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詩音編
8。確認の不発
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痴漢は肉棒を引き抜くと、詩音の隣に倒れ込んだ。その顔は、背けられている。
意を決して、詩音は「あの」と声をかけた。
「……もしかして、私たちどこかで会ってるとかですか、ね……?」
痴漢はこちらを向いた。前髪の隙間から僅かに見えるその目は、うざったそうに詩音を見ていた。
「便器にしかなれないようなクソメスが、一丁前に頭回してんじゃねえよ」
その言葉にびくっ、と体が勝手に硬直する。しかし、この感覚は……何となく、知っている気がする。
でも、この男のことはどうしても思い出せない。
痴漢は立ち上がると、そのままシャワールームに向かった。ざああ、とすぐさまシャワーの音が聞こえてくる。
(……でも、これで確信した)
否定はされなかった……つまり、それが答えなのだろう。
詩音は震えながら立ち上がると、痴漢の履いていたズボンをまさぐった。いつシャワーの音がいつ消えるかひやひやしたが、すぐにそれh見つかった。
ポケットから取り出した財布を開く。一番下のスリットに、免許証が入っていた。
「森井……蘭……」
書かれていた名前にも、とくに覚えは無い。しかし、証明写真は前髪があげられていて痴漢……森井の顔が、しっかりと見えた。
その瞬間、脳みそが揺さぶられるような感覚がした。
シャワーの音が途絶えた。慌てて、財布をズボンに戻して再び寝そべった。ドライヤーの音が聞こえてきて、ひとまず安堵する。
戻ってきた森井は、詩音を一瞬だけ見ると、すぐさま身なりを整え出した。
「……結局便器になれるんじゃねえかよ、虫唾が走る」
そう言い残し、彼は部屋を出た。
真意が、分からない。彼は明らかに自分を好いているわけではないだろう、それは態度を見ていれば分かる。
それなのにあんな風に痴漢したり、ましてや……自分を犯す事を楽しんでいる気配すらあった。
(何なんだろ、あの人……)
仕方ないので、自分も帰ろうとシャワーを浴び始めた。床にぼとぼとと精液を垂れ流しながら、はっと思い出す。
(そうだ、仕事……!)
森井の事で頭がいっぱいで、一切頭が回っていなかった。
いつもこうだ、一つの事にいっぱいになるとこうやって他の事が頭からすぐ抜ける。そのせいで思い出せなくなったことやものも多くて、それが原因で何度も人間関係は壊れていた。
シャワーを終えて慌てて携帯を見ると、やはり鬼のような着信が入っていた。しかしそれは、30分程前にきっかり止まっている。
「もうクビかなあ……」
ぼそりとした呟きを、誰も拾いはしない。
仕方ないので、そのまま会社に向かう事にした。
意を決して、詩音は「あの」と声をかけた。
「……もしかして、私たちどこかで会ってるとかですか、ね……?」
痴漢はこちらを向いた。前髪の隙間から僅かに見えるその目は、うざったそうに詩音を見ていた。
「便器にしかなれないようなクソメスが、一丁前に頭回してんじゃねえよ」
その言葉にびくっ、と体が勝手に硬直する。しかし、この感覚は……何となく、知っている気がする。
でも、この男のことはどうしても思い出せない。
痴漢は立ち上がると、そのままシャワールームに向かった。ざああ、とすぐさまシャワーの音が聞こえてくる。
(……でも、これで確信した)
否定はされなかった……つまり、それが答えなのだろう。
詩音は震えながら立ち上がると、痴漢の履いていたズボンをまさぐった。いつシャワーの音がいつ消えるかひやひやしたが、すぐにそれh見つかった。
ポケットから取り出した財布を開く。一番下のスリットに、免許証が入っていた。
「森井……蘭……」
書かれていた名前にも、とくに覚えは無い。しかし、証明写真は前髪があげられていて痴漢……森井の顔が、しっかりと見えた。
その瞬間、脳みそが揺さぶられるような感覚がした。
シャワーの音が途絶えた。慌てて、財布をズボンに戻して再び寝そべった。ドライヤーの音が聞こえてきて、ひとまず安堵する。
戻ってきた森井は、詩音を一瞬だけ見ると、すぐさま身なりを整え出した。
「……結局便器になれるんじゃねえかよ、虫唾が走る」
そう言い残し、彼は部屋を出た。
真意が、分からない。彼は明らかに自分を好いているわけではないだろう、それは態度を見ていれば分かる。
それなのにあんな風に痴漢したり、ましてや……自分を犯す事を楽しんでいる気配すらあった。
(何なんだろ、あの人……)
仕方ないので、自分も帰ろうとシャワーを浴び始めた。床にぼとぼとと精液を垂れ流しながら、はっと思い出す。
(そうだ、仕事……!)
森井の事で頭がいっぱいで、一切頭が回っていなかった。
いつもこうだ、一つの事にいっぱいになるとこうやって他の事が頭からすぐ抜ける。そのせいで思い出せなくなったことやものも多くて、それが原因で何度も人間関係は壊れていた。
シャワーを終えて慌てて携帯を見ると、やはり鬼のような着信が入っていた。しかしそれは、30分程前にきっかり止まっている。
「もうクビかなあ……」
ぼそりとした呟きを、誰も拾いはしない。
仕方ないので、そのまま会社に向かう事にした。
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