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リベールの後悔

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アリアン王女の横をメイドが通り過ぎると思った瞬間、突然アリアン王女に向かってぶつかって来た

広い廊下であるのに、やけに側を歩いて来ると思っていた

ぶつかったままのメイドを引き離す

「何をしている!」

引き離した女の手には、赤く染まったナイフが握られていた

「何やってるんだ!お前は!」

手に持っていたナイフを取り上げ投げ捨てた

アリアン王女は、脇腹を押さえたまま、動かずにいる

その手の隙間には赤い血が見えた

兄が王女を抱えて座り込む

フフフッ‥アハハハハッ
女は笑い出した
ルドルフが、女の被っている白いキャップを取った

ルドルフが固まっている

「あら、ルドルフ様。お久しぶりですわね」

ラウルも固まった

「ナタリス‥‥」
「ナタリス侯爵令嬢!」

二人が同時に声を上げる

「誰だ!知ってるのか?」

女を床に押さえ付け、ルドルフの方を見ると、女が笑いながら言った

「私、ルドルフ様の婚約者ですのよ!ルドルフ様、ご病気は治られたのですね」

「何だって!」

「既に破棄しております!もう関わりの無い女です」

「相変わらず、私には冷たい男ね。本当に人でなしだわ」

「お前が人でなしだろう!何て事をするんだ!」

私は思わず女を怒鳴りつけ、押さえ付けた手に力を込めた

「うっ‥痛いわ、放してよ!」


「何故アリアンを刺した‼︎恨むなら私を殺せばいいだろう!何でアリアンにこんな事をするんだ!」

ルドルフは怒り、押さえ付けた女の襟元を引っ張りながら、何度も何度も何でアリアンにこんな酷い事を‥何故だ‥と怒鳴っている

「フフフッそんな顔も見たかったのですわ。いい気味」


そんな時、アリアン王女が名前を呼ぶ

ルドルフは、名前を呼ばれると、急いでアリアン王女のもとへ駆け寄る

「ずっとあなたに救われてきました。私を助け出してくれてありがとうございました」

「アリアン!私のせいでまたこんな‥‥アリアン!しっかりしてくれ!必ず助けるから、気をしっかり持つんだ!すぐに医者が来る」

アリアン王女の姿に、ルドルフはひどく動揺している

その後すぐに、私の名まで呼ばれる

押さえ付けた女をラウルに任せて、急いでアリアン王女に駆け寄る

「せっかく来ていただいたのに、ご迷惑ばかり掛けてすみません。お許しください」

「何を言っている!人を気遣ってる場合か!気をしっかり持て!しゃべらない方がいい」

自分がこの様な時に、私にまで謝っている

こんな女がいるのか?

次にラウルが呼ばれた

私はラウルと交代するように、また女を押さえた
ラウルは、涙を流していた

「屋敷でいつも気遣ってくださっていたのは、ラウル様でした。私を守ってくださり、ありがとうございました」

「アリー、しっかりしろ!大丈夫だから!今そんな事を言わないでくれ!どうしてアリーばかり‥‥」

ラウルは、右手で顔を覆い涙を拭っている

侍女に声を掛けた後、アリアン王女は気を失った

侍女は、ショックのあまり全く動けず震えたままだ
案内役のメイドも腰が抜けた様で、座り込んだまま震えている

アリアン王女は、出血が多いようだ
兄が必死で止血しているが、ドレスの色は赤く染まり、王女の手も血に染まっていた

気持ちだけが焦る

キーラ、早く侍医を連れて来い

このままでは危険だ‥‥

遠くから走って来る足音が聞こえる
キーラが騎士団と侍医と共に走って来る

「オリバー頼む」

「はい、リベール殿下」 

第一部隊のオリバーケイルに女を引き渡し、縄で縛ってもらう

「痛いわよ、もっと優しく出来ないの?下手くそねあなた!」

「黙らないと黙らせるぞ」

「偉そうに言わないでよ!」

私は、その女とオリバーのやり取りを聞いて胸が痛くなった

こんな女のせいで、兄があんなに愛してやまない女性が死ぬかもしれない状況なのだ

「リベール、ルドルフ、そっちは頼んだぞ」

兄が私に向かって言った
その顔は、涙でぐちゃぐちゃになっている
手も体も血で染まっている

「わかりました兄上、早くアリアン王女を」

「ああ大丈夫だ。必ずアリーは助ける」

ラウルを案内役に、第二部隊が担架で王女を運んで行く
その後ろを兄とキーラが追いかけるように処置室へ向かった

どうか助かってくれ

兄の後ろ姿を見ながら祈った


後悔が押し寄せる

あの時、何故もっと早く止められなかったのかと‥‥

ぶつかろうとした時に異変に気付いて止めるべきだった

くだらない事を考えていたせいだ
アリアン王女が我が国に相応しいかどうかなどと、私が余計な事を考えていたせいで、一歩遅れたのだ

兄とルドルフが、命をかけて守ろうとした女性を、私の目の前で刺されてしまうなんて‥‥
私はなんて愚かだ
ここに居る女性とは、天と地程の差がある
生死の間際でさえ、人を気遣っていた
そんな女性だった
兄が愛したのは、そういう女だったのだ

頼むから助かってくれ
後悔で胸が潰れそうだ


第一部隊は、こちらに残り、第二部隊は兄の方へ付いて行った

ルドルフは、国王達に知らせる為に騎士を二人ほど連れ走って行った

私はオリバー達と共にルドルフが戻って来るのを待つ
詳しい話をこの女から聞かねばならない

女を睨み付けると、またフフッと笑った

「アルンフォルトの王族は、皆美しいお顔立ちですのね。私を婚約者にどうかしら?フランフェル家は、裕福ですわよ」

「黙れ!」

腹が立って殴りそうになる
こんな女のせいで‥‥

「リベール殿下に失礼な事を言うな」

オリバーケイルが、縄をギュッときつく締める

「痛いわよ!何度言ったら分かるのよ!この下手くそ」

「隊長に何て事を言うんだ!謝れ」

騎士達が女を囲んだ

「何よ、気安く私に話し掛けないで」

女と騎士達は、暫く睨み合っていた‥‥

その姿に後悔ばかりが募る
もっと早く私が止められたならと‥‥







「男に下手くそってやめて欲しいですよね?先輩!隊長がそうかと思っちゃいますよねぇ?」

「おい、新人!調子に乗るなよ」

「はーい」




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