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#352話 施餓鬼会⑰
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「感染症の、中間宿主・・・?」
私は携帯水槽の中の小さな貝たちをまじまじと見つめた。
「それってひょっとして、日本住血吸虫症みたいな風土病のことを、言ってるんですか?」
「はい、その通りです。よくご存じですね」
菜緒の顔に初めて私に対して興味を覚えた、といった表情が浮かんだ。
「日本住血吸虫症は、かつて山梨県、広島県、佐賀県などの一部の地域で見られた風土病です。淡水のミヤイリガイという巻貝を中間宿主とした寄生虫が、人の身体の中に侵入し、肝臓の門脈あたりに巣くって増殖する。感染した患者は高熱と下痢に悩まされ、次第に腹部が膨張し、ひどい時には知能に障害が現れたり、子供の場合は成長が止まってしまうこともある…」
「でも、あの病気はもう根絶されたんですよね? 何かで読んだことがありますけど」
呪文のような菜緒の長広舌を遮るようにして、私は言った。
腹部の膨張・・・。
その一言が、耳の中で反響する。
「ええ。何十年にもわたる医師や研究者たちの努力の末、中間宿主のミヤイリガイが絶滅し、病気自体、消えたと言われています」
「なのに、また・・・? しかも、よりによって、ここで?」
「ここ1か月ほどの間に、この村で体調不良を訴える人が続出しています。患者さんたちに共通しているのは、腹部の異様な膨張、食べても食べても収まらない飢餓感、それでいて、腹部以外はなぜかどんどん痩せていくといった症状だそうです。あと、頭髪も抜け落ちて、わずか一日で見るも無残な状態に陥ってしまうのだとか…」
「よく知ってますね。そんな話、ニュースでもやってなかったが」
「G市の大学病院に大学の友人が何人か研修医として勤めているので、マスコミに公表されていない最新情報が、いやでも耳に入ってきちゃうので…」
「じゃ、じゃあ、おととい起こった川遊びの子供たちの集団体調不良・・・。あれが初めてじゃなかったんだ」
「そうですね。最初の症例が見つかったのは、7月頭頃だと聞いています。これは私個人の見解ですし、今まさに検証中ではあるのですが、この貝を中間宿主とする新たな風土病の可能性が高いですね」
「新しい風土病・・・」
「はい。ただ、解せないのは、この貝、この春までは一匹もいなかったってことです。多分新種だと思うんですけど、この土地の水域で2年間生態系調査をやってきて、見つけたのはこの夏が初めてなんです。そしたら、それに呼応するかのように、謎の病気が村に蔓延し始めた…」
私は携帯水槽の中の小さな貝たちをまじまじと見つめた。
「それってひょっとして、日本住血吸虫症みたいな風土病のことを、言ってるんですか?」
「はい、その通りです。よくご存じですね」
菜緒の顔に初めて私に対して興味を覚えた、といった表情が浮かんだ。
「日本住血吸虫症は、かつて山梨県、広島県、佐賀県などの一部の地域で見られた風土病です。淡水のミヤイリガイという巻貝を中間宿主とした寄生虫が、人の身体の中に侵入し、肝臓の門脈あたりに巣くって増殖する。感染した患者は高熱と下痢に悩まされ、次第に腹部が膨張し、ひどい時には知能に障害が現れたり、子供の場合は成長が止まってしまうこともある…」
「でも、あの病気はもう根絶されたんですよね? 何かで読んだことがありますけど」
呪文のような菜緒の長広舌を遮るようにして、私は言った。
腹部の膨張・・・。
その一言が、耳の中で反響する。
「ええ。何十年にもわたる医師や研究者たちの努力の末、中間宿主のミヤイリガイが絶滅し、病気自体、消えたと言われています」
「なのに、また・・・? しかも、よりによって、ここで?」
「ここ1か月ほどの間に、この村で体調不良を訴える人が続出しています。患者さんたちに共通しているのは、腹部の異様な膨張、食べても食べても収まらない飢餓感、それでいて、腹部以外はなぜかどんどん痩せていくといった症状だそうです。あと、頭髪も抜け落ちて、わずか一日で見るも無残な状態に陥ってしまうのだとか…」
「よく知ってますね。そんな話、ニュースでもやってなかったが」
「G市の大学病院に大学の友人が何人か研修医として勤めているので、マスコミに公表されていない最新情報が、いやでも耳に入ってきちゃうので…」
「じゃ、じゃあ、おととい起こった川遊びの子供たちの集団体調不良・・・。あれが初めてじゃなかったんだ」
「そうですね。最初の症例が見つかったのは、7月頭頃だと聞いています。これは私個人の見解ですし、今まさに検証中ではあるのですが、この貝を中間宿主とする新たな風土病の可能性が高いですね」
「新しい風土病・・・」
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