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第62話 寮までの帰り道……。

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 嵐が去った後、皆ほうほうのていで帰路についた気がする――元気だったのはウォルフ先輩だけじゃないかな……。明日は腹筋が筋肉痛だって言ってたけど。
 ダグ君は『魔女探しにに手勢を割けるのは少数だ』と言う陛下の言葉に少しだけ安心したらしい。
 探すのに手勢が割けないって言われるのって、正直に言って身内からしてみれば残念に思いそうな気がするんだけど……。
 ダグ君としては、『消えた』としか言えない足取りだったから……捜索自体が縮小されたり終わったりするんじゃないかって思ってたんだって。だから探し続けて貰えるだけでも有難いという気持ちだったみたい。 
 
 『宰相閣下は、随分とローゼンベルク嬢を気にかけてるみたいだねぇ』

 皆が帰った後、最後まで残っていたウォルフ先輩の言葉に私は首を傾げた。あの父が?という思いしか湧かなかったからだ。あまりにも『何言ってるのだろう?』という気持ちを隠さない顔をしていたんだろう。
 ウォルフ先輩が苦笑しながら、間諜の捜索の関係で王城に行った時に父に会ったのだと教えて貰った。
 『丁寧にお礼を言われて、これからも宜しくお願いますって言われたよ?』とウォルフ先輩。どうやら、私の『魔王化』の有無を確認するのにウォルフ先輩の協力が不可欠だと聞いて、わざわざ挨拶をしにいったらしい……。

 『それは、本当に父ですか――?』

 思わず聞いてしまった私は悪く無いと思うんだ??
 だって、私と話す時にはほとんど能面だし?さっき部屋から出てく時だって私を見なかったような人だよ??実家だとほぼ会話が無いし。ちょっと信じられない。
 けれど、ウォルフ先輩は『見たままだけがその人の本質とは限らないよ?』そう言って笑って帰って行った。
 今はアルと二人散策しながら寮へと帰る途中――。雪ちゃんは肩の上で眠そうにしていた。ずっと隠れてたからねぇ……。私の髪の毛が掛け布団代わりになっちゃったみたいでウトウトしてる。
 
 「宰相は、ティアの事心配していたよ?多分、当人を目の前にすると、どう話をすれば良いのか分からないのかもしれないね……」

 「父が――?」

 「今日の事は、父が強行した面が強いけれど、そもそも言いだしたのは宰相らしいよ。普通に考えていくら短時間の外出と言っても、父が来るのなら宰相まで来る必要は無かった・・・・・・・。それなのに来たって事はティアの事を心配したからだね」

 そう言いながらアルは、陛下が『S級冒険者が味方に居ると知っていれば安心だろう?――ちなみにこれは、ケイトが言いだした話だけどな――』と言っていたと話してくれた。
 陛下曰く、永久凍土の貴公子と呼ばれる前から父は能面仕様で生きて来た――。それは生い立ちが関係していて、私にとって祖父に当たる人が、父を虐待して育てたから――って……。
 頭だけは・・・・良い――所謂天才だったらしいけれど、他人の痛みを理解出来ない独裁者タイプ。その人にとっては有能とされる父もただの凡才で、教育と称しては酷い体罰を与えていたらしい。
 自分の好きな事には貪欲――領地から搾取しては享楽的に過ごした。父が逃げたのは父の兄が死んだから。その死は事故とされたけれど、実際は――……。という事だったらしい……。まさかそんな話が飛び出すとは思っていなかった私は、どうして良いか分からず立ち止まってしまった。
 
 「宰相は――親子関係と言うものをどうしたら良いのかが分からないんだと思う――……」

 「……――っ」

 機能不全家族と言う言葉がある……。家庭内暴力や、育児放棄等、ストレスが日常的に存在する家庭環境で育つ事だ……。父は、そんな環境の中で感情を失いあの能面のような顔をするようになってしまったんだろう。
 感情を出せば、より酷い折檻をされたらしいから……。自分の子供にそんな事をするなんて――初めて見知らぬ祖父に対して怒りが湧いた。
 しかも私の伯父にあたる人は――……。
 陛下と会った頃の父は、成績だけは優秀だったけれど感情をまったく出さない人だったらしい。人とのコミュニケーションも事務的な事以外は取ろうとはせず、生きている事がまったく楽しく無さそうだったと。
 それで、陛下はうざったい位にチョッカイを掛けたらしい。切っ掛けは何だったのか分からないけれど、陛下のお陰で父は感情を取り戻したようだった……。

 「実は、父から伝言があるんだ」

 アルが、陛下からの伝言を聞かせてくれた――『ケイトは君達兄妹をちゃんと愛してる……ただ、親から愛された事が無いからどう接したら良いか分からない。後は怖がってるってトコだ――自分が父親と同じ事を息子と娘にしてしまうんじゃ無いかってな――。アリスティア嬢――君の前世は今より大人だったと聞いている。これはケイトの友人としての願いだ。仲良くしてくれとは言わない。ただ、ケイトを少しだけでも理解してくれないか……?』 
 ――……私は唇を噛みしめながら伝言を聞いた。
 能面みたいな顔しかしないって思ってた。私の父である人――。けど、それには理由があって……。私、結構酷い事を思ってたんだなって。子供に愛情も何も無い合理主義者だなんて――けど、違ったんだ……。

 「ティア……」

 立ち止ったままの私をアルがそっと抱きしめてくれた。
 鼻の奥がツンとする。私が泣いたりする資格なんて無いのに。辛かったのも苦しかったのも父だ――。私じゃ無い。父なのに……。

 「アル――私――」

 多分、私は父を傷付けた。
 思ってる事って意外と相手に伝わるんだよ。ちょっとした態度や仕草、声のトーン。目の奥とか……感情は色々な所に出るものだ。
 私が父を好きになれないと思っていた気持も、きっと伝わってたと思う。
 傷ついてる人を更に傷付けてたとか、流石に自己嫌悪だ。だからといって、父に謝るのも難しい気がした。この話は陛下が友人の為を思って教えてくれた話であって、多分だけど……父はこの話を子供である私や兄には知られたく無いって考えてると思うから……。

 「――自分が嫌いになりそう……」

 謝りたい。けど、それは私の自己満足でしか無いだろう。
 グルグルと回る思考でそれだけしか言っていないのに、アルは私の気持ちを理解してくれたみたいだった。

 「ティアが自分を嫌いでも俺は好きだよ」

 『ゆきちゃんも、まぁま、好きぃ……』

 半分寝たままの雪ちゃんとアルにそう言われて、心の奥が温かくなった。

 「雪の方が効果が抜群そうだなぁ……。まぁ、少しずつ関係を改善して行けば良いんじゃ無いか……?その中で、謝っても俺は良いと思うよ??」

 「けど、父はこの話を私や兄に知られたく無かったんじゃ……。それなのに謝ったりしたら――それって自己満足じゃ無いかって……」

 「確かに宰相が知られたい話じゃ無いだろうね――デリケートな内容だし。だけど、別にその話を知ったからじゃ無くてもさ――例えば、ウォルフ先輩から聞いた話でも十分父親に対する見方を変えるキッカケになってもおかしく無いと思うよ?――……まぁ、宰相の事だからそれでも気が付かれる可能性はあるけれど」

 アル曰く、父の状況とかを察する能力って結構鋭いらしい。
 そんな先読みが上手いのも、祖父からの体罰を避ける為というか……生きる為に培われたんじゃ無いかって……。

 「バレたとしても、その場合怒られるのは父上だけだよ。気にしなくても良い気がする――謝るのが自己満足になる場合もあるけれど、娘との関係が改善する方が宰相は嬉しいんじゃ無いかな。正直に言うと、ティアの事結構溺愛してるっぽいんだよね……」

 アルが少し言い難そうに、父と話をした事を教えてくれた。
 ちょっと待って欲しい――偽装婚約が見破られてて、両想いになった時の事で釘を刺されたって――?普通に私にとって恥ずかしい案件なんですけど……。
____________________________________________________
 
 ベルク先生の話を書く予定が、何故か宰相閣下の重たい話に……。

 第59話、『予想外の訪問者』に於いて――
 あれ?寮にいるはずのティアが実家で宰相閣下に会ってるよ?と言う状態でしたので修正をいれました。
 前半にあった『なんなら、今朝も会ってるし』を消し、後半に『話はかわるけどからこの時、前世の話とか出るかな?と実は緊張していた。』までを足しました。完全にボケてて申し訳ありません;;;

 明日の更新ですが、明日しかタイミングが合わず急遽車検に行く事になってしまいました。少し遠方なので、更新に来られるかかなり怪しい状況です……。申し訳ありませんが、宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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