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7.報告
しおりを挟むギルドに戻ると、出た時よりも冒険者の数が減っている。
ノアさんとノエさんは、すぐに依頼ボードへと向かって行く。何か依頼を受けるつもりのようだ。
私はリカルドと一緒に受付へと向かった。誰も並んでいないので、ヒポテ草が入った麻袋を【無限収納】から取り出してベルさんに話しかける。
「お帰りなさい。初めての依頼はどうでしたか?」
「リカルドに教えてもらいながらでしたので、すぐに見つけることができました」
「それは良かったです」
麻袋を渡すと、ベルさんが中身を確認する。依頼書との間違いがないことを確認すると、ギルドカードの提示を求められた。依頼を成功させたため、情報を更新するのだろう。
ギルドカードを渡すと、水晶版を操作する。十秒ほどで操作も終わり、ギルドカードが返された。項目に【依頼記録】が増えたのだろう。
報酬を受け取り、間違いがないことを確認して財布に入れた。
「それと、もう一つ報告が」
「何か問題でもありましたか?」
「森にブルーウルフが現れました」
「森にですか!?」
いないはずのモンスターがいることに驚いているベルさんに、リカルドは続けてケルピーのことも報告をする。
悲しそうな顔をするベルさんだったけれど、別の水晶版で何かを操作し始めた。まるで、キーボードで文字を打っているように見えて、どこかに画面があるのかと思ったけれど、それらしいものは見えない。
「ブルーウルフは北の寒い地域付近に生息しています。調べたところ、最近は個体が増えて群れで移動している個体が多いみたいですね。ですが、こんな遠くの地域まで来ているとなるとどうにかしなければいけません」
どうやら、水晶版の上半分が画面になっているようだ。いくら数が増えたからといって、ここまで来るということは、他の森には別のブルーウルフが住みついてしまっているのかもしれない。
それなりにレベルの高い冒険者なら対処することはできるだろうけれど、レベルの低い冒険者や一般の人には手を出すことはできないだろう。
「ブルーウルフに関しては、ギルドマスターと話しをさせていただきます。ルクスの街だけではなく、ヴィクトル領やウェスベル王国全体の問題かもしれませんので」
「分かりました」
「他の街などでも目撃情報はあるんですか?」
これ以上私たちができることが無いのは分かった。けれど、この街まで誰にも見つからず移動できるとは思えなかった。
群れで移動しているという情報もあるのだから、他の街でも目撃情報があるのではないかと思い聞いてみた。
細かく調べているのか、ベルさんは水晶版を操作している。一分ほどで結果が出てきたようで、目撃場所を教えてくれた。
「西にある、ヤエ村付近に目撃情報があります。南に森があるので、もしかするとそこに住みついているのかもしれません。隣のリトレイ領では、エルカの街の東にある森付近での目撃情報があります。他は無いようですが、ヤエ村付近の森は西南にあるので、ブルーウルフがウェスベル王国全域に住みついていてもおかしくはないかもしれませんね」
ゲームで覚えた地図を思い浮かべる。たしかこの国には三つの領地がある。
もう一つの領地――シュトーレン領に目撃情報はないのだけれど、もしかすると住みついている可能性はある。シュトーレン領の南には大きな森があるのだから。そこに複数の群れが住みついていてもおかしくはない。
本当に住みついているのだとしたら、他の国にもブルーウルフはいることになるだろう。どの国よりもウェスベル王国は南にあるのだから。
「報告ありがとうございました」
そう言うとベルさんは、早足で階段を上がって行った。ブルーウルフのことをギルドマスターに報告するのだろう。
「そうだ。アイは地下に行ったことあるかい?」
「地下はまだ行っていないです」
今のところ地下に用事はないので、階段の方へは行ったことがなかった。直接行ったことはなかったので、リカルドに案内してもらうのもいいかもしれないと思った。
それに、もしかすると何かいいものがあるかもしれない。お金はあるので、何かあれば購入するのもいいだろう。
ただ、魔族である私に売ってくれるかは分からないけれど。
ノアさんとノエさんは、まだボードの前に立っていた。どの依頼を受けるのか考えているのだろう。
二人に声をかけることはせずに、リカルドの案内で階段を降りると、数人の冒険者がいた。
地下には武器屋、防具屋、鍛冶屋、アイテムショップがある。建物から出ずに準備ができる。建物から出て、武器屋、防具屋などに移動しなくていいのだから楽だ。
すでに話を聞いているのか、リカルドがそれぞれに私を紹介しても嫌な顔をされることはなかった。
そして、最後に紹介されたのは、奥にある椅子に座っていた一人の女性。見た目が魔女という格好をしているこの女性、実は出会うことがなかなかできない。
ウェスベル王国のギルドを周っているため、いついるかも分からない。だから、今ここにいるのは運が良かった。ゲームを何度もプレイしているけれど、ランダム出現のため片手で数えることができるくらいしか会ったことがなかった。
「ミシェルさん、こんにちは」
「リカルド、久しぶりね。そちらの子は?」
「はじめまして、アイ・ヴィヴィアです」
「ミシェルよ。私はモンスター関連のアイテムを売っているの」
「でしたら、ケルピーにつける馬勒はありませんか?」
その言葉を聞いたミシェルさんは僅かに顔を上げた。しかし、魔女帽子で隠れている目は見えない。見えるのは長い桃色の後ろ髪と、口元だけ。
それでも、雰囲気が変わったことだけは分かった。言葉にしていないけれど、商品を購入してくれる客と認識してくれたのかもしれない。
「契約でもしたのかい?」
「はい。大人しいのですが、馬勒もなしに街の中を歩かせることはできないので、あれば購入したいのですが……」
「ああ、あるよ。あるともさ」
嬉しそうに言うミシェルさんの声に、もしかすると商品の売れ行きが悪かったのかもしれないと思った。
しかし、売れ行きが悪くても生活には問題ないかもしれない。商品が高いのだから、一つ売れればそれなりに生活はできる。
本来なら、駆け出しの冒険者には手を出すことができない値段だ。
「モンスター用は魔道具さ。だから値段は高い。馬勒は一つ、金貨一枚だよ」
金貨一枚ということは、十万D。
十万円だよ、十万円。高い。
お金の単位はDだけれど、転生前との違いは単位だけだから分かりやすい。
因みに、お金は七種類ある。
銅貨は十D。大銅貨は百D。銀貨は千D、大銀貨は一万D。金貨は十万D。大金貨は百万D。そして、あまり出回っていないお金。白金貨は一千万Dだ。
一度でいいから見てみたい。
私は、まるで財布から取り出すかのようにして【無限収納】から金貨一枚を取り出した。
流石にこんな大金を財布に入れていない。入っていても大金貨まで。お金は重くてかさばるけれど、二万Dほどは入れている。
金貨を渡すと、持っているとは思っていなかったのか、僅かに顔を上げた。魔法帽子から、アメジストのような瞳が見えた。その目はとても輝いているように見える。
「本当に持っているなんて思っていなかったよ」
そう言うと、ミシェルさんも【無限収納】を使えるようで、赤い馬勒を取り出した。
「今はそれしかないよ」
「これで十分です。ありがとうございます」
ケルピーは全身水色をしているため、赤い馬勒は目立つだろうけれど構わなかった。これさえつければ、必要な時街の中でオアーゼを出しても心配ない。
「他にも首輪の魔道具もあるよ。どうする? 一つ、大銀貨二枚」
使うことは無いかもしれない。それでも、いざ必要な時になくて困るよりはいいかもしれないと考えて、首輪を三つ購入した。大銀貨六枚。六万D。
たった数分で十六万Dを使ってしまうなんて、はじめてだった。
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