上 下
110 / 117

第84話 皇太子が更に面倒くさいです!

しおりを挟む
 連日食堂で見られ続けると言う苦行に疲れて、アルと二人で今日はお外で御飯にしました。外食って訳じゃないよ?軽食をテイクアウトして学園の裏にある広場で食べたのだ……。
 凄く爽快。視線が無いってこんなに解放感があるんだね!もっと早くこうするべきだったかも……。
 ベッケン嬢とは話が出来て無いし。どうも、休み時間の度に皇太子の教室に行っているらしい。トラブルが起きている訳では無さそうなんだけどね……。
 皇太子、本当に何がしたいの?って感じですよ……。他の生徒達も気になるのかチラチラ見られるし、本音を言うと疲れるんだよね。
 初日に助けてくれたベルナドット様とクリス先輩は、私達が立ち去った後――皇太子が早々に歩いて何処かに行ったらしいので絡まれたりはしなかったらしい。次の日も同じ感じだったようなので、ダグ君やエドガー様も食堂からの脱出に手を貸してくれた。
 けどさ。流石に何日も続くとね……。やっぱり申し訳ないし。
 思わず皇太子に言いたい事があるのならハッキリ言って!と言いたくなってしまった。まぁ、モチロン言ったりするような馬鹿な事はしませんが。
 アルも似たような気持ちっぽい。笑顔の裏でイラッとしているのが分かる。『そろそろ殺っても良いだろうか……』昨日低い声で小さく呟いているのが聞こえたし。
 今日のお外御飯は、流石にそれはマズイだろうと思っての事もあった。
 まぁ、そんな感じで無事にお昼が過ぎると思ったのよ。そしたら――

 「き、奇遇だな?!」

 皇太子が湧いた。
 そして、アルに向かって声を掛ける。
 ベッケン嬢とクワイトスさんが、頭が痛そうな顔をしながら私達に頭を下げた。皇太子の息が若干上がってるから、私達を探すのに走ったらしい。
 食堂にいなくて焦ったとか?そんなに重要な用事があるのだろうか??こっちは無いけど。
 アルは完全に無視する事にしたらしい。
 だって『奇遇だな』ってだけだと誰に話しかけてるのか分からないものね。この場には他にも生徒がいるし。返事が無い事で周囲がシン――としてるけど、アルの気持ちも分からなくは無いのでお付き合いしますとも。

 「むがっもがっ!!」

 ?変な音するなぁと思ったら、皇太子の腰巾着の人がね?クワイトスさんに羽交い締めにされて口を塞がれてた。もがもが聞こえる事を要約すると『皇太子殿下のお声掛けに返事をしないとは、何様のつもりだ!!』って感じの事を言ってるっぽい。
 クワイトスさんが頑張ってくれているのとか、ベッケン嬢がヤツレた顔をして疲れてるようなので聞こえない振りをしたけれど……。
 何様って言われてもね……アルは皇太子と同じ立場な訳ですよ。そちらが身分を振りかざすのなら、不躾な視線を延々と寄越すのはNGだし、話しかける方法が『奇遇だな』って言うのも大分おかしい。友人な訳でもないのだし?

 『食事中に失礼。アルフリード王太子、後で少し話をしたいのだが、都合はどうだろうか?』

 ――が正解である。
 正規の方法であれば、ベッケン嬢かもう一人の留学生の男子に先触れをして貰えば完璧だろう。まぁ、現在学園の生徒である以上、そんな仰々しい事はしないでもらいたいけれど。
 見かねたベッケン嬢が、皇太子に何事か囁いた。

 「む。そうか――アルフリード王太子、話があるのだが!」

 うん。多分ベッケン嬢はもっとちゃんとした言葉を告げたと思うんだ……。
 だって、天を仰ぐように見て大きな溜息吐いてるもの――……話があるとか拒否権ない雰囲気で言う前にさ?コチラにも予定とか都合とかあるかもしれないじゃん??せめて都合は聞こうよ……。
 とは言え、流石に名指しされれば流石のアルも返事はせざるを得ない。それが例え、マナーに適っていなくてもだ。相手は一応皇太子。
 私が皇太子に名乗らなかったように無視する事で不快感を表す手法もあるけれど、今回の場合は悪手かな。
 まず、この皇太子がそういった手法で『不快』を告げられても多分気が付かない事――。それから、周囲の生徒達が不安そうにしている事――。
 今回の場合、名指しされたのに無視をするのは、皇太子と同じ土俵の上に立つようなもの。多少の無礼な行動は目を瞑って大人な対応で返事をする事が望ましい。
 問題は、ヘイトが溜まり過ぎててアルの『多少』を超えてそうな事かも――……後で労わっておこう。

 「何でしょうか?メルジェドス皇太子」

 ひえ――。皇太子とモガモガ言ってる腰巾着の人以外が凍りついた。
 目が笑って無い。完っ全に貼り付けた笑顔だ。
 皇太子が名前でアルを呼んだのに対して、アルは皇太子を国名からつけられた家名で呼んだ。アルは『お前と仲良くする気は無いよ?』過激に言うとそんな感じの事を言ったのである。もちろん、皇太子には伝わって無いけどさ――他の関係無い生徒達が可哀想だよ。
 私はそっとアルの手に触れた。
 アルは私の顔を見た後、大きく深呼吸して自分を落ち着けたらしい。殺気の籠った目ではなく、貼りつけた笑顔も自然な感じになった――大丈夫そうかな?

 「あぁ!少し話したい事があってな」

 さぁ、何を話すんだ?正直に言えば緊張していた。
 連日じっと見て来るだけの皇太子が、何を私達に言いたかったのか分からなかったし。
 そう構えていたのだけれど、話されたのは拍子抜けするような事だった。ただ、延々と巫子への賛辞を聞かされたのである……。

 ――宗教の、勧誘かな?

 『巫子教』みたいな物があって、その勧誘を受けている気分ですよ?
 皇太子は、私達を見かける度に巫子様の素晴らしさを話す様になってしまった。アルが「返事をしたのは間違いだった」と疲れた顔で言ったくらい。
 てか、皇太子の様子が大分おかしい。まずは周囲とのトラブルが格段に減った。ベッケン嬢とクワイトスさんが頑張ってるのもあるんだろうけど、それを差し引いても態度が違う。
 偉そうではあるけれど、見下す感じは無く――世間知らずでちょっとだけ我儘な青年って感じになっていた。私への人を人とも思わない傍若無人な態度は無かったかのように振る舞われ、ちょっとイラっと。
 謝って欲しい訳じゃ無いけれど、何も無かったみたいな態度は酷い目に遭った分腹立たしいのだ。
 心配してくれていた研究会の面々も皇太子の話の内容に拍子抜けしたらしいけれど、やっぱり困惑の方が強いみたいだった。
 それでも色々心配してくれているみたいで、皇太子が突撃して来る昼時は、必ず誰かが一緒にいてくれるようになった。皇太子は、アルと私以外には興味が無いらしく、話しかけるのは基本アル。
 それから、私の方を見たりするけれど、それ以外は完全に居ないものとしている感じ??と言うか、そもそも目に入って無いって言うか――……。
 やっとベッケン嬢と話せたのだけれど、ある朝、起きたらこうだったと。

 『本当に申し訳ありません……』

 疲れた様子で謝られました。朝、起きたら性格変わってたって……ナニソレ怖い。
 それから本国から指示があり、皇太子にアルと私と仲良くなるように(要約)――みたいな話になったのだとか。メルジェド帝国の現在のお偉いさんが、私達にも留学しに来て欲しいそうな。
 それを聞いた時、アルがショッパイ顔をしていたのが忘れられない。ベッケン嬢は、本当に申し訳無さそうにしておりました。メルジェド帝国に留学するのは遠慮したいわ……。
 もしかして巫子様を賛美してるのは『こんなに素晴らしい人がいるメルジェド帝国においでよ!』って事ですか……?ないわ――。分かり難いのもかなり無いけど、あんな風に来られて『ぜひ、行きたいです!』って言う人がいたら会ってみたい。普通は、勧誘怖いとか勧誘ウザイとか勧誘要らない――みたいな感じになると思うのよ?
 心証がガタガタ下落してくわ。
 ――元々皇太子の心証はマイナスに振りきれてるけどね。本当に、何でこうなったのかな?
____________________________________________________

 状況によりますが、土、日のどちらか更新が難しそうです。宜しくお願いしますm(_ _)m
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:2,083

君の瞳は月夜に輝く

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:171

ブリジット・シャンタルは戻らない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:59

これが夢でありませんように

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:133

処理中です...