上 下
75 / 97

命の危機

しおりを挟む
王宮の使用人達は、夜会が終わったばかりで、まだ忙しそうに動き回っている

私達は、案内係のメイドの後ろを歩き食堂へ向かっている
ヴィル様は、何度も私を覗き込むようにして微笑んでくれる

「ヴィル様?」

「ん?」

「ありがとうございました」

「俺は自分のやりたい事をやっただけだよ。これからは、来年の結婚式に向けての準備をしよう。アリーも王妃教育が始まるけれど、大丈夫かい?」

「はい。精一杯努力致します」

「ああ。アリーなら大丈夫だよ。これからは、いつでも側に居るからね」

「はい。ヴィル様」

あんな断罪式が終わったばかりなのに、私はとても幸せで、心が軽くなっていた
今まで重苦しかった全てから解放された様な気がした
これからは、自分の生きたいように自由になれるのではないかと思っていた



王宮は、とても広い
離宮とは比べ物にならない、長い廊下だった

私の隣にはヴィル様がいて、私の後ろにはリベール様がいる
その後ろには、ルドルフ様とラウル様
一番後ろには、キーラ様とサアラが続いている

廊下の向こう側からもメイドが歩いて来る
まだ仕事が終わらず、皆忙しいのだろう

メイドは、中央を歩く私達を避けるように端に寄って歩いて来る

私の横を通り過ぎるその瞬間
歩いて来たメイドが突然ぶつかって来た

「あっ‥‥」

思わず痛みを感じて足を止めた
ぶつかって来たメイドを見ると、私を睨みつけている
見たこともない人だった

脇腹が熱い

「おい!気をつけろ!何処を見て歩いている!」

ヴィル様が言うと同時に、後ろのリベール様がメイドを引き離した

「何をしている!」

リベール様が女性を引き離すと、また脇腹に激痛が走った

思わず手で押さえる
温かいものを感じる

「アリー!アリー!どうなってるんだ!アリー血が‥‥侍医を呼べ!離宮に居る俺の侍医を連れて来い!早く‼︎」

「はい!」

キーラ様が急ぎ走って行く

「キャァーお嬢様ー!」

サアラの悲鳴が聞こえる

ガクッと足の力が抜ける

初めて見る女性なのに何故?
誰なの?

「アリー!」

ヴィル様に抱えられる様に倒れ込む

押さえた手が熱い
せっかくのドレスが赤く汚れてしまう

「ヴィル様、ドレスが‥‥ごめんなさい」

「何を言ってる!しゃべっちゃ駄目だ!今すぐに侍医が来る!大丈夫だから」

周りの声が遠くに聞こえる気がした
ルドルフ様の声もリベール様の声もする
怒鳴っているようなのに、声が小さい
皆が大声で話しているように見えるのに、何故だか私にはほとんど聞こえなくなる

私は大丈夫だと伝えなきゃ‥‥
心配ばかり掛けてしまう皆には、謝らなければいけないわ


‥‥急にきちんと思いを伝えなければいけない様な気がしてきた
早く言わなくちゃいけない‥‥



「ヴィル様、心配ばかり掛けてごめんなさい。私を愛してくれてありがとうございました。私もヴィル様を愛しています」

ヴィル様の目からは涙が零れた

何かしゃべっているのに、聞こえない

「ルドルフ様?」

私の声は聞こえているようで、すぐにルドルフ様の顔が目の前に見えた

「ずっとあなたに救われてきました。私を助け出してくれてありがとうございました」

ルドルフ様も焦った様に何か言っている

「リベール様?‥‥せっかく来てくださったのに、ご迷惑ばかり掛けてすみません。お許しください」

リベール様は、切なそうに顔を歪めて何か言っている

「ラウル様?‥‥お屋敷でいつも気遣ってくださっていたのはラウル様でした。私を守ってくださり、ありがとうございました」

ラウル様も目の前に来ると涙を流していた

私、大切な人を忘れているわ‥‥

「サアラ?サアラ?ありがとう」

サアラの顔は見えなかった
見えなかったというより、目の前が黒くて見えなかったのだ

急に何も見えなくなった
聞こえなくて見えなくて‥‥
私、どうしてしまったのかしら‥‥


「アリー!しっかりしろ!アリー頼む!アリー‼︎」

ヴィルドルフが何度も声を掛ける

アリアンが目を開けることはない

アリアンの手がドレスから滑り落ち、脇腹から血が滲む
エメラルドのドレスがみるみるうちに色を変える
その範囲が広がる

「侍医はまだか?キーラ!早く連れて来い!」

ヴィルドルフは、流れる涙もそのままにアリアンを抱え込んでいる
ドレスが赤く染まっていく
滑り落ちた手も血に染まっている

ヴィルドルフは、アリアンを床に寝かせると、上着を脱ぎアリアンの脇腹に当てると強く押さえた

「頼むアリー、俺から離れないと約束した筈だろう?お願いだアリー、もう少し頑張ってくれ!侍医はまだか?」

「殿下ー!殿下ー!」

遠くから叫びながら走って来るのはキーラだった
周りには騎士達も連れている

「早く来てくれ!」

キーラの後ろには、懸命に走る侍医がいた
そして、やっとヴィルドルフの所に来ると、真っ赤に染まったドレスを見た侍医は、

「出血が多い。早く処置しましょう!処置できる所は何処ですか?」

と青くなりながら言った

「私が案内します!こっちに付いて来てください」

ラウルが声を上げ、騎士達は担架にアリアンを乗せた
ヴィルドルフは、後ろを振り返った

「リベール、ルドルフ、そっちは頼んだぞ!」

「わかりました兄上!早くアリアン王女を!」

「ああ、大丈夫だ!必ずアリーは助ける」

ラウルを先頭に、処置室に向かい走って行った




























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。 ※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。  元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。  破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。  だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。  初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――? 「私は彼女の代わりなの――? それとも――」  昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。 ※全13話(1話を2〜4分割して投稿)

【完結】指輪はまるで首輪のよう〜夫ではない男の子供を身籠もってしまいました〜

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のソフィアは、父親の命令で伯爵家へ嫁ぐこととなった。 父親からは高位貴族との繋がりを作る道具、嫁ぎ先の義母からは子供を産む道具、夫からは性欲処理の道具…… とにかく道具としか思われていない結婚にソフィアは絶望を抱くも、亡き母との約束を果たすために嫁ぐ覚悟を決める。 しかし最後のわがままで、ソフィアは嫁入りまでの2週間を家出することにする。 そして偶然知り合ったジャックに初恋をし、夢のように幸せな2週間を過ごしたのだった...... その幸せな思い出を胸に嫁いだソフィアだったが、ニヶ月後に妊娠が発覚する。 夫ジェームズとジャック、どちらの子かわからないままソフィアは出産するも、産まれて来た子はジャックと同じ珍しい赤い瞳の色をしていた。 そしてソフィアは、意外なところでジャックと再会を果たすのだった……ーーー ソフィアと息子の人生、ソフィアとジャックの恋はいったいどうなるのか……!? ※毎朝6時更新 ※毎日投稿&完結目指して頑張りますので、よろしくお願いします^ ^ ※2024.1.31完結

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

【完結】地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王子様と一緒に魔女討伐に抜擢される

buchi
恋愛
親同士が決めた婚約者を勝ち気で派手な妹にとられた呑気でぼんやりのローザ。姉妹なら、どっちでもいいよねと言い出す親。王立フェアラム学園に入学し婚活に励むべきところを、ダラダラしてるだけのローザが突然、「膨大な魔法力の持ち主です! 魔女退治をお願いしたい、王太子殿下とご一緒に!」周りに押されて、無理矢理、魔女退治に出かける羽目に。俺様系王子のラブを生暖かく見守る有能側近、ゴーイングマイウェイの王弟殿下、妄想系脇役魔女が出ます。約10万字。63話。定番のハッピーエンド。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

処理中です...