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6.解体屋

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 依頼のヒポテ草採取も終わり、依頼完了報告と、ブルーウルフの報告をするために森を抜けて街の中を歩いていた。
 前を歩くリカルドについて行く私の後ろにノアさんとノエさんが続いている。
 まるで連行される犯罪者の気分。
 悪いことは何もしていないけれど、ノアさんの視線が突き刺さりそう感じてしまうのも仕方がないのかもしれない。
 依頼を受けて街の中を歩いていた時よりも、突き刺さる視線は少ないけれど、街の人たちの目は私に嫌悪感を示している。
 いまでは、それすらも可愛いものだと感じてしまうほどに、ノアさんの視線が痛い。
 ノアさんがそこまで魔族を嫌うような出来事はあっただろうか。あるとしたら、一つだけ。その出来事だけで、魔族全員を嫌いになったのだろう。
 ノエさんはノアさんとは違い魔族を怖がっている。原因は同じなのだろうけれど、この差は何なのだろうか。
 子供の頃から、ノアさんは恐怖よりも怒りが湧くタイプだったのかもしれない。そしてノエさんは恐怖を覚えるタイプ。
 それらがゲームで知っているのと、自分に向けられるのでは気分が違う。まさかこんなにも突き刺さるものだとは思ってもいなかった。できれば前を歩いてほしいのだけれど、監視をしているのだろうから無理だろう。

「そういえば、ブルーウルフのこともあるし、解体屋に行こうか」

 振り返り言うリカルドの言葉に、ノアさんとノエさんが首を傾げたのを感じた。【無限収納インベントリ】にずっと入れておくのも嫌だったので、リカルドに解体屋の場所を教えてもらうために頷いた。
 ギルドへの道をそのまま進み、建物が見えてきた。このままギルドを通りすぎていくのかと思ったら、ギルドの隣にある建物の前で立ち止まった。
 看板にはオオカミのシルエットとマグロ包丁のような刃物のシルエットが描かれている。

「ここが解体屋だよ。ギルドの隣だから、依頼報告の前に立ち寄ることもできるんだ」

 そう言って、リカルドは扉を開いて中へと入って行った。後ろに続いて入ると、中はギルドほどではないけれど広くなっていた。
 右側に受付カウンターがあり、左側には解体場がある。解体場は、流れた血を流すためなのか床が木材ではなく、コンクリートになっている。

「こんにちは。トムさんいますか?」
「トムさんですね。少々お待ちください」

 受付の女性は頭を下げると、奥の部屋へと入って行く。どうやら受付の後ろにある部屋は休憩所になっているようで、トムという男性を呼んでいる声が聞こえてくる。
 リカルドが呼んでいることを伝えると、一人の男性が部屋から姿を現した。

「よう、待たせたな」
「いいえ。今日は解体の依頼と、彼女の紹介をしに来ました」
「おっ。漸くお前も付き合いたいと思う相手を見つけたか!」
「違います。分かって言ってるでしょ?」
「わりぃわりぃ」

 冗談だと分かっているのだろう。リカルドの言葉は少し呆れたものになっていた。その言葉にトムさんは笑っている。もしかすると冗談を言うのはよくあることなのかもしれない。
 ひとしきり笑ってから、ようやくトムさんに視線を向けられた。どんな反応をするのかと身構えたら、笑顔を向けられた。

「はじめまして。俺はトムだ」
「アイ・ヴィヴィアです。よろしくお願いします」
「獣人族かと思ったが、よく見たら魔族なんだな。だが、俺は種族は気にしないから安心しな。それに、可愛い子ちゃんからの仕事は大歓迎だ」

 どうやら冗談ではなく、本気で言っているらしい。魔族だろうと気にしないという人は、もしかすると思っているよりもいるのかもしれない。
 それとも、職業柄なのかもしれない。冒険者は様々な種族がいる。気にしていたら仕事にならないのかもしれない。

「俺は、美人より可愛い子が好きだ。だから、ノアよりノエが好きなんだ」
「可愛くなくて悪かったわね」
「お前らエルフは可愛いぜ。獣もモンスターも丸ごと置いて行ってくれるから好きだぜ」

 エルフは、獣の肉などを食べることは無いので、丸ごと置いて行くのだろう。エルフの冒険者も多いことから、解体屋という仕事は思っている以上にお金になるのかもしれない。
 お金になるものを丸ごと置いて行ってくれるから、本気で好きだと言っているのだろう。

「それで、俺を指名ってことは仕事だろ?」

 冗談を言っていたと思えないほど真剣な声でリカルドに問いかけた。
 その言葉に頷くと、トムさんは解体場へと歩き出した。ブルーウルフを出すにも、解体場に移動するのがいいので、黙ってついて行く。

「この台に置いてくれ」

 台もすぐに血を洗い流せるようにとコンクリートになっている。
 リカルドが【無限収納インベントリ】からブルーウルフ三匹を取り出して台の上に乗せた。その横に私も【無限収納インベントリ】から取り出したブルーウルフを置いた。
 それを見て、トムさんは驚いたような顔をした。それもそうだろう。ここら辺に、ブルーウルフは生息していないのだから。

「何処でこいつを?」
「ケルピーの住んでいる森で」
「なんだと!?」
「そのケルピーたちは、一匹を残してブルーウルフにやられました」

 その言葉にトムさんは何も言わなかった。ただ、少し悲しそうだった。この街の人たちは森にケルピーが住んでいることを知っている。それがやられてしまったと聞いたら、ショックを受けるのは当たり前だろう。

「一匹はアイについて行きたがっていたから、契約獣になった」
「そうか。一匹でいるよりも、ついて行きたいと思った人と一緒の方がいいだろう」

 微笑みながら言うトムさんの言葉に少し安心した。ケルピーはこの街の人たちに大切にされているように感じられたので、オアーゼがついて行きたいと言っても、納得しないかもしれないと思った。
 けれど、トムさんは一匹になったオアーゼの気持ちを尊重したようだった。しかし、ノアさんは違うようで、私の後ろで「魔族について行きたいって、結局モンスターってことじゃん。やっぱり討伐すればよかった」と言っている。
 過去に一度でも、ケルピーを討伐しようと考えたことがあるのだろう。魔族と同じで、モンスターも悪い存在と考えているのだろう。無害なモンスターもいるのだけれど、ノアさんには関係ないらしい。
 それでも討伐をしていないのは、この街の人たちがケルピーを大切にしていたからだろう。

「ブルーウルフたちは、ケルピーたちを捕食しなかった」
「最近、モンスターたちがおかしな行動をしているという話しを聞く。今までいなかったやつらを見るようになったと冒険者たちが言っていた。何か異変が起きているのかもしれない」

 台に乗せられたブルーウルフに触れながら言うトムさんの言葉に、ノアさんの視線が私に向けられたのを感じた。
 魔族が何かをしているんじゃないかと言いたいようだけれど、たぶん違う。魔族軍の中に、勝手な行動をする人たちもいるので、その人たちが何もしていないとは言えないけれど。
 魔王であるパパは、モンスターたちのすみかが移動するようなことはしないので、命令しているとも思えない。何かが起こり、自然に移動するようになったのかもしれない。もしそうだとしたら、それらを全て魔族の所為にしないでほしい。

「まあ、こいつらを解体して何か分かるのかっていったら分からないな。何を食べているのかってのは分かるけど」

 たとえ、ブルーウルフがあの森をすみかに決めたとしても、ケルピーは水中で暮らし、ブルーウルフは陸で暮らす。住む場所でもめたとも思えない。

「解体したら、ギルドに連絡を入れればいいか?」
「はい、お願いします。僕の分は肉半分で構いません」
「私も毛皮はいりませんので、肉半分でお願いします」
「了解。全部終わったら連絡する」

 その言葉に頭を下げて、解体屋から出た。一度振り返りトムさんを見ると、ブルーウルフ一匹を移動させて、解体しようとしているところだった。
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