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第33話 夜のピクニックってちょっとドキドキしない?
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マキナに指示された準備を終えた俺は、すぐさまルナの待つ山小屋へ戻る。
「ルナ! 雨があがったよ!」
ルナは一瞬だけ嬉しそうな顔を見せてくれたけど、すぐにシュンとしてしまった。
「でも、お昼、食べますた」
「うん。だから晩御飯をお弁当にするよ!」
「えっ?」
「いいから来て! ルナにも手伝ってもらいたいんだ!」
戸惑い気味のルナを連れて、食糧倉庫にしている洞窟に向かう。
入口が少し高くなっているので、水が浸入してくる心配はない。
だから、ここで朝御飯と昼御飯を作って済ませたのだけど……。
「えっ。タカシ、これって……」
ルナが驚いて目を見開く。
さっきまでお昼を食べていた場所にはズラリと具材が並んでいた。
「下ごしらえは終わってる。あとは調理して冷やしてから、このお弁当箱に詰めるだけだよ。だけど、俺はまだやらなきゃいけないことがあるから、お弁当の用意をルナに頼みたいんだ。できる?」
今までも火の番や調理の手伝いは頼んでいたけど、本格的な調理を頼むのは初めてだ。
驚きつつもルナは力強くうなずいた。
「……やる、ます!」
「わかった。手順を説明するよ」
具材を分けるために清潔な葉っぱで仕分けること。
温かいうちは具材をお弁当箱に入れないこと。
そんな感じの基本的な指示をひととおり出した。
「あと、やけどには本当に気を付けるんだよ! 火ならまたつけられるから、危ないと思ったら迷わず消すこと! いいね?」
「あいっ!」
「じゃあ、俺は行ってくる!」
そこから俺は超振動手刀で枝葉を切り払いながら湖までのルートを確保。
これにはさすがに時間がかかった。
「クリエイト・ロード!」
帰る前に、新たに覚えた呪文を唱える。
俺が通った地面を整地して、清潔で乾いた安全な道を作れる魔法だ。
そのまま切り開いた場所を駆け抜けて道を作りつつ、速攻でルナのところへと帰る。
「お待たせルナ! どこまでできてる?」
「冷やして、詰めてる、ます!」
「よし、ここからは俺も手伝うよ!」
◇
お弁当ができあがった頃には、森はすっかり暗くなってしまっていた。
「ごめんね。いろんな準備を考えると、どうやってもお昼には間に合わなかったから……」
「いい、です。タカシ、道、作る、すごい、です」
お弁当の入った袋を背負い、ルナと手を繋ぎながら湖までの道を歩く。
暗かったけれど、たいまつは街で買っておいたから歩く分には問題ない。
ガロもルナを気遣うように後ろから着いてきてくれてる。
「でも、よく考えたら、せっかくの湖も暗かったら見えないかな」
「いい、です。タカシ、すごく、がんばって、くれた、ます。だから、うれしい、です」
ルナが繋いだぎゅっと握りしめてきた。
俺も優しく握り返す。
「そうだね。暗くっても、俺たちの心は明るいし……」
だけど、俺たちの予想はいい意味で裏切られた。
「わああっ!」
湖に到着したと同時にルナが感動の声をあげる。
「こ、これは、すごいな……」
俺たちの目の前には幻想的な光景が広がっていた。
青き月と赤き月とが煌々と湖面を照らしていて、不可思議な紫の色合いを生み出してる。
だけど、それだけじゃない。
「ひかり、玉、飛んでる、ます! タカシ、あれ、なに?」
ルナが指差す湖畔に無数の光が漂っている。
そのおかけで夜とは思えないほどに明るい。
「あれはたぶん、ホタルだよ」
「ほたる、です?」
「おしりが光る虫だよ。俺の暮らしてた田舎では夏ごろに見られるんだけど……」
そっか、ここは異世界だもんな。
冬の前まで生きられるホタルがいても不思議じゃないのか。
「ほたる!」
「あっ、ルナ!」
ルナがホタルたちのいる湖畔まで駆けて行った。
すぐさまフォローに入れるように身構えたけど、ホタルはルナを害するでもなくフワフワと飛んでいる。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
そして、ルナは不思議なステップを刻み始めた。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
月の光に照らしだされた少女がホタルたちとともに舞う姿は、とっても美しかった。
ガロといっしょに時間が経つのも忘れて、すっかり見入ってしまう。
「タカシ! ガロ!」
ルナが手を振ってる。
「なーに?」
「ワン!」
呼ばれた気がしたので、適当な場所にお弁当の袋を置いてからガロと向かった。
「いっしょ、踊ろ!」
「えっ?」
ルナが俺の手を取ってクルクルと回り始めた。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
ルナの踊りに合わせてステップを踏むと、ガロも楽しそうにあたりを跳ねまわり始めた。
踊りのパターンは完全に記憶してしまったし、彼女の動きはスローモーションに見えているので真似るのは簡単だ。
だけど、なんだか無粋な気がする。
「マキナ。俺の【知力】を20に下げて」
『了解しました。』
久しぶりに訪れた人並みの時間。
のびのびと、楽しく、笑いながら。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
ああ、きっと、この子が口ずさむ歌に意味なんてない。
だからこんなに素敵なんだ。
「そっか。これが俺がずっと欲しかった――」
わずかに残っていた心の澱が、きれいさっぱり消え去った。
時間も、場所も。
ここにきた理由も何もかも忘れて、双子月に祝福されながら、少女とともに舞い踊る。
今、この瞬間。
俺たちが世界の中心だ――。
「ルナ! 雨があがったよ!」
ルナは一瞬だけ嬉しそうな顔を見せてくれたけど、すぐにシュンとしてしまった。
「でも、お昼、食べますた」
「うん。だから晩御飯をお弁当にするよ!」
「えっ?」
「いいから来て! ルナにも手伝ってもらいたいんだ!」
戸惑い気味のルナを連れて、食糧倉庫にしている洞窟に向かう。
入口が少し高くなっているので、水が浸入してくる心配はない。
だから、ここで朝御飯と昼御飯を作って済ませたのだけど……。
「えっ。タカシ、これって……」
ルナが驚いて目を見開く。
さっきまでお昼を食べていた場所にはズラリと具材が並んでいた。
「下ごしらえは終わってる。あとは調理して冷やしてから、このお弁当箱に詰めるだけだよ。だけど、俺はまだやらなきゃいけないことがあるから、お弁当の用意をルナに頼みたいんだ。できる?」
今までも火の番や調理の手伝いは頼んでいたけど、本格的な調理を頼むのは初めてだ。
驚きつつもルナは力強くうなずいた。
「……やる、ます!」
「わかった。手順を説明するよ」
具材を分けるために清潔な葉っぱで仕分けること。
温かいうちは具材をお弁当箱に入れないこと。
そんな感じの基本的な指示をひととおり出した。
「あと、やけどには本当に気を付けるんだよ! 火ならまたつけられるから、危ないと思ったら迷わず消すこと! いいね?」
「あいっ!」
「じゃあ、俺は行ってくる!」
そこから俺は超振動手刀で枝葉を切り払いながら湖までのルートを確保。
これにはさすがに時間がかかった。
「クリエイト・ロード!」
帰る前に、新たに覚えた呪文を唱える。
俺が通った地面を整地して、清潔で乾いた安全な道を作れる魔法だ。
そのまま切り開いた場所を駆け抜けて道を作りつつ、速攻でルナのところへと帰る。
「お待たせルナ! どこまでできてる?」
「冷やして、詰めてる、ます!」
「よし、ここからは俺も手伝うよ!」
◇
お弁当ができあがった頃には、森はすっかり暗くなってしまっていた。
「ごめんね。いろんな準備を考えると、どうやってもお昼には間に合わなかったから……」
「いい、です。タカシ、道、作る、すごい、です」
お弁当の入った袋を背負い、ルナと手を繋ぎながら湖までの道を歩く。
暗かったけれど、たいまつは街で買っておいたから歩く分には問題ない。
ガロもルナを気遣うように後ろから着いてきてくれてる。
「でも、よく考えたら、せっかくの湖も暗かったら見えないかな」
「いい、です。タカシ、すごく、がんばって、くれた、ます。だから、うれしい、です」
ルナが繋いだぎゅっと握りしめてきた。
俺も優しく握り返す。
「そうだね。暗くっても、俺たちの心は明るいし……」
だけど、俺たちの予想はいい意味で裏切られた。
「わああっ!」
湖に到着したと同時にルナが感動の声をあげる。
「こ、これは、すごいな……」
俺たちの目の前には幻想的な光景が広がっていた。
青き月と赤き月とが煌々と湖面を照らしていて、不可思議な紫の色合いを生み出してる。
だけど、それだけじゃない。
「ひかり、玉、飛んでる、ます! タカシ、あれ、なに?」
ルナが指差す湖畔に無数の光が漂っている。
そのおかけで夜とは思えないほどに明るい。
「あれはたぶん、ホタルだよ」
「ほたる、です?」
「おしりが光る虫だよ。俺の暮らしてた田舎では夏ごろに見られるんだけど……」
そっか、ここは異世界だもんな。
冬の前まで生きられるホタルがいても不思議じゃないのか。
「ほたる!」
「あっ、ルナ!」
ルナがホタルたちのいる湖畔まで駆けて行った。
すぐさまフォローに入れるように身構えたけど、ホタルはルナを害するでもなくフワフワと飛んでいる。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
そして、ルナは不思議なステップを刻み始めた。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
月の光に照らしだされた少女がホタルたちとともに舞う姿は、とっても美しかった。
ガロといっしょに時間が経つのも忘れて、すっかり見入ってしまう。
「タカシ! ガロ!」
ルナが手を振ってる。
「なーに?」
「ワン!」
呼ばれた気がしたので、適当な場所にお弁当の袋を置いてからガロと向かった。
「いっしょ、踊ろ!」
「えっ?」
ルナが俺の手を取ってクルクルと回り始めた。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
ルナの踊りに合わせてステップを踏むと、ガロも楽しそうにあたりを跳ねまわり始めた。
踊りのパターンは完全に記憶してしまったし、彼女の動きはスローモーションに見えているので真似るのは簡単だ。
だけど、なんだか無粋な気がする。
「マキナ。俺の【知力】を20に下げて」
『了解しました。』
久しぶりに訪れた人並みの時間。
のびのびと、楽しく、笑いながら。
「リラ、ルラ、ルウ、ロミ~♪」
ああ、きっと、この子が口ずさむ歌に意味なんてない。
だからこんなに素敵なんだ。
「そっか。これが俺がずっと欲しかった――」
わずかに残っていた心の澱が、きれいさっぱり消え去った。
時間も、場所も。
ここにきた理由も何もかも忘れて、双子月に祝福されながら、少女とともに舞い踊る。
今、この瞬間。
俺たちが世界の中心だ――。
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