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ACT10 淫靡な特訓

#21 リコ⑭

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 それにしても、痛い。
 リコは怪獣の大顎を両手でつかみ、少しでも脇腹の負担を軽くしようとする。
 が、起重機のようなこの昆虫怪獣の馬鹿力は、明らかにリコの膂力を上回っていた。
 ノコギリ状のトゲが深く皮膚に食い込み、骨にまで届いている。
 あばら骨が軋み、内蔵が強く圧迫される。
 傷口から噴き出す血で、リコの腰から下はすでに真っ赤に濡れている。
「ふふふふ、苦しいだろう。このメガクワガタっちの大顎は、戦車の装甲すらをも楽に砕くのだ。MILKYよ。おまえがいくら丈夫でも、あと1分も持つまいて」
 今は放映禁止の往年のアニメ、みなしご〇ッチじみた昆虫人間、野戸珍子が小躍りしながらのたまった。
『なにがメガクワガタっちだ。こっちが大人しくしてりゃ、好き勝手やりやがって。どうせ、変身してられる時間は、あと1分もないんだよ。おい、イオ』
 腹立ちまぎれに、リコは前頭葉のイオに思念を送った。
『何かこの状況で使える武器はないのかよ? これじゃ、サーベルも出せないし、身体が密着しすぎておっぱいビームも使えない。このままだと、変身が解けると同時に潰されちまう』
『そんなことだと思って、今、MILKYの機能を更新したところです。敵と密着した状態で使用できる武器。それをひとつ用意してみました』
『何だよそれ? そんならそうで、早く言えよな』
『更新がうまくいくかどうか、わからなかったもので。なんせ、古いデータをもとにしたものですから』
『なんでもいいさ。もう時間がない。どうすればいい?』
 バイザーに映るカウントダウンの数字が30を切った。
 さすがにリコの口調にも焦りがにじむ。
『もっと乳房を敵に押しつけてください。できれば複眼に乳首が当たるぐらいまで』
『こ、こうか?』
 思い切って大顎から手を放し、メガクワガタっちの巨大な頭部を抱え込んでみた。
 顎が一気に脇腹にめり込むのが分かった。
 痛みが増し、骨の折れる音が響いてきた。
 まずい。
 リコは青ざめた。
 このままでは、身体がまっぷたつになってしまう。
『では、行きます』
 改まった口調で、イオが言った。
『新兵器、乳首ドリル!』
『乳首ドリル? なんだよそれ? ったく、芸人のネタじゃあるまいし』
 リコがぼやいた、その瞬間である。
 金と銀の乳首が引っ込み、代わりにらせんの溝を刻んだ鈍色のドリルの先端が2基、現れた。
 グイーイイイイイイイイイーン!
 甲高い回転音とともに、ドリルが突き刺さった。
 透明な体液をほとばしらせて、怪獣の複眼が砕け散る。
 ギユワアアアアン!
 大顎が離れた。
 弾かれたように後退するメガクワガタっち。
 その頭の上では、ノドチンコがバランスを崩してオタオタしている。
「やった。効いた」
 リコは呆然と、蟻地獄の中に逃げ込もうとする怪獣を眺めた。
 その時、勝ち誇った”口調”でイオが叫んだ。
『逃がしてはなりません。今です! リコ! とどめを刺すのです!』
『あ、ああ』
 あと10秒。
 ドリルが引っ込み、金と銀の乳首が戻ってくる。
 リコの乳首は、必殺技の起動装置をも兼ねている。
 その先っぽを、左右同時に人差し指で押し込んだ。
 振動音が響き、逆らせんを描いてチェストアーマーが開いていく。
 その下からせり上がってきたのは、ブリリアンカットに磨かれた壮麗なダイヤモンドおっぱいである。
「行くぜ」
 リコは胸を張り、バイザーの内側に浮かび上がった照準器で、狙いを定めた。
「や、やめて!」
 ノドチンコがうろたえ、叫んだ。
 リコの乳房の中に光子が充満するのを目の当たりにして、その顔が恐怖に歪んでいる。
 全身に力をこめ、リコは唸り声とともに咆哮した。
「くらえ! おっぱいビーム!」
 

 


 

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