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戴冠の間2
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「よくぞ戻ってくれた。王家の正統であるルリア王女よ。
この度はご苦労であった」
「ご心配をおかけしましたが、無事に戻って参りました。
陛下にご報告できる機会を与えて頂き感謝致します」
「ああ、待っていた。
隣国ダルトタナードの第一王子であるベルラード王子も心より歓迎する」
「温かい歓迎に感謝致します」
ベルラードが頭を下げると陛下は一度頷き、そして立ち上がった。
「ここにいる皆に言っておく。
先王であるヴィルドルフ王の娘であるルリア・アルンフォルト王女は、王命で隣国ダルトタナードへ渡っていた。
ルリア王女が祈りの儀を終え、この国を去ったのは、王である私の指示だ。
世間では悪い噂が広まっているようだが、ルリア王女は自ら王宮を出て行ったのではなく王命だ。
それをまずここではっきりと伝えておく」
「なっ‥‥」
戴冠の間は騒然とする。
「リベール様!何を仰るのです!その娘は自ら王宮を飛び出して逃げたのですよ」
「黙れライナ!
お前はルリアが出て行った理由を知らないと言っていたはずだ!
私に嘘をついていたのか?
本当は理由を知っていたということだな?」
「あ‥いえ‥、そのようなことはございませんが、リベール様は祈りの儀を終えたルリア様とお会いになってないと‥‥そう仰っておられたではないですか。
それなのに王命だなんて嘘を」
「誰に言っている!!
立場をわきまえていないのはお前だ!」
「も‥申し訳ございません」
普段は優しい口調のリベール陛下の怒鳴り声に場は凍りついた。
「皆王家を甘くみているようだな。
今一度、王家の権威を示す必要があるようだ」
ピリッと張り詰めた空気になる。
「ダルトタナードの王子が来られているのだ。
この国の新たな歴史の立会人になってもらおう」
「どういうことですか?リベール様‥‥」
「これから話す事実を皆に聞いてもらいたい。
それは先王ヴィルドルフとその妃アリアン王妃の死についてだ。
二人の死は事故ではなく、そこにいるバンホワイト公爵とその娘、ライナ王妃の策略によるものだった」
「なっ!!」
会場は一段と騒がしくなった。
所狭しと並ぶ貴族達は驚きを隠せない。
初めて知る事実に驚きを禁じ得ないのは当然だ。
「何を仰っているのです!突然そのようなでたらめを言うのはやめて下さい!
皆混乱しておりますわ!」
「そうです陛下!王妃様の言う通りそれはでたらめでございます」
「うるさい黙れ!皆黙れ!黙れと言っている!!」
鬼気迫るその凄まじい姿にピタリと声は止まった。
「王である私の許可がない者は今この時より決して口を開くな。
よいな?
もし勝手に口を開いて話の邪魔をする者がいれば、その場で取り押さえ牢へ入れる。
その家は取り潰しとする」
「ひっ‥‥」
口元に慌てて皆が手を当てる。
陛下のその態度は決して脅し文句ではないとわかる程、凄みを感じさせる。
「では話を続けよう。
先王はバンホワイト公爵領のバーラス鉱山へ向かう途中で事故に遭い命を落とした。
けれど真実はバーラス鉱山へ向かう橋を故意に落とされ亡くなったのだ。
それはそこのバンホワイトの指示であったことが分かった」
「お待ち下さい!私は指示などしておりません!
あれは事故です、古くなっていた橋が不運にも落ちてしまったのです陛下」
「そうですわ、あれは事故ですのに何故今そのような話を持ち出すのです」
「許可なく口を開くなと言ったはずだ。
例外なく誰でも認めない。
王妃と公爵を縄で縛り口も利けぬように縛れ。だがまだ牢へは連れて行くな。
この者達にも聞くことがある」
「はっ」
命を受けたシルヴィオはすぐにぐるりと縛りあげた。
「陛下!!」
「リベール様何をするのです!私は王妃ですのに、ん‥んん」
自分の妃に対しても容赦のないその態度に皆は震え上がった。
優しい叔父様がここまでの強硬な態度。
それは王家が‥‥王が威厳と権威を示す必要があることをまるで私に教えているかのようだった。
上に立つ者の覚悟。
それが足りないようでは何度でもこの様なことは繰り返される。
ダルトタナードでも味わってきたことだ。
チラリと横を見るとベルラードは真剣にその様子を見ていた。
彼も感じることがあるだろう。
私達はそういう立場にいるのだ。
望んでいなくとも。
宿命は変えられない。
「私は王としてルリア王女に先王の死の真相を調べるように申し付けていた。
両親の真実を一番知りたいのは王女だからな。
そして隣国でその真相を突き止め戻って来たのだ」
‥‥当初の目的は全く違うから心苦しい‥‥
隣国で暮らすつもりだったなどとは今は口が裂けても言えない‥‥
そこは皆に申し訳ない気持ちになるのだけど。
「では、ルリア王女に聞くとしよう。
そなたはダルトタナードで何を知ったのだ?」
「はい陛下。申し上げます」
私は視線を感じ一度チラリとライナの方を向けば、ライナだけでなくメルディナや公爵、エリックも同じように苦虫を噛み潰したような顔だ。
マルクスはこちらを見ることなく前を向いたままだった。
「私はダルトタナードで、こちらの王太子殿下、王女殿下をはじめ王家の方々の協力を得て、バーラス鉱山で働いていた男性と会うことができました。
彼らはそこにいるバンホワイト公爵の指示で、私の両親の馬車が通る橋の縄を切ったことを自白しました。
そして、バンホワイト公爵は彼らから秘密が漏れることを恐れ、家族を人質にとり隣国に追いやったことも知りました。
もちろん鉱山で働く全ての者達にも、このことを人に話せば仲間を殺すと脅していたそうです」
「んー‥んー」
公爵は顔を真っ赤にして一段と大きな唸り声を上げた。
私は構わず続ける。
「ここに証人として、ジオンという男を連れてきております。
どうぞ彼の証言をお許し下さい」
「よし。許可しよう」
色黒で体格のよいジオンが、肩をすぼめて震えている。
こんな場に連れてこられて陛下に話せというのだからジオンの心中を察すると申し訳ない気持ちになる。
私は自分よりも随分と大きいジオンの体をそっと支えるように寄り添った。
「大丈夫よ、私が付いてるから心配しないで。ジオンの知ってることを話してくれるだけでいいから」
と何とか安心してもらえるように言った。
震えながらも、うんうんと子供のようにジオンは頷く。
緊張からかジオンは汗びっしょりになっていて、このまま倒れてしまわないかと少し心配になってしまった‥‥。
この度はご苦労であった」
「ご心配をおかけしましたが、無事に戻って参りました。
陛下にご報告できる機会を与えて頂き感謝致します」
「ああ、待っていた。
隣国ダルトタナードの第一王子であるベルラード王子も心より歓迎する」
「温かい歓迎に感謝致します」
ベルラードが頭を下げると陛下は一度頷き、そして立ち上がった。
「ここにいる皆に言っておく。
先王であるヴィルドルフ王の娘であるルリア・アルンフォルト王女は、王命で隣国ダルトタナードへ渡っていた。
ルリア王女が祈りの儀を終え、この国を去ったのは、王である私の指示だ。
世間では悪い噂が広まっているようだが、ルリア王女は自ら王宮を出て行ったのではなく王命だ。
それをまずここではっきりと伝えておく」
「なっ‥‥」
戴冠の間は騒然とする。
「リベール様!何を仰るのです!その娘は自ら王宮を飛び出して逃げたのですよ」
「黙れライナ!
お前はルリアが出て行った理由を知らないと言っていたはずだ!
私に嘘をついていたのか?
本当は理由を知っていたということだな?」
「あ‥いえ‥、そのようなことはございませんが、リベール様は祈りの儀を終えたルリア様とお会いになってないと‥‥そう仰っておられたではないですか。
それなのに王命だなんて嘘を」
「誰に言っている!!
立場をわきまえていないのはお前だ!」
「も‥申し訳ございません」
普段は優しい口調のリベール陛下の怒鳴り声に場は凍りついた。
「皆王家を甘くみているようだな。
今一度、王家の権威を示す必要があるようだ」
ピリッと張り詰めた空気になる。
「ダルトタナードの王子が来られているのだ。
この国の新たな歴史の立会人になってもらおう」
「どういうことですか?リベール様‥‥」
「これから話す事実を皆に聞いてもらいたい。
それは先王ヴィルドルフとその妃アリアン王妃の死についてだ。
二人の死は事故ではなく、そこにいるバンホワイト公爵とその娘、ライナ王妃の策略によるものだった」
「なっ!!」
会場は一段と騒がしくなった。
所狭しと並ぶ貴族達は驚きを隠せない。
初めて知る事実に驚きを禁じ得ないのは当然だ。
「何を仰っているのです!突然そのようなでたらめを言うのはやめて下さい!
皆混乱しておりますわ!」
「そうです陛下!王妃様の言う通りそれはでたらめでございます」
「うるさい黙れ!皆黙れ!黙れと言っている!!」
鬼気迫るその凄まじい姿にピタリと声は止まった。
「王である私の許可がない者は今この時より決して口を開くな。
よいな?
もし勝手に口を開いて話の邪魔をする者がいれば、その場で取り押さえ牢へ入れる。
その家は取り潰しとする」
「ひっ‥‥」
口元に慌てて皆が手を当てる。
陛下のその態度は決して脅し文句ではないとわかる程、凄みを感じさせる。
「では話を続けよう。
先王はバンホワイト公爵領のバーラス鉱山へ向かう途中で事故に遭い命を落とした。
けれど真実はバーラス鉱山へ向かう橋を故意に落とされ亡くなったのだ。
それはそこのバンホワイトの指示であったことが分かった」
「お待ち下さい!私は指示などしておりません!
あれは事故です、古くなっていた橋が不運にも落ちてしまったのです陛下」
「そうですわ、あれは事故ですのに何故今そのような話を持ち出すのです」
「許可なく口を開くなと言ったはずだ。
例外なく誰でも認めない。
王妃と公爵を縄で縛り口も利けぬように縛れ。だがまだ牢へは連れて行くな。
この者達にも聞くことがある」
「はっ」
命を受けたシルヴィオはすぐにぐるりと縛りあげた。
「陛下!!」
「リベール様何をするのです!私は王妃ですのに、ん‥んん」
自分の妃に対しても容赦のないその態度に皆は震え上がった。
優しい叔父様がここまでの強硬な態度。
それは王家が‥‥王が威厳と権威を示す必要があることをまるで私に教えているかのようだった。
上に立つ者の覚悟。
それが足りないようでは何度でもこの様なことは繰り返される。
ダルトタナードでも味わってきたことだ。
チラリと横を見るとベルラードは真剣にその様子を見ていた。
彼も感じることがあるだろう。
私達はそういう立場にいるのだ。
望んでいなくとも。
宿命は変えられない。
「私は王としてルリア王女に先王の死の真相を調べるように申し付けていた。
両親の真実を一番知りたいのは王女だからな。
そして隣国でその真相を突き止め戻って来たのだ」
‥‥当初の目的は全く違うから心苦しい‥‥
隣国で暮らすつもりだったなどとは今は口が裂けても言えない‥‥
そこは皆に申し訳ない気持ちになるのだけど。
「では、ルリア王女に聞くとしよう。
そなたはダルトタナードで何を知ったのだ?」
「はい陛下。申し上げます」
私は視線を感じ一度チラリとライナの方を向けば、ライナだけでなくメルディナや公爵、エリックも同じように苦虫を噛み潰したような顔だ。
マルクスはこちらを見ることなく前を向いたままだった。
「私はダルトタナードで、こちらの王太子殿下、王女殿下をはじめ王家の方々の協力を得て、バーラス鉱山で働いていた男性と会うことができました。
彼らはそこにいるバンホワイト公爵の指示で、私の両親の馬車が通る橋の縄を切ったことを自白しました。
そして、バンホワイト公爵は彼らから秘密が漏れることを恐れ、家族を人質にとり隣国に追いやったことも知りました。
もちろん鉱山で働く全ての者達にも、このことを人に話せば仲間を殺すと脅していたそうです」
「んー‥んー」
公爵は顔を真っ赤にして一段と大きな唸り声を上げた。
私は構わず続ける。
「ここに証人として、ジオンという男を連れてきております。
どうぞ彼の証言をお許し下さい」
「よし。許可しよう」
色黒で体格のよいジオンが、肩をすぼめて震えている。
こんな場に連れてこられて陛下に話せというのだからジオンの心中を察すると申し訳ない気持ちになる。
私は自分よりも随分と大きいジオンの体をそっと支えるように寄り添った。
「大丈夫よ、私が付いてるから心配しないで。ジオンの知ってることを話してくれるだけでいいから」
と何とか安心してもらえるように言った。
震えながらも、うんうんと子供のようにジオンは頷く。
緊張からかジオンは汗びっしょりになっていて、このまま倒れてしまわないかと少し心配になってしまった‥‥。
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