334 / 625
第310話 離島怪異譚⑱
しおりを挟む
「け、警察、呼ばないんですか?」
訊くと、晴馬が恐ろしい目で睨んできた。
「海魔の仕業とわかっちょるのに、警察なぞ必要ないじゃろ」
「でも…」
「この島にそんな化け物が住んどることが、本土の人間に知られてみろ。どんな騒ぎになるかわからんじゃろが」
「逆に、観光名所になるかもしれないじゃないですか」
「アホな。海魔は見境いなく人を殺すんじゃぞ。そんなぶっそうな所に誰が来る?」
言い合っていると、晴馬が呼んだ屈強な従業員、つまり漁師たちが入ってきて、いささかもためらうことなく、スムーズな手つきで野崎のなれの果てを大きなポリバケツに入れ、回収していった。
まるで、前にも同じようなことがあり、その処理に馴れているような感じだった。
「あんたも、調査はあきらめて帰ったほうがいいかもしれんな」
再びふたりだけになると、晴馬が言った。
同感だった。
野崎が死んだことに対する悲しみはなかった。
私が薄情な性格であるというより、死に方があまりにも常識離れしていて、実感が湧かないせいだった。
野崎は、ニートがそのまま社会に出てきたような、役立たずで食えない若造だったけど、可愛い所もあった。
彼を失った痛みは、きっともう少し後で、私自身の安全が確保できた頃、やってくるのだろう。
「けど、私、海魔を見てるんですよ。晴馬さんは、そんな私を、本土に戻しちゃっていいんですか?」
「伝説の海魔が連続バラバラ殺人事件の真犯人だった…。そんな話、誰が信じる? 何か証拠があれば別じゃが」
「写真なら、野崎君が撮ってるかもしれない。もしかしたら、動画も」
カメラマンは野崎の役である。
あの洞窟内の様子や、少女に化けた海魔を、スマホで撮っていた可能性はある。
「仮にそうだったとしても、どうじゃろな。今はほれ、写真も動画もアプリとかで加工し放題じゃろ。どんなブスでも簡単に韓国風整形美女になる。仮に警察に見せたところで、フェイク動画と思われるのがオチって気がするが」
「そう…ですね」
私はため息をついた。
一理ある、と思った。
晴馬の例えは乱暴すぎるが、確かに現代社会では、技術が進み過ぎたせいで、何が真実なのか、まるでわからなくなっているのだ。
SNSを覗けば、きっと海魔に似た化け物をアップした偽動画なんて、簡単に見つかるに決まっている。
「そうします」
しばしの逡巡ののち、私は言った。
一番の理由は、自分事だった。
一刻も早く、大きな病院の産婦人科で検査を受けないと。
本土に帰れば、それができる。
晴馬にあの屈辱的な体験を打ち明ける必要もない。
「そうか。なら、早い方がいい」
晴馬が表情を和らげた。
「今からなら、フェリーの最終便に間に合うよ。車で波止場まで送ってやろう」
「ありがとうございます」
晴馬の親切に、不覚にも目頭が熱くなった。
この漁師の頭領、若いけど、本当にいいひとなのだ…。
訊くと、晴馬が恐ろしい目で睨んできた。
「海魔の仕業とわかっちょるのに、警察なぞ必要ないじゃろ」
「でも…」
「この島にそんな化け物が住んどることが、本土の人間に知られてみろ。どんな騒ぎになるかわからんじゃろが」
「逆に、観光名所になるかもしれないじゃないですか」
「アホな。海魔は見境いなく人を殺すんじゃぞ。そんなぶっそうな所に誰が来る?」
言い合っていると、晴馬が呼んだ屈強な従業員、つまり漁師たちが入ってきて、いささかもためらうことなく、スムーズな手つきで野崎のなれの果てを大きなポリバケツに入れ、回収していった。
まるで、前にも同じようなことがあり、その処理に馴れているような感じだった。
「あんたも、調査はあきらめて帰ったほうがいいかもしれんな」
再びふたりだけになると、晴馬が言った。
同感だった。
野崎が死んだことに対する悲しみはなかった。
私が薄情な性格であるというより、死に方があまりにも常識離れしていて、実感が湧かないせいだった。
野崎は、ニートがそのまま社会に出てきたような、役立たずで食えない若造だったけど、可愛い所もあった。
彼を失った痛みは、きっともう少し後で、私自身の安全が確保できた頃、やってくるのだろう。
「けど、私、海魔を見てるんですよ。晴馬さんは、そんな私を、本土に戻しちゃっていいんですか?」
「伝説の海魔が連続バラバラ殺人事件の真犯人だった…。そんな話、誰が信じる? 何か証拠があれば別じゃが」
「写真なら、野崎君が撮ってるかもしれない。もしかしたら、動画も」
カメラマンは野崎の役である。
あの洞窟内の様子や、少女に化けた海魔を、スマホで撮っていた可能性はある。
「仮にそうだったとしても、どうじゃろな。今はほれ、写真も動画もアプリとかで加工し放題じゃろ。どんなブスでも簡単に韓国風整形美女になる。仮に警察に見せたところで、フェイク動画と思われるのがオチって気がするが」
「そう…ですね」
私はため息をついた。
一理ある、と思った。
晴馬の例えは乱暴すぎるが、確かに現代社会では、技術が進み過ぎたせいで、何が真実なのか、まるでわからなくなっているのだ。
SNSを覗けば、きっと海魔に似た化け物をアップした偽動画なんて、簡単に見つかるに決まっている。
「そうします」
しばしの逡巡ののち、私は言った。
一番の理由は、自分事だった。
一刻も早く、大きな病院の産婦人科で検査を受けないと。
本土に帰れば、それができる。
晴馬にあの屈辱的な体験を打ち明ける必要もない。
「そうか。なら、早い方がいい」
晴馬が表情を和らげた。
「今からなら、フェリーの最終便に間に合うよ。車で波止場まで送ってやろう」
「ありがとうございます」
晴馬の親切に、不覚にも目頭が熱くなった。
この漁師の頭領、若いけど、本当にいいひとなのだ…。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる