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第38話 ポーカーフェイスと言う名の仮面が欲しい今日この頃。

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 昨日、私は眠れない夜を過ごす事になった。
 なんの事は無い。
 昼間の研究室でのやり取りを思い出して、ベットの上を羞恥で転がりまわったからだ。腰を抜かして気絶した状態から回復し、自室に戻るまでの記憶が私には無い。いや、何か手を引かれて歩いた記憶は残ってるかな?――私、介護されてるのかな??
 ボーッとしている間に気が付いたら自分の部屋だった。 
 そして、寝不足の今朝、我に返ったのだ――それからが大変である。まず、アルの顔をまともに見られない。ドキドキするわ、恥ずかしいわで挙動不審になる私。
 そして今は放課後――……ただいま研究室でございます。授業?済みません、上の空でした。先生方ごめんなさい……。

 ――こんにちわ、皆さま――お元気ですか?元気ですか。そうですか、良かったです。え?元気じゃ無い??それは大変ですね――。そう大変だ――。大変なんです!!そう、大変デスヨ?!

 どどど、どどどどどど、どどどどどどどどどどど――どうすれば良いの?!!!!!!!!!
 分かんない。婚約者が婚約者になりました。あれ?違う??婚約者が恋人になりました???あれ、何か変だな?偽装婚約の相手が、本当の婚約者で恋人になりましたっ!!!!!!!

 うんコレだ!!

 コレで正解――なんだけど……何だコレ――。照れるとか照れないとかじゃなくて、無性に恥ずかしい。アルの顔がまともに見れない。 
 アルはとってもゴキゲンで、こっちの気も知らないで何でか前以上に色気たっぷりだし?穴が開きそうな位に見て来るし?!

 何だか、周囲の視線が生温かいし!!!

 私、アルとどう接していたかしら?
 ちょっと、どうやってたか思い出せない。いや、思い出せないんじゃ無くて、その接し方が出来ないんですけど、現在ね?誰か助けて下さいませんか??
 私は助けを求めてエリザベス様の方を見た。扇で隠してたけれど、によによされた。酷い。けれど、突っ込んで聞かれないだけマシなのか??

 「婚姻前の――男女交際に関して、教示の必要はありますか?」

 「大丈夫です、先生――ちゃんと心得てますから」

 大きな溜息を吐いたベルク先生がそう言うと、ニコニコニコニコと満面の笑みを浮かべたアルがそう返す。
 今日ベルク先生が研究室に来れたのは、ヒロインが風邪をひいたとかで休みだったから。お陰でこれまでの経緯を話すのに丁度良い時間が取れた。
 ベルク先生、今はそう言う話はいらないです。ノータッチで触らないで欲しい……。婚姻前の男女交際の教示とかノーせんきゅー。
 中身は子供じゃ無いので何を危惧されたか分かるけど、そんな危険な可能性が自分にあるとか思いたくない。本当の婚約者になったっていう事実だけでも処理しきれて無いのに……。もうお腹いっぱいなんですが。
 後、研究室にまだ来ていないのはエドガー様とダグ君。全員揃ったら現状確認する事になっているので、この空気を変える為にも早く来て欲しい。

 「あらまぁ。うふふふ――」

 「楽しそうだな、妹よ――」

 少し呆れた顔をしながらエリザベス様に話しかけるベルナドット様――エリザベス様はにっこり笑って。「えぇ、こう言う展開大好きですの」と仰った。容赦無い。
 チラ――と目線が会えば、今度詳しく!と言われてるのが分かった。私はブンブンと首を振る。無理。むーりー!!詳しく出来るほどメンタルは図太く無い!!
 エリザベス様はご不満そうだ。
 そんな顔をしても無理なものは無理だから。

 「王太子殿下は恋人にはこんな顔をするんだねぇ」

 「こっ!こ――?!!!!」 

 縁側で茶を飲むお爺ちゃんのような顔をしたウォルフ先輩が、シミジミととんでもない爆弾を落としてくれた。
 予想外の所からの攻撃に、アルはニッコリと笑っただけですが、令嬢にあるまじき声をあげたのは私です――しょうがないと思うんだ。本当に予想した無かったんだもの。
 私の声に、他の皆さまが苦笑してらっしゃる……。

 「え?だってそうなんじゃ無いの?随分と昨日とは二人の雰囲気とか距離感が違うし……殿下は、ローゼンベルク嬢しか目に入って無い感じだし、彼女は彼女で顔を赤らめて殿下の方を見れないけど気にして――」

 「や、やめて下さいませ――私のライフは、もうゼロですわ……――」
 
 最早誰の顔も見れない。
 私はテーブルに突っ伏して、もだもだと身悶えしながら顔を隠した。私の言葉を唯一理解したアルがグフっと吹き出すのをこらえた音がした。酷い。誰の所為でこんな事になったと思ってるんだろう。

 「――ウォルフ先輩、そう言う事はあからさまに人前で言わないのが、貴族的な文化ですのよ――……」

 「――……あ、そうなの?……えーっとごめんね、ローゼンベルク嬢……」

 呆れた声のエリザベス様が、助け船を出してくれたらしい。けど、もうちょっと早く欲しかった。
 貴族じゃ無くても公開処刑は嫌だと思うけれど……いわゆる暗黙の了解と言うもので、そういう恋バナは異性の前ではあからさまにしないのが貴族のマナ―となっております。
 逆に言えば、お茶会とかで同性しか集まっていない場は恋バナが乱舞する事が多いです……。
 ウォルフ先輩達エルフは、何でも子供が生まれにくいらしく誰それが恋人になったとか、誰それが結婚しただとかは割とオープンにお話して『おめでとう』とお祝いするらしい。成程、文化の違いなんですね……。
 顔を隠しながら、しみじみとそう思っていると、ガチャリと音がした――。

 「ねぇ、これってどんな状況??」

 「えぇっと、大丈夫ですかローゼンベルク嬢?」

 扉が開く音がして……一瞬シンっとなった後、戸惑ったエドガー様とダグ君の声が聞こえた。どうやら、二人が来たらしい。
 救世主は来たけれど、結局この変な空気が変わるまで顔が上げられなかった私でした……。だって、本当に恥ずかしかったんだよ。
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 長編までには至らないと思いますと言っていましたが、見事に想定文字数を超えました;;
 この段階で、まだ終わりではないので、設定を短編から長編に変更致しました。それから、作品情報のページで、『不定期更新予定』と書いたままだったので、訂正しました。(2021.02.14)
 二転三転した感じで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。

 昨日、夜の更新でも書きましたが、更新『時間』が不定期になります。こちらもあわせて宜しくお願い致します。
  
 ※やらかしてました※
 『第19話 ヒロイン対策に出来る事。』たまたま設定確認のため、話を確認し歩いていた所、主人公の名前が別人になっているという事に気が付きました(酷い)
 フィオって誰ですか……。
 上の名をティアに訂正しました。私の事だからティアをティナと書く事はあるかもと思っていましたが、フィオ……多分、もう無いと思いたいですが、どこかでフィオを見かけたら教えて頂けると有難いです。(2021.02.15)
 
 本日も、読みに来て頂きありがとうございました!
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