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『三田園子』という人
200話 時間差で泣けました
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なんとなく、勇二兄さんからもらったペンダントを着けました。せっかくだから一希兄さんからもらったバングルも。なんとなく。
スーツを着て、黒バッグを持って。書類の開封は現地ですることにしました。ないとは思うけど、中身差し替えたとか言われたら困るし。A4サイズの封筒は、三人分だからかちょっと厚めでした。
途中で買い物に寄りました。トランクケースをキャリーに乗せたみたいな、かわいい系スーツケースを買って家に届けてもらうようにしました。白いやつ。結局Lサイズ。……これで足りる。たぶん。
十五分前に三田本社へ着きました。真くんさんが、ちーちゃん含め受付のお三方に絡んでいました。なんか爆笑させてました。はい。わたしが近づいたら「来たねー」とこちらを向いて、仮パスを渡してくれました。そして「あのねー、ちーちゃんが話したいってー」とおっしゃいました。はい。
「――あの。今日、けっこう時間かかるのかな……?」
「いやぜんぜん。書類提出だけ」
「そうなんだ。わたし、十七時で終業なんだけど……玄関で待っててもいい?」
「えっ、うん。だいじょうぶ。なに?」
「あの……お祝い渡したくて。わたしと、彩花ちゃんから」
「ええー⁉ あっ、ありがとう、うれしい。さくっと終わらせて来るから」
「う……うん……?」
びみょうな返事が来ました。たぶんちーちゃんたちは、わたしがなにしに行くかは知らないと思いますけど。今まで没交渉だった父娘が今ごろキャッキャウフフするわけはないので、それなりにシリアス展開だってことは伝わっていると思います。はい。なんか苦笑いしている真くんさんに急き立てられてパスをピッとします。終業直前だからか、エレベーターを待っている人はいませんでした。
「で、結果どうだったのォ?」
真くんさんが、きっと緊張とかほぐすためにみたいな気遣いで、ゆっくりとした口調で尋ねて来られました。が、わたしは「まだ見てないので、わかりません!」と答えました。
「えっ、なんで⁉」
「未開封で、あちらから先に確認してもらった方がいいかと思って」
「……すんごい念の入れよう。だいじょうぶ、専務との血縁は僕が保証するよ」
「ありがとうございます! そこが一番不安です!」
そして二十八階。勇二兄さんが、お部屋でうろうろしていました。「結果は?」「まだ見てません!」「なんで⁉」をもう一度やりました。はい。
五分前。言葉なくわたしたちは社長室へ。なぜか真くんさんもいっしょに。秘書の加藤さんが深々としたお辞儀で「お待ちしておりました」と迎えてくれました。
「――こんにちは。一週間ちょっとぶりです」
デスクに座っていらっしゃいました。かけていた黒縁メガネを外して、わたしをご覧になります。老眼なのかな。わたしはすたすたそこまで歩いて行って、黒バッグから未開封の封筒を取り出して置きました。
「どうぞ。まだ確認していません」
目を落とし、少しの間じっと封筒をご覧になっていました。そして、ペン立てからきれいなバターナイフみたいなペーパーナイフを取り出して、封筒を手にされます。勇二兄さんがすぐ後ろまで来ました。音もなく開封されます。
ひとつまみくらいある量の書類でした。上から順番に目を通して、左手側に置いて行かれます。ぜんぶご覧になってから、わたしへとすべて渡してくれました。無言で受け取り、目を落とします。勇二兄さんが肩越しに覗き込んで来られました。ごていねいに、一番上の書類をサンプルIDの番号表にしてくれていました。わたしはどれだ。これか。勇二兄さんに渡します。
二枚目が、わたしの鑑定結果でした。
----------
DNA父子鑑定結果報告書
続柄 検体 性別
擬父 毛髪 男
子 毛髪 女
検査項目 DNA父子鑑定
結果
父と思われる男性は、子の生物学的父として排除されません。
(添付1,2及び3の分析結果を参照)
----------
……排除されませんってどういうことですか。君の日本語わかりづらいねってよく言われない? さらにその下の書類。は、検体の毛根の写真。さらに下。
----------
【テスト結果の解析】
擬父は、子の生物学的父であると判断されます。24の異なるDNA座の解析から得られたテスト結果による、父権肯定確率は99.99999999994%以上であります。この父権肯定確率は、血縁関係のないアジア人種に対して、事前確率を0.5と仮定し算出されました。
----------
とりあえず、他の書類の数字も確認しました。ぜんぶ同じでした。はい、終了ー。
「――おつかれさまでした!」
わたしが深々と一礼すると、なぜか勇二兄さんがぺこっとわたしに頭を下げました。社畜条件反射でしょうか。「――では、これ、ぜんぶコピーさせてください。あと、PDFかなんかで一希兄さんにも送っていいですよね?」と確認すると、義嗣さんは「――ああ」とおっしゃいました。勇二兄さんが真くんさんへ、書類一式を手渡しました。コピーしに行ってくれたみたいです。
「そちらで提出したサンプルの結果ってまだ出ていないんです?」
「いや……出さなかった」
わたしが尋ねると、義嗣さんは小さいゲンドウポーズみたいのをして、どこか部屋の隅っこを見ていました。なんでだよ、ダブルチェックしようねって言ったじゃん。そう思ったところ「――必要ないだろう。……それで十分だ」とのことでした。そうですか。
「じゃあ、ご納得いただけたということでしょうか?」
「……ああ、わかった。――おまえは私の娘だ」
「よし」
思わずうなずいて是認してしまいました。すみません年長の方へ。勇二兄さんがそわそわしています。わたしは「――最初に言いました通り、わたしはわたしに関する疑念を払拭したかっただけで、そちらの生活に入り込みたいわけではありません。……これで失礼したいと思いますが、最後にひとつだけ」と言いました。義嗣さんがわたしを見ました。
「あなたの奥さん、あなたのことまだ好きですよ。――あなたの『家族』を、大切にしてあげてください」
勇二兄さんがわたしを見ました。言いたいことが言えたので、わたしは「では」と言い、立ち去ろうときびすを返します。義嗣さんが「待て」とおっしゃり、止まりました。ちょっと振り返ります。
「……嫁に行くと聞いた」
勇二兄さんが言っちゃったのか。それともウワサ話か。公衆の面前でちーちゃんとそんな話したしな。わたしは「はい」と答えて、いちおう返答を待ちました。
「――……よかったな。……達者で、幸せに暮らせ」
落ちて広がった言葉は、まさか来ると思わなかったものでした。勇二兄さんすらびっくりして義嗣さんを見ています。わたしは「え? えぇ、あ、はい。承知しました。ありがとうございます」と言いました。びっくりした。
……お祝いいただいたことだし。ちゃんと頭を下げて退室しました。今度はひとりでもドアを開けられました。コツがありますねこれ。加藤さんが頭を下げて見送ってくれました。ありがとうございます。
エレベーターに乗り込もうとしたところで、勇二兄さんも追いついて来られました。一階だけ降りて、勇二兄さんのお部屋へ。
「はぁーい。ぜんぶコピーしてそれぞれ四部ファイリングしたよォ。PDFにしたやつも勇二に送っておいたから受け取ってー。専務に送ってあげてー」
「あ、はい。ありがとうございます、助かります!」
「原本は園子ちゃん持ちでいいの?」
「あー。勇二兄さん、保管してもらえます? わたしコピーでいいんで」
「わかった、預かる」
勇二兄さんと、外で打ち上げがてらなにか食べようと約束しました。たぶん真くんさんも来ます。十七時半を回っていたので先に玄関へ向かいました。ちーちゃんが待っている。守衛さんが受付に座っているので、仮パスはその方に返せばいいそうです。エレベーターに乗って一階まで降りたら、十二階あたりから各階より人が乗って来ました。みなさまお疲れ様です。
「ごめん、遅くなったー!」
「ぜんぜんだよー! わたしも着替えて今来たところだから!」
わたしが駆け寄ると、ちーちゃんは笑顔でそう言ってくれました。まず守衛さんへ仮パスを返して。ありがとうございました。向き直ると、ちーちゃんはスマホをスワイプし画面をわたしに向けました。ビデオ通話で、彩花ちゃんが『やっほー!』と言いました。
「あ、彩花ちゃん! この前はありがとう!」
『こちらこそだよー! 会えてよかった!』
帰宅して行く人々のじゃまにならないようちょっとだけ小声で。ちーちゃんが「あのね、遠くの国に行くんだって聞いたから。彩花ちゃんと相談したの」言うと、彩花ちゃんが『そー。長距離移動でも壊れたりかさばったりしないものってなんだろねーって。――ちょっとあんた、来なくていいから』と続けて言いました。画面に唯花ちゃんが出て来ました。満面の笑顔。かわいい。お互い手を振りました。
「あの、これなんだけど。片手でごめんね」
「わー、ありがとう! 中見ていい?」
『見て見てー!』
『みてみてー!』
包装を解いたら。あっ、かわいい、えー、こんなのあるんだ! 柴犬系わんこの、マドレーヌ型のセット!
「うっわー、かわいい!」
「あのね、わたしも買って、使ってみたんだけど。母さんのレシピ、ちょっとアレンジすればこれでも焼ける。書いて、入れておいたから」
『園子ちゃんが好きだったものなにかねーってウチらで話してさー。犬とシフォンケーキじゃね? ってことでー。日本製のしっかりしたやつだから、長く使えると思うー!』
『つかえるとおもうー!』
「うれしいー! ちょううれしい! ありがとう、がんばって作る、使う!」
レシピが増えた! しかもお道具まで! これは、ますますずぼらクッキングは今後許されない流れ! はいがんばります!
みんなで笑って、お互いねぎらって。わたしはすごくやさしい気持ちになって。
声をかけづらくてちょっと遠くからメッセージをくれていた勇二兄さんに気づくまで、三人で……じゃなくて四人でわいわい話し込んでいました。ありがとう。……みんなのこと、わすれないから。
スーツを着て、黒バッグを持って。書類の開封は現地ですることにしました。ないとは思うけど、中身差し替えたとか言われたら困るし。A4サイズの封筒は、三人分だからかちょっと厚めでした。
途中で買い物に寄りました。トランクケースをキャリーに乗せたみたいな、かわいい系スーツケースを買って家に届けてもらうようにしました。白いやつ。結局Lサイズ。……これで足りる。たぶん。
十五分前に三田本社へ着きました。真くんさんが、ちーちゃん含め受付のお三方に絡んでいました。なんか爆笑させてました。はい。わたしが近づいたら「来たねー」とこちらを向いて、仮パスを渡してくれました。そして「あのねー、ちーちゃんが話したいってー」とおっしゃいました。はい。
「――あの。今日、けっこう時間かかるのかな……?」
「いやぜんぜん。書類提出だけ」
「そうなんだ。わたし、十七時で終業なんだけど……玄関で待っててもいい?」
「えっ、うん。だいじょうぶ。なに?」
「あの……お祝い渡したくて。わたしと、彩花ちゃんから」
「ええー⁉ あっ、ありがとう、うれしい。さくっと終わらせて来るから」
「う……うん……?」
びみょうな返事が来ました。たぶんちーちゃんたちは、わたしがなにしに行くかは知らないと思いますけど。今まで没交渉だった父娘が今ごろキャッキャウフフするわけはないので、それなりにシリアス展開だってことは伝わっていると思います。はい。なんか苦笑いしている真くんさんに急き立てられてパスをピッとします。終業直前だからか、エレベーターを待っている人はいませんでした。
「で、結果どうだったのォ?」
真くんさんが、きっと緊張とかほぐすためにみたいな気遣いで、ゆっくりとした口調で尋ねて来られました。が、わたしは「まだ見てないので、わかりません!」と答えました。
「えっ、なんで⁉」
「未開封で、あちらから先に確認してもらった方がいいかと思って」
「……すんごい念の入れよう。だいじょうぶ、専務との血縁は僕が保証するよ」
「ありがとうございます! そこが一番不安です!」
そして二十八階。勇二兄さんが、お部屋でうろうろしていました。「結果は?」「まだ見てません!」「なんで⁉」をもう一度やりました。はい。
五分前。言葉なくわたしたちは社長室へ。なぜか真くんさんもいっしょに。秘書の加藤さんが深々としたお辞儀で「お待ちしておりました」と迎えてくれました。
「――こんにちは。一週間ちょっとぶりです」
デスクに座っていらっしゃいました。かけていた黒縁メガネを外して、わたしをご覧になります。老眼なのかな。わたしはすたすたそこまで歩いて行って、黒バッグから未開封の封筒を取り出して置きました。
「どうぞ。まだ確認していません」
目を落とし、少しの間じっと封筒をご覧になっていました。そして、ペン立てからきれいなバターナイフみたいなペーパーナイフを取り出して、封筒を手にされます。勇二兄さんがすぐ後ろまで来ました。音もなく開封されます。
ひとつまみくらいある量の書類でした。上から順番に目を通して、左手側に置いて行かれます。ぜんぶご覧になってから、わたしへとすべて渡してくれました。無言で受け取り、目を落とします。勇二兄さんが肩越しに覗き込んで来られました。ごていねいに、一番上の書類をサンプルIDの番号表にしてくれていました。わたしはどれだ。これか。勇二兄さんに渡します。
二枚目が、わたしの鑑定結果でした。
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DNA父子鑑定結果報告書
続柄 検体 性別
擬父 毛髪 男
子 毛髪 女
検査項目 DNA父子鑑定
結果
父と思われる男性は、子の生物学的父として排除されません。
(添付1,2及び3の分析結果を参照)
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……排除されませんってどういうことですか。君の日本語わかりづらいねってよく言われない? さらにその下の書類。は、検体の毛根の写真。さらに下。
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【テスト結果の解析】
擬父は、子の生物学的父であると判断されます。24の異なるDNA座の解析から得られたテスト結果による、父権肯定確率は99.99999999994%以上であります。この父権肯定確率は、血縁関係のないアジア人種に対して、事前確率を0.5と仮定し算出されました。
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とりあえず、他の書類の数字も確認しました。ぜんぶ同じでした。はい、終了ー。
「――おつかれさまでした!」
わたしが深々と一礼すると、なぜか勇二兄さんがぺこっとわたしに頭を下げました。社畜条件反射でしょうか。「――では、これ、ぜんぶコピーさせてください。あと、PDFかなんかで一希兄さんにも送っていいですよね?」と確認すると、義嗣さんは「――ああ」とおっしゃいました。勇二兄さんが真くんさんへ、書類一式を手渡しました。コピーしに行ってくれたみたいです。
「そちらで提出したサンプルの結果ってまだ出ていないんです?」
「いや……出さなかった」
わたしが尋ねると、義嗣さんは小さいゲンドウポーズみたいのをして、どこか部屋の隅っこを見ていました。なんでだよ、ダブルチェックしようねって言ったじゃん。そう思ったところ「――必要ないだろう。……それで十分だ」とのことでした。そうですか。
「じゃあ、ご納得いただけたということでしょうか?」
「……ああ、わかった。――おまえは私の娘だ」
「よし」
思わずうなずいて是認してしまいました。すみません年長の方へ。勇二兄さんがそわそわしています。わたしは「――最初に言いました通り、わたしはわたしに関する疑念を払拭したかっただけで、そちらの生活に入り込みたいわけではありません。……これで失礼したいと思いますが、最後にひとつだけ」と言いました。義嗣さんがわたしを見ました。
「あなたの奥さん、あなたのことまだ好きですよ。――あなたの『家族』を、大切にしてあげてください」
勇二兄さんがわたしを見ました。言いたいことが言えたので、わたしは「では」と言い、立ち去ろうときびすを返します。義嗣さんが「待て」とおっしゃり、止まりました。ちょっと振り返ります。
「……嫁に行くと聞いた」
勇二兄さんが言っちゃったのか。それともウワサ話か。公衆の面前でちーちゃんとそんな話したしな。わたしは「はい」と答えて、いちおう返答を待ちました。
「――……よかったな。……達者で、幸せに暮らせ」
落ちて広がった言葉は、まさか来ると思わなかったものでした。勇二兄さんすらびっくりして義嗣さんを見ています。わたしは「え? えぇ、あ、はい。承知しました。ありがとうございます」と言いました。びっくりした。
……お祝いいただいたことだし。ちゃんと頭を下げて退室しました。今度はひとりでもドアを開けられました。コツがありますねこれ。加藤さんが頭を下げて見送ってくれました。ありがとうございます。
エレベーターに乗り込もうとしたところで、勇二兄さんも追いついて来られました。一階だけ降りて、勇二兄さんのお部屋へ。
「はぁーい。ぜんぶコピーしてそれぞれ四部ファイリングしたよォ。PDFにしたやつも勇二に送っておいたから受け取ってー。専務に送ってあげてー」
「あ、はい。ありがとうございます、助かります!」
「原本は園子ちゃん持ちでいいの?」
「あー。勇二兄さん、保管してもらえます? わたしコピーでいいんで」
「わかった、預かる」
勇二兄さんと、外で打ち上げがてらなにか食べようと約束しました。たぶん真くんさんも来ます。十七時半を回っていたので先に玄関へ向かいました。ちーちゃんが待っている。守衛さんが受付に座っているので、仮パスはその方に返せばいいそうです。エレベーターに乗って一階まで降りたら、十二階あたりから各階より人が乗って来ました。みなさまお疲れ様です。
「ごめん、遅くなったー!」
「ぜんぜんだよー! わたしも着替えて今来たところだから!」
わたしが駆け寄ると、ちーちゃんは笑顔でそう言ってくれました。まず守衛さんへ仮パスを返して。ありがとうございました。向き直ると、ちーちゃんはスマホをスワイプし画面をわたしに向けました。ビデオ通話で、彩花ちゃんが『やっほー!』と言いました。
「あ、彩花ちゃん! この前はありがとう!」
『こちらこそだよー! 会えてよかった!』
帰宅して行く人々のじゃまにならないようちょっとだけ小声で。ちーちゃんが「あのね、遠くの国に行くんだって聞いたから。彩花ちゃんと相談したの」言うと、彩花ちゃんが『そー。長距離移動でも壊れたりかさばったりしないものってなんだろねーって。――ちょっとあんた、来なくていいから』と続けて言いました。画面に唯花ちゃんが出て来ました。満面の笑顔。かわいい。お互い手を振りました。
「あの、これなんだけど。片手でごめんね」
「わー、ありがとう! 中見ていい?」
『見て見てー!』
『みてみてー!』
包装を解いたら。あっ、かわいい、えー、こんなのあるんだ! 柴犬系わんこの、マドレーヌ型のセット!
「うっわー、かわいい!」
「あのね、わたしも買って、使ってみたんだけど。母さんのレシピ、ちょっとアレンジすればこれでも焼ける。書いて、入れておいたから」
『園子ちゃんが好きだったものなにかねーってウチらで話してさー。犬とシフォンケーキじゃね? ってことでー。日本製のしっかりしたやつだから、長く使えると思うー!』
『つかえるとおもうー!』
「うれしいー! ちょううれしい! ありがとう、がんばって作る、使う!」
レシピが増えた! しかもお道具まで! これは、ますますずぼらクッキングは今後許されない流れ! はいがんばります!
みんなで笑って、お互いねぎらって。わたしはすごくやさしい気持ちになって。
声をかけづらくてちょっと遠くからメッセージをくれていた勇二兄さんに気づくまで、三人で……じゃなくて四人でわいわい話し込んでいました。ありがとう。……みんなのこと、わすれないから。
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