おもいでにかわるまで

名波美奈

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第四章

第二百十話

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自販機で水樹の飲み物と、一喜一憂するのに疲れたから飲んで寝る為についでに自分のビールを買った。そして寄り道せずに部屋に戻り、ふう。とまた深呼吸してから入室した。

「ただいま・・・。あっ・・・。」

「くぅ・・・。」

出た・・・。寝たふりではなさそうで、もっとも朝からはしゃいでいたわけだから疲れて眠りに落ちてしまうのもわかるけれど、まさに自分達らしいと明人は一気に脱力した。

こんな所まできて二人で何をやっているんだか。と拍子抜けした明人は水樹に布団を掛け、窓際に座ってカーテンの隙間から通り過ぎる車のライトをぼんやりと眺めた。

どれくらい経って、何台通り過ぎただろうか。ふう。と息を吐き、目を閉じかけたその時、ヌウっとした気配を感じて水樹が起きたのを察知した。

「ごめん。寝てたよね・・・?」

「うん・・・。」

「何見てるの?」

「車・・・。」

「そう・・・。」

水樹は待っている間に寝てしまった事と、結局何も進展できない事がショックだった。どうして自分達はこうなのかとやるせない。そして、例え朝まで眠ってしまったとしてもそのまま放っておかれたに違いないとギュッと悲しみを我慢した。

「もし・・・。もしこのまま私が眠り続けてても起こさなかったよね。」

「いや・・・。100台数えたら起こすつもりだったよ。」

水樹はもう出せる勇気を持ち合わせていない。

「ちょうど10時だね・・・。」

落胆、後悔、自己嫌悪、羞恥、情愛。水樹の感情は一つではなく入り組み、思いを吐露する変わりに精一杯時間を告げた。でも明人はとうに自分本位になっていて、水樹のあらゆる状態に左右される事はなかった。

「水樹・・・。」

明人は近寄り手を伸ばした。その後ふざけた雰囲気など微塵もない目で目を合わせた。それは、余計な台詞がなくても叶うお互いの気持ちの確認のようで、気持ちはたかぶり切なくて苦しくて欲しくて水樹もいざとなればどうすればよいのかわからない。

「はい・・・。」

そう返事をすると何故か水樹は自分の浴衣の帯に手をやり浴衣を脱ごうとし、明人は意味がわからず急いでそれを静止した。
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