49 / 117
閑話 エリシャ・ネージュ
しおりを挟む煩い――うるさいうるさいうるさい!!
私が幸せになろうとする事の何が悪いのよ!!!もう一人の私が、そう叫ぶのを聞きました。
彼女の精神はグチャグチャで、記憶は戻ってないのに前世の自分が入れ換わるように出たり消えたりしているのが分かります。
人格と言っても、粉屋のノラ、娼婦のデリアや農民のシアとしての記憶を持った誰かが出てくる訳では無いのだけれど……それは、湧水のように揺らぎながら『エリシャ・ネージュ』という少女の表層に現れる、かつての自分の残滓――。その人格が強く出るだけで、エリシャ・ネージュはエリシャネージュでしか無いのです。
状況は、良いとは言えないけれど、それでも、まだマシな方でした。
まだ彼女の人格が出て来ていないのだから――私ともう一人の私の、一つ前の前世――。死んだ時のショックで未だ目覚めない彼女――出来ればそのまま眠っていて欲しいけれど、多分いつかは目覚めてしまうと思うのです――。彼女は或る意味、私ともう一人の私が分かたれる事になったトリガーと呼べる存在。
彼女が出て来る前に、どうにか出来れば良いのだけれど……
そう思いながら、私は唇を引き結びました。
彼女が出て来てしまったら、エリシャ・ネージュは――……きっと完全に、変容してしまうでしょう。そして、世界を破壊しようとするかもしれません。ここにある現実は彼女が望むカタチをしていないから。
全属性の高魔力持ち――そうでなければ、こんなに心配しなくても良いのに。どうして、こんな力を持って産まれてしまったんだろう――思わず、そんな事も考えてしまいます。
『イイコの振りしたってダメよ!あんただって私なんだから!!』
私の声も姿も見えていない筈なのに、もう一人の私は、まるで私に怒っているみたいでした。実際に彼女の目には私と私らしく話す幻が見えているんだと思います。
それが、彼女自身の良心であれば……少しは変わってくれるかしら――。
けれど、あの激昂ぶりをみれば、良心であったとしても意味の無い事のように思えます。良心の言葉を認めて引き受けられないのなら、自分を省みる事なんてしないでしょう?
頑張って何度も何度もコンタクトを試みましたが、もう一人の私は私の事を認識してくれませんでした。
だから、別の方法を取らないと――
神様――
祈りを捧げます。
何度も何度も何度も。
この期に及んで神頼みだなんて馬鹿みたいな話です。けれど、私は知っている。神様がいる事を――。与えられた猶予と機会――その全てをお返しします。
それから、私のこの後――一切の人生を捧げます――。
だから、神様、神様お願いです――。私に『私』を止める力を下さい。世界を壊さないで済むように。これ以上、あの人達を苦しめないように。
自らの魂を削って願いを送る。
神様――、神様――神様――
本来なら、許されない事だと分かっている。人々の祈りに神様は気軽に応じたりしないのだから。それでも、祈った。私の所為で危機にさらされたこの世界を守る為に。
『――……例えそれで君が損なわれてしまっても?』
『――っ!!はい――はい、神様!』
その人は唐突に私の目の前に現れました。
藍色の髪のどこか冷めた目をした男性――。けれど、その姿と声を覚えています。私の願いを聞いて下さった神様の横にいて、金色の目でどこか私を案ずるように見ていた神――。
『本来なら、いたずらに手を出すような真似は出来ないのですが――そもそも、こうなるに至った原因は、私の上司が貴女の魂に介入した事が原因――ですが、私が出来る助力は些細なものです。今の流れを変えたいのなら、貴方自身が努力するしか無い――それでも、望みますか??』
『はい。お願いします――』
痛ましいものを見るような目で神様にそう聞かれたけれど、私の心はぶれたりしない――。もう決めたんです。そうしないといけないって。
『いいでしょう。ですが、貴方に残された時間は少ない――意識を強く持つ事です。でなければ、今のこの記憶すら持ち越せず、貴女の祈りは無意味に終わる』
『はい。分かりました――神様――、その――もし許されるのなら――貴方のお名前を教えては頂けませんか』
おずおずと聞く私に神様は微笑みながら口を開きました。
『※※$&※・#%・&※※*%――』
『え?』
上手く聞き取れない音の羅列――私は思わず、声を上げていました。
私の疑問に神様は苦笑しながら言葉を続けます。
『人には認識出来ないのですよ。ですが、私はかつて人だった。その時の名はファラキアと言います――真白き魂の欠片よ――貴女とは、同じ神として再会したかった。本当に――残念です』
それは――それは、とても温かい言葉でした。こんな私の事を本当に惜しんでくれている――それがとても伝わって来たんです。私の心に勇気の灯がともります。
『――……ファラキア様――私のような罪人に、そのような言葉をありがとうございます……』
『――せめて、貴女の魂にいつか安息が訪れる事を祈りましょう――良い旅路になりますように――』
首を振り、寂しそうにそう言うと、ファラキア様が片手を宙に掲げました。
『ありがとうございます――ファラキア様――』私のその言葉は届いたでしょうか??ありがとうございます――ありがとうございますファラキア様――だから、そんなに泣きそうな顔をなさらないで……。
私は精一杯の笑顔を浮かべました。
貴方のお陰で、心に導ができました。ファラキア様――貴方の名前を胸に刻んで私は行きます――。
____________________________________________________
今まで、午前7時~8時台の更新が多かったのですが、今後、更新に来れる『時間帯』が不定期になります。更新に来れない日が事前に分かっている場合は、今まで通りこちらで予告を入れます。
時間帯に関しては、来られるタイミングがその時にならないと分からないので、告知は難しそうです。
申し訳ありませんが、宜しくお願い致しますm(_ _)m
本日も、読みに来て頂きありがとうございました!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
756
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる