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第五部ー君の眠りは僕には辛すぎてー
第八話 俺の可哀想な子を手伝ってあげてくれ
しおりを挟む一方、陽炎たちの出生地、ユグラルドでは射手座が城に忍び込んでいて――忍び込むのが得意な射手座は何食わぬ顔で、王様達の会話を耳にする。
「黒雪は死んだんじゃなかったのか?」
「それがここ数日、彼の姿が見受けられまして――感じられる妖術の力も、彼の物と近しいです」
「……そうか」
「ただ一つ、問題が。妖仔になってる様子なんです――」
「何じゃと?!」
王様は声を荒げて驚く――それ以上に驚いているのが、射手座だった。
射手座は息を飲み、だけども一瞬たりとも気を抜かず、神経を研ぎ澄まし、集中する。
王様達は射手座に気づかず、会話を進める。
「妖仔では国が継げないではないか!」
「先日現れました蒼刻一の情報では、黒雪様が人だった頃と妖仔の交じり子がいるとのことです」
「……仕方ない、その子供を連れてくるしかないか。王位に相応しい人材に決まってる。あの黒雪の子供ならば……!」
(まずい――蓮見が、狙われているので御座ろうか――……)
射手座はもう数日城に潜伏することを決めた、と、その時だった。
「僕が手伝ってやってもいいぜ?」
――死との敵対者が現れる。
皆は驚き、言葉を失う者、叫ぶ者、震える者に別れる。
反応を楽しんだ蒼刻一はげらげらと笑ってから、地面にゆっくりと着地する。
「――あの子供を奪うのに協力してやってもいい。黒雪次第だ」
「何を……! 貴様が黒雪を殺した癖に!」
「その言葉面白いな? じゃあお返しに、テメェが僕の聖霊達を殺した癖に、なんて」
冗談としては決して面白くない冗句に、蒼刻一は笑う。
周りは蒼刻一が怖いばかりに反応にあわせて、国王と王妃以外は笑ってみる。
だが蒼刻一から、一瞬で冬よりも冷たい声で一蹴される。
「笑うな」
「す、すまない……」
左大臣が顔を真っ青にさせて謝罪すると、蒼刻一はつまらないものでも聞いたような退屈そうな表情で、宙に漂う。
「――黒雪が、オレの邪魔をするようだったら子供をこの国に連れてきてもいい」
「……ほ、本当か!」
蒼刻一が味方になることは有難いことであり、怖いことであった。
だが彼の利点は此方の利点とも一致するようで、裏切らないだろうという安心感を与えてくれる。
それとは対照的に射手座は急速に、心臓の鼓動が早まった。
(蓮見が――蓮見が、この国の王族に巻き込まれる!)
それはどうしても阻止したいこと。
いざ去らん、白雪に伝えよう、としたときだった。
蒼刻一の声が此方を――向いた。
「白雪に伝えろ。字環を脅すのはやめろ、それからオレの計画を誰にも言わず、呉を手伝えと――射手座?」
「……っぐ!!」
射手座はその場に張り付いた恐怖を消すように、その国から消えた。
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