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第252話 黄金仮面(後編)

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 腸詰帝国とは、謎の”皇帝”珍朴菜が創設した私設王国である。
 徴兵令ならぬ徴肉令を発し、日本人を食肉化してハンバーガーショップで売る、というのが究極の目的だ。
 そのあまりに愚かしい野望を知り、僕は呆れ返って富士の樹海にある帝国の秘密基地を飛び出した。
 そうして仮面の力を借りてヒーローに変身し、日夜帝国が送り込んでくる怪人たちと闘っているのだがー。

 4月に入ったとはいえ、外は思ったより寒かった。
 その気温の低さは、二日酔いの体調と、薄い生地一枚きりのボデイスーツ姿にはけっこうなダメージだった。
 そんなわけで、現地に到着した時、僕はほとんど青息吐息の状態だったのだ。
「うふふふふ、待ってたわよ。黄金仮面」
 ショッピングセンターの1階フロアに飛び込むと、はるかな高みから女の声が降ってきた。
 例のトンボ女である。
 長大なエスカレーターを登り切った先から、勝ち誇ったように僕を見下ろしている。
 僕同様、ピチピチのボデイスーツを身に着けたトンボ女は、見るからにセクシーな姿をしていた。 
 スーツはほとんど皮膚と変わらないほど薄いので、紡錘形の乳房の形がくっきり浮き出て見えるのだ。
 それは僕の股間のもっこりと同じく、腹部に開いた”窓”から見る者の目を逸らすための仕掛けでもある。
「出たな、怪人! 今すぐ征伐してくれる! とうっ!」
 乾坤一擲、僕はジャンプを決めた。
 黄金仮面の力があれば、この程度の距離などひと飛びだ。
 ところがー。
「かかったわね!」
 トンボ女が嬉しそうに叫んだかと思うと、鞭と化した右腕をひと振りして、僕に打擲を与えてきたのである!
「ああっ!」
 したたかに腹を撃たれ、僕は上りエスカレーターの登り口に墜落した。
「くらえ!」
 立ち上がろうとしたところに第二撃。
「これでもか!」
 よろめくと第三撃が腹部を直撃した。
「う、うう…」
 僕は腹を押さえて蒼ざめた。
 グルルルル…。
 嫌な音が耳につく。
 や、やばい…。
 鞭の威力など、大したことはない。
 怪人とはいえ、しょせんは女。
 普段の僕なら笑い飛ばせるほどだ。
 だが、狙われた部位が悪かった。
 昨夜の宴会での暴飲暴食。
 今朝の寒さ。
 それらが束になって、僕の大腸を痛めつけていた。
 そしてそのことは、トンボ女もお見通しだったようだ。
「うふふふふ、黄金仮面、今朝のあなたの腹具合は、その”窓”見れば一目瞭然。蒼ざめてパンパンに膨らんだ大腸、。あたしの綺麗なピンク色の大腸とは大違い! その中には、いったい何が詰まっているのかしら?」
 ま、まさか…。
 一瞬にして、僕は悟った。
 これは、罠?
 きのう僕をベロベロに酔わせたあの上司、あいつも帝国の工作員だったとしたら…。
「な、なんだと?」
 虚勢を張ろうとした瞬間、{きいっ!」という掛け声とともに、待機していた戦闘員が僕を羽交い絞めにした。
 両腕を捻じ曲げられ、無防備に突き出た腹に、ギュイーンと伸びてきたトンボ女の鞭が無情にも炸裂する。
「や、やめろ…」
 尻の肉をもぞつかせて、僕はうめいた。
 まずい。
 もう限界だ。
 ここでもう一発くらったら…。
「お願いだ、やめて、くれ…」
 恥も外聞もなく、涙目になりながら懇願した、その瞬間だった。
「あははははは! いいザマね! 死んでおしまい!」
 哄笑とともに、鞭がうなりを上げー。
「ああ、だめえっ!」
 少女のようなその叫び声には、もしかして、性的興奮の響きすら、こめられていたかもしれない。
 それほど、その刹那、僕が感じた解放感はすごかった。
 まさしく、射精時のオーガズムと区別がつかないほどに。
 おそらくこの時僕は、股間のもっこりを最高潮に際立たせ、完全勃起までしていたに違いないー。
 破裂音に打たれるように、僕は跳ねた。
 ぶひっ!
 ぶりぶりぶりぶり!
 ぶちゅちゅちゅ!
「あああああっ!」
 大爆発を起こす大腸。
 肛門から吹き出る黄土色の糞便がボデイスーツの中にすさまじい勢いで溜まっていく。
 そのうち、名状しがたい悪臭を放つドロドロの液体が全身を覆いつくし…。
「きもち、いい…」
 クソにまみれてエスカレーターに倒れ込んだ僕は、なすすべもなくそのまま2階へと運ばれていった…。


 翌日から僕は、恥辱的な名で呼ばれることになった。
 黄金仮面ならぬー。
 その名も、”黄土色仮面”である。
 
 


 
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