おもいでにかわるまで

名波美奈

文字の大きさ
上 下
137 / 267
第三章

第百三十六話

しおりを挟む
この学校は女子が少ない。だから女子と話す機会が少ない。だから女子と話すのが苦手になる。女子と話すのが苦手だから女子と話せなくなり余計に話す機会が減る。という悪循環が起こり、よって奥手が出来上がるのかもしれない。

明人はどうなのだろうか。そして水樹は午後は半袖になっていた。袖から伸びる長い腕が意外にも華奢で、しかもこんな腕であのしっかりとした送球が出来るなんてどうかしている。それに明人はこんなに綺麗な二の腕を見た事がなかった。なかったから、だから・・・。

放課後、水樹が教室を出たのを確認して明人は、昨日水樹から返却されたレポート用紙をまた取り出した。1ページ目の、座席表の水樹の名前の下は空白になっていて、そこへ明人は書き足した。

‘ハンドルを握ると性格が変わるタイプ’

プッ。と自分で書いておきながら、ソフトボール中の水樹の負けん気の強さを思い出し、明人は笑ってしまった。そしておもむろに2ページ目を開いた。

‘明日は絶対勝ちましょう’

そう書くとこのレポート用紙をまた水樹の机の中にそっと忍ばせ、そうして翌日になり、早くも決戦の水曜日を迎えた。

お昼ご飯を素早く食べた選手達は、試合前に練習する為にグランドに集合した。敵のD組も練習に来ていて、そのD組の瞬介は水樹と礼に挨拶をした。

「水樹ちゃんピッチャーなんでしょ。ほんと打ちにくくてしょうがないよ。」

「瞬ちゃん勝負に私情は禁物だからね。」

瞬介は頷いた。A組の練習風景を見る限りでは、野球の形になっていて皆うまかった。D組は野球経験者はいるけれど現在野球部員はなく、ただ、運動神経と筋肉の塊のような精鋭達が集まっていた。

そして瞬介達D組は、日頃から女子のいるA組をライバル視する傾向があり、今日も男臭く絶対勝つと意気込んで参戦しているのだった。瞬介も、水樹と礼には悪いけれども自分のクラスに愛着もあるし、それに水樹に良い所を見せつけて絶対に勝ちたかった。

それから昼休みは終わり、表裏を決めた後プレイボールした。
しおりを挟む

処理中です...