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9.エピローグ
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真下はさっきから塔矢を探しているのにどこにも姿がない。一体どこに行ってしまったんだろう。
塔矢は神出鬼没だ。いきなり現れたり、いなくなったり、どうしたら会えるのだろう。
真下はスマホを取り出した。そして『会えないか』と塔矢にLINEを送る。いつかの日のように。
するとびっくりするくらい早く、塔矢から着信がきた。
『どうしたんだ? 真下。何かあったのか?!』
電話の向こう側の塔矢はすごく心配そうだ。
『一条か?! あいつがまた酷いことをしたんだろ?! 真下は今どこにいるんだ? 早く言え、今すぐ会いに行くから』
「うん。会いにきてよ、塔矢。俺は今、お前にすごく会いたい」
塔矢の声がやけに心にしみて、涙が滲む。
『……どうした? また泣いてるの?』
「塔矢。俺の家に来てくれる? お前に話したいことがあるんだ」
『当たり前だ! いつでも俺を頼っていい。お前のためなら何だってやってやる!』
塔矢の着信は切れた。
「真下っ」
塔矢は早すぎる。真下が家に帰り着くより前に、既にアパートの前で待っていた。そして真下の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「どうした? ダメだった……? 俺の作戦じゃ上手くいかなかったのか? 一条は? 仲直り出来なかった?」
「塔矢、そんなのはもうどうでもいいんだよ」
塔矢が何を考えて、あんな真似をしたのかわかった。必死になって真下が一条と上手くいくように取り計らっていたのだ。
「そんなのって、簡単に諦めるなよ。そうだ。また俺に相談があるんだろ? 俺に話してくれ。なんとかするから」
塔矢はどこまでお人好しなんだ。真下を助けても何の得にもならないのに。
「わかった。話す。とりあえず部屋に入ってよ寒いから」
「塔矢。俺、一条と別れたんだ」
真下は出来るだけさらりと伝えたつもりなのに、塔矢は驚き過ぎて、ゴホッとコーヒーでむせている。
「なんでだよ! さっきまで上手くいってたじゃん! ほら、一条がお前を抱き締めてさ……」
なんで塔矢がそのことを知ってるんだ? 塔矢はどこかに隠れて見ていたのか。なのにあの後どうなったのか知らないのか?
「塔矢の言う通りだ。塔矢を見ていて気づいたんだ」
「な、何に……?」
「あの後、俺は一条を突き飛ばして、『もう終わりにしたい。お前と別れる』って言ったんだ。あんなクズ野郎、こっちから願い下げ、だよな?」
いつか塔矢が一条に対して言った言葉を借りてみる。
「え?! よ、良かったのか?! そんなことして」
塔矢はびっくりしてる。そう驚くことでもないのになと真下は思っているのだが。
「あいつに触れられて、キモいとしか思わなかった。好きだなんて気持ちは微塵も残ってなかった」
塔矢に相談を持ち掛けた頃から、既に一条から気持ちは離れていたのかもしれない。気がついたら一条に嫌悪感しか抱いていなかった。
「だって真下、お前一条を庇って——」
「一条を庇ったんじゃない。塔矢だよ。塔矢にこれ以上悪いことをさせたくなくて、それで俺は止めに入ったんだ」
塔矢は信じられないといった様子だ。
「お前は一条と別れたくないから、あいつのことが好きだから、俺に相談をしてきたんじゃないのか?!」
「そんなことひと言も言ってない。塔矢にそんなこと頼んでもないよ」
塔矢はやっぱりそう思って、あんな破茶滅茶なことをしでかしたんだ。真下と一条の仲を取り持つために……。
「そっか。確かにそうだ。ごめん。俺が勝手にバカをやっただけだな」
「バカなことなんかじゃない。俺、すごく嬉しかったよ」
「えっ……」
「塔矢が親身になって俺の話を聞いてくれて、一条を怒ってくれたこと。落ち込んでる俺を励まそうと映画に誘ってくれたこと。今日みたいに俺が会いたいって言ったらすぐに会いに来てくれることもだ」
塔矢が真下を見つめてる。真下の言葉にとても真剣に耳を傾けてくれている。
「ありがとう。塔矢。お前に相談してよかったよ。スッキリした」
塔矢のお陰で、きっぱりと一条と別れられた。もうなんの未練もない。
「少しでも真下の役に立てたなら良かった」
「少しなんてもんじゃない。すごく感謝してるよ」
それを聞いて塔矢は微笑んだ。やっぱり塔矢は笑顔が似合う。俺を助けてくれた、優しい塔矢。これから先も、お前の人生できるだけ笑顔で過ごせるといいな。
塔矢は神出鬼没だ。いきなり現れたり、いなくなったり、どうしたら会えるのだろう。
真下はスマホを取り出した。そして『会えないか』と塔矢にLINEを送る。いつかの日のように。
するとびっくりするくらい早く、塔矢から着信がきた。
『どうしたんだ? 真下。何かあったのか?!』
電話の向こう側の塔矢はすごく心配そうだ。
『一条か?! あいつがまた酷いことをしたんだろ?! 真下は今どこにいるんだ? 早く言え、今すぐ会いに行くから』
「うん。会いにきてよ、塔矢。俺は今、お前にすごく会いたい」
塔矢の声がやけに心にしみて、涙が滲む。
『……どうした? また泣いてるの?』
「塔矢。俺の家に来てくれる? お前に話したいことがあるんだ」
『当たり前だ! いつでも俺を頼っていい。お前のためなら何だってやってやる!』
塔矢の着信は切れた。
「真下っ」
塔矢は早すぎる。真下が家に帰り着くより前に、既にアパートの前で待っていた。そして真下の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「どうした? ダメだった……? 俺の作戦じゃ上手くいかなかったのか? 一条は? 仲直り出来なかった?」
「塔矢、そんなのはもうどうでもいいんだよ」
塔矢が何を考えて、あんな真似をしたのかわかった。必死になって真下が一条と上手くいくように取り計らっていたのだ。
「そんなのって、簡単に諦めるなよ。そうだ。また俺に相談があるんだろ? 俺に話してくれ。なんとかするから」
塔矢はどこまでお人好しなんだ。真下を助けても何の得にもならないのに。
「わかった。話す。とりあえず部屋に入ってよ寒いから」
「塔矢。俺、一条と別れたんだ」
真下は出来るだけさらりと伝えたつもりなのに、塔矢は驚き過ぎて、ゴホッとコーヒーでむせている。
「なんでだよ! さっきまで上手くいってたじゃん! ほら、一条がお前を抱き締めてさ……」
なんで塔矢がそのことを知ってるんだ? 塔矢はどこかに隠れて見ていたのか。なのにあの後どうなったのか知らないのか?
「塔矢の言う通りだ。塔矢を見ていて気づいたんだ」
「な、何に……?」
「あの後、俺は一条を突き飛ばして、『もう終わりにしたい。お前と別れる』って言ったんだ。あんなクズ野郎、こっちから願い下げ、だよな?」
いつか塔矢が一条に対して言った言葉を借りてみる。
「え?! よ、良かったのか?! そんなことして」
塔矢はびっくりしてる。そう驚くことでもないのになと真下は思っているのだが。
「あいつに触れられて、キモいとしか思わなかった。好きだなんて気持ちは微塵も残ってなかった」
塔矢に相談を持ち掛けた頃から、既に一条から気持ちは離れていたのかもしれない。気がついたら一条に嫌悪感しか抱いていなかった。
「だって真下、お前一条を庇って——」
「一条を庇ったんじゃない。塔矢だよ。塔矢にこれ以上悪いことをさせたくなくて、それで俺は止めに入ったんだ」
塔矢は信じられないといった様子だ。
「お前は一条と別れたくないから、あいつのことが好きだから、俺に相談をしてきたんじゃないのか?!」
「そんなことひと言も言ってない。塔矢にそんなこと頼んでもないよ」
塔矢はやっぱりそう思って、あんな破茶滅茶なことをしでかしたんだ。真下と一条の仲を取り持つために……。
「そっか。確かにそうだ。ごめん。俺が勝手にバカをやっただけだな」
「バカなことなんかじゃない。俺、すごく嬉しかったよ」
「えっ……」
「塔矢が親身になって俺の話を聞いてくれて、一条を怒ってくれたこと。落ち込んでる俺を励まそうと映画に誘ってくれたこと。今日みたいに俺が会いたいって言ったらすぐに会いに来てくれることもだ」
塔矢が真下を見つめてる。真下の言葉にとても真剣に耳を傾けてくれている。
「ありがとう。塔矢。お前に相談してよかったよ。スッキリした」
塔矢のお陰で、きっぱりと一条と別れられた。もうなんの未練もない。
「少しでも真下の役に立てたなら良かった」
「少しなんてもんじゃない。すごく感謝してるよ」
それを聞いて塔矢は微笑んだ。やっぱり塔矢は笑顔が似合う。俺を助けてくれた、優しい塔矢。これから先も、お前の人生できるだけ笑顔で過ごせるといいな。
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