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ACT2 拷問

#1 ハル①

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 気を失ったリコを肩に担ぎ、タクシーに乗せた。
 長身で巨乳のリコはかなりの重さのはずだが、ハルにとってはつまようじを扱うようなものである。
 地球より重力の強い惑星育ちのハルは、見かけによらず怪力なのだ。
 ただひとつ誤算だったのは、いつのまにかタクシーの助手席に、見知らぬ小娘が乗っていたことだった。
「なんだ? おまえは?」
 運転手に行く先を告げ、車が走り出すとハルはたずねた。
「どうしてそんなところに乗っている?」
 不測の事態である。
 宇宙刑事とあろうものが、今の今までまったく気づかなかった。
 ただ者ではないな。
 ハルの心に猜疑心が沸き上がる。
 見た目は可愛らしい十代前半の少女だが、まず恰好からして怪しい。
 なぜかだぶだぶの学ランを着ているのだ。
「どうしてって…」
 少女がバックミラー越しにハルを見た。
 困惑したような表情をその愛くるしい顔に浮かべている。
「行くところがないからですぅ」
「行くところがない? 家出少女なのか?」
 ハルはブレスレットに手をやった。
 いざとなったらこいつで感電させるまで。
 行く先は港のほうだから、気を失ったところを海にでも放り込んでしまえばいい。
「アリアって言います。でも、それしか覚えていないんですぅ」
 少女の口調は独特だった。
 語尾を甘ったるく伸ばす癖があるのだが、それがハルには耳障りだ。
「ふむ。記憶喪失の家出少女というわけだな。しかし、だからといって、ひとの呼んだタクシーに勝手に乗っていいという法はあるまい」
「リコさまをどうするんですか?」
 シートの背もたれ越しに振り向くと、身を乗り出して少女が訊いてきた。
「リコさまはアリアの命の恩人なんです。アリア、一生リコさまについてくって決めたんですぅ」
「恩人? ああ、さっきの怪物か」
 ハルは思い出した。
 巨大化したリコが倒す直前、怪物が追い回していたのはこの少女だったのだ。
「そうですそうです! アリア、怖くて怖くて、もう少しでおしっこちびりそうだったんですよ」
「私はこの女に訊かねばならぬことがある。これは重要な任務なのだ。子どもの出る幕ではない」
 後部座席の隣でぐったりとなっているトレンチコート姿のリコを見て、ハルは言った。
「アリアは子どもじゃないです! ちゃんとおっぱいもふくらんでます! ほら」
 アリアが学ランの前をはだけると、。体にぴったりした黒いビスチェを押し上げるふくよかな胸が現われた。
 う。
 一瞬絶句するハル。
『きしししし。ハルのよりおっきいみたいでんな』
 ハルの頭の中に、セラフィムの嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。
 ハルはむっとした。
『馬鹿者。それは禁句だ。二度と言うな』
『こんな子供に負けるなんて、貧乳はつらいねえ』
「だから、貧乳ではないと言っている!」
 沸騰するヤカンよろしく、ふと我に返ると、つい口に出して叫んでしまっていた。
「宇宙刑事さん、貧乳なんですかあ?』
 無邪気な口調で、アリアが訊いた。
 その時、タクシーが停まった。
「着きましたよ。金城ふ頭です」
 笑いをかみ殺した声で、運転手が言った。 



 
 
 
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