おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第五十話

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「お前言い過ぎだろ、落ち着けよ。」

そこへ他の先輩が割って入った。

「お前も正木が今大会で何得点上げてるか知ってんだろ?正木にマークが何枚も付いてたから昨日のお前のさよならシュートが生まれたんだろ?お前いつも言ってたじゃん、聖也を入れて俺達は完成だって。」

一同は黙り込む。

「先生。」

最後は落ち着いて部長が部長として発言した。

「聖也を休ませるのは最初の15分だけにして下さい。それまでに俺達がもっとリードを広げておきます。そんで残りの15分で聖也と一緒に聖也をケガさせたあいつらを、完膚かんぷなきまでに打ちのめしてやります。」

「最後の整列に正木、お前もいろよ。」

「俺・・・、絶対復活するんで、絶対。」

話が済んだのを確認した夏子は水樹に後半の試合の準備をするよう指示し、聖也の肩のケアをした。夏子は聖也の肩を中心にテキパキとテーピングを巻く。

終始全員無言だった。何か一言でも言葉を発すれば、とめどなく涙が溢れてくるのを、全員わかっているのだ。

そして後半が始まると、2階の観客席では聖也が控えに回った事を知って軽くどよめきが起こった。後輩達は聖也がファウルで倒れた時に何かあったんだと推測する。

聖也はオフェンス面ばかりが目立つけれど、長身で体格も良いので実はディフェンス面でも重要な役割を果たしているのだ。

その上前半聖也をマークする事に専念していた相手選手が一斉に攻撃に参加し、点を追加していくのは目に見えていた。

嫌な空気が漂う。出場している選手達もなんとか応戦しているが、後半開始後5連続の得点を許してしまい、そしてその後にお互い2点を追加してからまた膠着こうちゃく状態になった。

17ー20。今度は3点を追いかけなければならない立場だった。その様子がたまらずに後輩達の目が次第に赤くなり始めていく。

まだいけるよね。まだたったの3点差じゃん。このまま終わってしまわないよね?どうなってるの?部長、先輩、聖也君っ・・・。

そんな後輩達の悲鳴は、一体どこに向かえば良いのだろうか。

そして張本人の聖也はベンチで奥歯を噛み締めながら出場している先輩達にエールを送る。

でも、二十歳の選手もいるとはいえ、百戦錬磨のプロ集団ではない先輩達の動揺は如実にプレイに表れていて、それが自分のせいだと自分を責め、不甲斐なくてもどかしくて悔しくておかしくなりそうで、すさんでいってしまいそうな心をなんとか食い止めながら、聖也は時間が過ぎるのを待つのであった。
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