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マリーとティナ

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呆れて物も言えないわ。
どうしてねーさまってあんなに愚かなのかしら‥‥
大国の王女として育ったのに、どうしてあんなに感情だけで動けるのかしら‥‥
よっぽど両親に大事にされてきたのね。

損得も何も考えないどころか自分の命までも感情任せに消そうとするなんて‥‥
短絡的すぎてまるで子供だわ。

素直な子供のまま大きくなってしまった人。
目を離したら何処へ行くかわからないわ。
あんな危ない人、ほっとけるわけないでしょ‥‥まったく‥‥


「マリエット様!マリエット様!」

侍女の声にハッとして振り返ると、ヨハンの母であるティナが立っていた。

「あら!ティナ」

「お考え事をしてらしたようなのに申し訳ありません」

「あら、ごめんなさい、気が付かなくて。今愚かな姉のことを考えていたら腹が立ってしまってね」

「まぁ、ルリア王女様のことですか?」

「ええ、あんなにお馬鹿な姉は一人しかいませんわ」

「まぁ‥‥」

「それよりドレスが仕上がったの?」

「はい。まずは一着シンプルなドレスが仕上がりましたのでお持ちしました」

「それはありがとう。私の部屋へ行きましょう」

マリエットの私室は広く、続き部屋の衣装部屋も同じくらいに広い。

「ねーさまのドレスはそちら側にお願いね」

「はい、かしこまりました」

侍女の淹れたお茶を飲みながら、話はまた姉の話になった。

「ルリア様のご体調は大丈夫なのですか?先ほど聞いて驚きました。ヨハンが朝出て行ったっきり戻って来ないものですから‥‥」

「ええ、今は横になって安静にしてるわ。足首を痛めたようでしばらくは自由に動き回らないでしょ」

「まぁ、それはお可哀想に‥‥」

「自業自得ですけどね」

「マリエット王女様は手厳しいですわね」

「私しかねーさまに本当の事を言う者がいないからよ。あんなに危なっかしい人いないわ」

ふふふっ
ティナは堪えきれずに笑い出した。

「マリエット王女様は、ルリア王女様のことが本当にお好きなのですね。まるで妹を心配する姉でしょうか」

「ええ、立場が逆転よ!子供と同じような人なの。私が側に付いていないと駄目なのよ」

ふふふっ
ティナは笑いが止まらずに笑い続けている。

「ルリア王女様は皆に愛されているのですね」

「本人は分かってないのよ!鈍感にもほどがあるでしょ?」

「ええ、そうですわね。ふふふ」

「ねーさまはね、自分が居ることで皆に悪影響を与えてしまったと悔やんでいるのよ。
自分と関わった皆の人生を悪い方に狂わせてしまったのではと思い込んでいるの。
本当に馬鹿でしょう?
王太子宮で働く使用人達はね、ねーさまが来てから庭師は花の種類を増やして庭づくりに精を出すようになって、厨房はねーさまが来てから朝昼晩と食事が出せるようになったからメニューを増やして張り切っているのよ。
メイド達もやりがいができて楽しそうだし、兄だって人に興味が無かったのにあんなにねーさまの為に必死になって‥‥
ねーさまの為に使用人達との会話も増えて、王太子宮は今や活気に満ちているわ」

「ええ、見ていて違いを感じますわ」

「それなのに本人は全く分かっていないわ。自分がいなくなればいいなんて‥‥」

「ふふふっ、マリエット王女様も随分と変わられましたよ。こんなに感情豊かにお話されたことはなかったですもの」

「そうね。そうだわ。私もねーさまのせいで変わったのね」

「良い方にですわ」

「ええ。だから、ねーさまにはずっとここに居てもらいたいの」

「そうですわね」

ティナは目鼻立ちがはっきりしていて美人だ。
ヨハンの精悍な顔立ちはティナから受け継いでいるのだろう。

「ヨハンには‥‥申し訳ないけど、ごめんなさい」

「いいえ。ヨハンももう大人です。自分のしたいようにするでしょう。親が口を出す歳ではありませんから」



ねーさまの美しさは群を抜いている。
類稀な美貌だ。
そのうえ、あのように素直な性格。
誰だって虜になるだろう。
お兄様もヨハンもねーさまに魅了されたのなら、他は目に入らなくなるのも無理はない。
それなのに本人が自分の魅力にちっとも気付いていない。
皇妃の生まれ変わりとしてではなく、ねーさま自身としての魅力だというのに‥‥
困った姉だわ。


「それより、ドレスはこのままお作りしていてよろしいですか?」

「ええ、もちろん。兄が頼んだ二十着そのままお願いするわ。出来上がったらまたここへ持ってきてちょうだい。
ねーさまはどうせ断ると思っていたから、私に相談してくれて良かったわ」

「本当に欲のない方ですわね。ワンピース一着でいいと仰ったのですよ」

「ねーさまらしいですわ。あんな大国で不自由なく暮らしてきた王女だというのにね」

「ええ。お母様である王妃様もその様な方であったそうです。何度かお見かけしたことがありますが、とてもお美しい方でした」

「そう‥‥。お母様がお美しかったから自分の美しさには疎いのかもしれないわね」


普通はあれだけの美貌があれば傲慢になっても仕方ないのに、謙虚なところをみると、母親の存在が自分の中で大きすぎるのかもしれないわね‥‥

お兄様はねーさまを繋ぎ止めることができるかしら‥‥










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