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第32話 お弁当って口走ったばっかりに!

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「へえ、森の中にこんな湖があったんだ」

 少し開けた場所に広い湖があった。
 どうやら動物たちの水場になっているみたいで、足跡を追っていたらたどり着いたのだ。

「きれい、です」

 ルナもご満悦みたいで、赤い瞳をキラキラさせてた。
 ガロも喉が渇いていたのか、湖の水をペロペロ飲んでいる。

「今度ここでお弁当を食べるのもいいかもね」

「おべんとう?」

 あっ、ルナはお弁当を知らないのか。

「食べ物を詰めた箱のことだよ。事前に作っておいて、出先で食べるんだ」

 ルナの表情がぱぁっと明るくなった。

「おべんとう、食べて、みたい、です」

「じゃあ、今度ここでお昼を食べようね」

「ん、ん!」

 ルナが嬉しそうに返事をする。
 その足でお昼を食べに山小屋へ戻ったんだけど……。

「おべんとう!」

「えっ、もしかして今から食べたいの?」

 俺の確認にコクコクとうなずくルナ。

「うーん、でもお昼のお弁当は朝に作るんだよねえ……」

 ルナがガーン! という顔をした。

「おべんとう、食べる、ない……?」

「ご、ごめんね。今日のところは普通にお昼を食べて、明日にお弁当じゃダメかな?」

「だめじゃ、ない、です……」

 ルナが残念そうに肩を落とす。
 悪いことしたわけじゃないのに罪悪感がすごいんですけど……!?

「そ、その代わり今日はルナの好物でシチューを作るから! ご機嫌直して! ね?」

「……あい」


 ◇


 ウサギ肉と木の実のシチューを作って、なんとかルナに笑顔を取り戻すことには成功した。
 だけど、しばらくするとルナは落ち着かない様子で山小屋のまわりをウロウロし始める。

「おべんとうっ♪ おべんとうっ♪」

 さらに洗濯物を取り込むときも。

「リラ、ルラ、おべん、とう~♪ リラ、ルラ、おべん、とう~♪」

 すっごく楽しそうに鼻唄を口ずさんでた。

「ヤ、ヤバいぞ! あんなに楽しみにされたら半端なお弁当を作るわけにはいかないッ! マキナ! 急いでちゃんとしたお弁当箱を用意しないと! 何かいい素材はないかなッ!?」

『はい、タカシさん。森の素材を使うなら、竹がいいのではないでしょうか。確かルナさんが秘密基地にしていた雑木林に竹林があったはずです。』

「なるほど、竹か! 中が空洞になってるし、簡単に作れそうだ!」

『はい、いいと思います。ただし、異世界の竹が地球と同じ竹とは限りませんので、危険の有無をしっかりと確認しましょう。』

 速攻で雑木林に戻って竹を発見。
 超振動手刀でスパパッと切り分けてから全速力で持ち帰った。

「マキナ! 具材には何を使うのがいいと思うっ!?」

『カラムシ麦を主菜として、おかずに干し肉を茹で戻したもの、それと山菜のサラダなどを付け合わせてはいかがでしょうか。それと、お弁当ですので冷菜をメインにするのがいいと思います。』

「よし、今のうちから下ごしらえだ!」

 こうして俺は完璧なお弁当を作ってルナを喜ばせるべく、晩御飯の用意と一緒に準備を整えるのだった。


 ◇


「雨、です……」

「雨だねぇ……」

「青い、お月様、お祈り、したのに……」

 うーん、寝る前もすっごく楽しみにしてそうだったもんなぁ。
 それにしても今日に限って雨だなんて、運命はどこまでルナに残酷な仕打ちをするんだ……。

「おべんとう、行く、ます。だめ、です?」

「うーん。でも、こんな雨の中を歩いたら風邪をひいちゃうよ。ガロも洞窟から出て来そうにないし、今日は見送って明日にしよう?」

 ルナが悲しそうに唇を噛んだ。

 心が!
 【精神力】100なのに心が痛い!

「マキナ。なんとかしてあげられないかなぁ? たとえば、雨を止ませる魔法を使うとか……」

 小声でマキナに確認してみる。

『天候を変える魔法は魔力をかなり消耗しますが、タカシさんの魔力ステータスなら可能です。ただし、雨があがっても地面がぬかるんでいることが予想されます。ルナさんの安全を考えると、森に連れて行くのはおすすめできません。』 

「そっかぁ……そうなると、ルナにはかわいそうだけど諦めるしかないのかなぁ」

 がっくりと項垂れる。
 できるだけルナの希望は叶えてあげたいけど、危ない目に遭わせたくはないしなぁ。

『タカシさん。どうしても今日中に、ルナさんと安全に外出して、お弁当を食べさせてあげたいのですか?』

「え? うん、それはまぁ……」

 俺の生返事にマキナはしばらく間を持たせてから、こう言った。

『もしよろしければ、私にひとつプランがあります。その代わりタカシさんは相応の苦労を背負い込むことになりますが、よろしいですか?』
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