がる。
 この数式は明かりを点す数式――その割りには立派な明かりが点った。これは妖術師の中くらいのレベルの技だ。それを、こんな幼子が?

(こいつ……もしかして……。そうか、親が確か妖術師と妖仔だから……)
 
 その隙を見計らって、呉が眠りにつく数式を唱えたのは亜弓。
 ついでにぐずらないように蓮見にも眠って貰って、亜弓はごめん、と二人に謝り、そこから抜けだし、恐らく捕らえられているだろう陽炎を探しに行く――。
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