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長内編

第十二話 港の嫉妬

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 椿と抱き合って一番ほっとしたのは、抱いたからと言って特別甘い空気になるわけでもないことだった。
 僕のチョーカーを噛みはするけども、椿は認めたくはないが気持ちのよい青年だ。
 子供っぽさが大分残るけれど、それでも嘘だけはつかない安心感もあったし、駆け引きなどというめんどくささも感じられない。
 一緒に湯船につかりながら、椿に後ろから抱きしめられる。
 行為だけは甘いのに、僕らが話していたのは将来の夢を目指した瞬間について、というロマンや夢はあっても愛はない会話だった。
「絵本作家ぁ? なにそれ、どんな話書きたいんだ」
「童話みたいに、いつまでもみんなで幸せに暮らしました、で終わる話」
「そんなん小説でもいいじゃねぇか」
「子供向けにしたいんだよ、いつかは爺さんになって近所の子供に読み聞かせてさ、お節介じいさんて呼ばれたい」
「変な夢だな、でも嫌いじゃない。……オレは、兄貴への反抗から今の職になったなあ」
「お兄さん?」
「内緒な、腹違いの兄貴がいるんだ。そいつのことが気に食わなくて、名声が欲しかった。そいつより上ランクの恋人も、夢も欲しかった。今はくだらねぇって思う」
「椿が弟って苦労しそうだね」
「そういやアンタ何歳よ」
「二十二歳だよ」
「へぇ。オレは二十八歳」
「落ち着きない二十八歳だね! 雪道さんは?」
「うるせぇ、あいつは三十三歳だったかな」
 他愛ない雑談をしながら、風呂から出るとスマホから着信があるのか椿はスマホを耳に当て誰かと会話をしている。
 マネージャーらしく、電話を切るなり、やべぇとつぶやいていた。

「明日収録なの忘れてた」
「ばかだなあ」
「なぁ、密。一緒に暮らさないか? お互い知る期間がどうしても必要だとか言うんなら、そのほうが手っ取り早い。三食昼寝つき家賃なしで囲ってやる」
「僕専用の部屋くれる?」
「それぐらいは。だけど寂しくてアンタはオレの部屋に来ることになりそうだけどな」
「ならいいよ、家賃なしは魅力的だ」
「そうと決まれば物件見に行こう! ああ、そうだ、料理はアンタが作るんだぞ」

 無邪気に心からはしゃぐ椿に徐々にほだされていく。



 週刊誌には僕と椿の写真に、テレビでは連日報道される。「鳥崎椿さん、同棲されるんですか?」「しちゃ悪いですか」と正直に答える椿の映像。

 どれもこれも記者たちは喜んで記事にし、SNSとではファンから僕への罵倒が連なっていた。

「それで、私を抜きにして本当に椿くんと同棲するのかな? だとしたら、随分と寂しいな、仲間はずれかね、私は」
 雪道さんから電話があったので、雪道さんの自宅に駆けつければにっこりと笑ってそんな言葉を言うものだから、僕は罪悪感が一気に募っていく。

「これでも君に気に入られようと必死だったけれど伝わらなかったかな」
「あ、の。怒りながらラットするの、は、やめて、ほしい、です」
「そうだね、息づかいが荒くなっていく、君も私も」

 じ、と睨むように見つめてくる雪道さん。
 言葉を探していると、僕の手を取って、不敵に微笑んだ。

「世間に私のモノでもあると、私が宣言してこようか。椿くんだけのものじゃないと」
「相当怒ってるのは、分かる、から、お願い」
「お願いって…………何? ん? 君が私の可愛い恋人だと、どうして私だけ言ってはいけないのかな」
 雪道さんは熱い吐息をつきながら、ソファーに座る僕の隣へ腰掛け、腰を強引に抱き寄せキスをした。
 僕がキスにうっとりしていると雪道さんは、キスを幾度も愉しみながら僕へ言葉をかける。

「同棲なら、私もいてもいいよな?」
「う、ん……いっしょ、で、いい」
「言葉には気をつけたまえ、一緒がいい、そうだろ?」
「あっ、ん!」

 キスをしながら雪道さんは、僕の股間を柔らかく揉み、僕が震える度に嬉しげに笑う。
 雪道さんは、机の上に置いてある紙袋を開けてごらん、と微笑みかける。
 僕は快楽とアルファのラットにより、ほぼほぼ何も考えられない状態だった。

「君へのプレゼントだ、気に入ってくれるといいな」

 黒い首輪だった――犬にするようなやつの、少しいかつめのやつ。
 僕は雪道さんの顔を不思議に見つめていると、雪道さんは僕から衣服を剥がし、首輪をつけさせる。

「私がいいというまで、犬のまねをして私に媚びるんだ。でないと、許さないよ」

 雪道さんは更に僕の目の前に、アイテムを追加した。尻尾つきのローターだ。
 静かな笑顔で雪道さんはキレていたのだと、理解するには遅すぎた。

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