380 / 625
#356話 施餓鬼会㉑
しおりを挟む
警察の調査が終わるのを待って、牛舎の後片付けを手伝った。
ひと通り落ちついたのをめどに、牛たちのケアから戻ってきた菜緒に声をかけた。
「よかったらちょっと付き合ってもらえないかな?」
「いいですけど、何ですか?」
意外にあっさり承諾されたので少々面食らっていると、
「どうせ大学は夏休み中ですから。生態系の調査は自由研究みたいなものなので」
と補足された。
「まあ、夏休みといっても、農学部の連中はあちこちで自主活動してるわけですけどね」
遠ざかる農業試験場を振り返り振り返り、自転車の荷台に跨った菜緒が言う。
「それで、行く先は?」
「興安寺。あそこに見える小山の上のお寺なんだけど」
「興安寺なら知ってます。住職さんに、カブトムシの幼虫を譲ってもらったこともありますから」
「昆虫も守備範囲なんだ」
「いえ、カブトムシは趣味で」
相変わらず、変わった娘である。
それだからこそ、私の思い付きにちょうどいい。
竹林の入口に自転車を止め、参道を徒歩で上がった。
住職はちょうど境内を竹ぼうきで掃き掃除しているところだった。
明日の施餓鬼会に備えてか、ずいぶんきれいになっている。
「きょうはどうしたんですか? あれ、菜緒ちゃんも一緒じゃないの」
参道を上がってきた私たちを目にとめると、ほうきの手を休めて破顔した。
「明日の施餓鬼会ですが、どんな段取りなんですか?」
ハンカチで流れる汗を拭き拭き尋ねると、
「施餓鬼会といっても、たいして派手なイベントがあるわけではありませんよ。参拝客の皆さんを本堂にお集めして、昔から伝わる儀式を行うだけです。時間は夕方の五時から約一時間ぐらいでしょうか。その後、少し講話などをいたしまして、七時には終了になります」
「意外に早く終わるんですね。ならちょうどいい。夜が空いてるってのもラッキーだ」
「何がラッキーなんですか?」
横から菜緒が口を出す。
「施餓鬼会の後、罠を仕掛けて、本物の餓鬼を捕まえるんだよ」
「はあ?」
住職の目が点になった。
「本物の餓鬼? どういうことです?」
「最近、この村の周囲で、正体不明の獣による被害が続出しています。今朝も試験場の牛がやられたし、寝たきりのうちの親父も危うく殺されかけた。これ以上、やつらを放置しておくわけにはいかないと思うんです」
「うわさは聞いていますが、あれは、熊か野犬のしわざなのでは?」
「いえ、そうではないのです」
私は大きくかぶりを振り、住職の目を見て、きっぱりと言い切った。
「はっきりこの目で見たので。あれは獣などではありません。間違いなく、餓鬼ですよ」
ひと通り落ちついたのをめどに、牛たちのケアから戻ってきた菜緒に声をかけた。
「よかったらちょっと付き合ってもらえないかな?」
「いいですけど、何ですか?」
意外にあっさり承諾されたので少々面食らっていると、
「どうせ大学は夏休み中ですから。生態系の調査は自由研究みたいなものなので」
と補足された。
「まあ、夏休みといっても、農学部の連中はあちこちで自主活動してるわけですけどね」
遠ざかる農業試験場を振り返り振り返り、自転車の荷台に跨った菜緒が言う。
「それで、行く先は?」
「興安寺。あそこに見える小山の上のお寺なんだけど」
「興安寺なら知ってます。住職さんに、カブトムシの幼虫を譲ってもらったこともありますから」
「昆虫も守備範囲なんだ」
「いえ、カブトムシは趣味で」
相変わらず、変わった娘である。
それだからこそ、私の思い付きにちょうどいい。
竹林の入口に自転車を止め、参道を徒歩で上がった。
住職はちょうど境内を竹ぼうきで掃き掃除しているところだった。
明日の施餓鬼会に備えてか、ずいぶんきれいになっている。
「きょうはどうしたんですか? あれ、菜緒ちゃんも一緒じゃないの」
参道を上がってきた私たちを目にとめると、ほうきの手を休めて破顔した。
「明日の施餓鬼会ですが、どんな段取りなんですか?」
ハンカチで流れる汗を拭き拭き尋ねると、
「施餓鬼会といっても、たいして派手なイベントがあるわけではありませんよ。参拝客の皆さんを本堂にお集めして、昔から伝わる儀式を行うだけです。時間は夕方の五時から約一時間ぐらいでしょうか。その後、少し講話などをいたしまして、七時には終了になります」
「意外に早く終わるんですね。ならちょうどいい。夜が空いてるってのもラッキーだ」
「何がラッキーなんですか?」
横から菜緒が口を出す。
「施餓鬼会の後、罠を仕掛けて、本物の餓鬼を捕まえるんだよ」
「はあ?」
住職の目が点になった。
「本物の餓鬼? どういうことです?」
「最近、この村の周囲で、正体不明の獣による被害が続出しています。今朝も試験場の牛がやられたし、寝たきりのうちの親父も危うく殺されかけた。これ以上、やつらを放置しておくわけにはいかないと思うんです」
「うわさは聞いていますが、あれは、熊か野犬のしわざなのでは?」
「いえ、そうではないのです」
私は大きくかぶりを振り、住職の目を見て、きっぱりと言い切った。
「はっきりこの目で見たので。あれは獣などではありません。間違いなく、餓鬼ですよ」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる