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第三話「『占い研究会』乗っ取り事件」
3.奇術界の王子
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――その日の帰宅後のことだ。
いつも通り、俺の部屋には舞美が入り浸ってファミコンに興じていた。今日のゲームは、黄金騎士が六十階建ての塔に挑む不朽の名作だ。
「へぇ~。じゃあ、納田のその依頼、貴教が受けることになったの?」
「ああ、何故かそういうことになった」
あの後、納田はいつもの如く「じゃ、任せた!」と一方的に話を打ち切って去っていった。
「やる」とも言っていないのに、どうやら俺は「占い研究会乗っ取り事件」を解決しなければならなくなったらしい。
「ふ~ん。でも、真白先輩も手伝ってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろん『私も手伝うわよ』って言ってくれたけど……表向きは、俺が動いていることにしてほしいって」
そうなのだ。ここは「名探偵」たる真白先輩の出番かと思ったのだが、先輩は表だって動いてはくれないらしい。
あくまでも俺が主体となって情報を集め、その結果を先輩に伝え、一緒に対策を練るということになってしまった。
「先輩が自分で動いてくれれば、すぐに解決しそうなもんなのにな」
「それは無理だと思うよ。先輩って基本的に『安楽椅子探偵』だから」
「あーむ……なんだって?」
「安楽椅子探偵。調査は他人に任せて、自分は得られた情報をもとに事件を推理するタイプの探偵のことだよ」
「へぇ、そんな探偵がいるのか」
――意外なことに、舞美はこう見えてミステリ小説が大好きなのだ。だから時々、俺が全く知らない知識を披露してくることがあった。
まあ、推理は全くしないで純粋にエンターテイメントとして楽しんでいるらしいんだが。なんとも舞美らしい。
「でもなぁ、今回は真白先輩が自分で出張ってくれるものと思ってたんだけどなぁ」
「なんで?」
「ほら、舞美も知ってるだろ? 先輩が霊能力者とか超能力者の噂を集めてるって。今回は占い師だけど、似たようなものじゃないか」
「ああ、なるほど」
そうなのだ。俺も舞美も、真白先輩からは「趣味で心霊現象や超能力の噂を集めている」と聞いている。もちろん、いくら鎌倉が霊験あらたかな土地だからといって、そんな話がゴロゴロ転がっているはずもない。
そんな訳で、今まで先輩の趣味欲求を満たすような噂を伝えられていなかったのだが――。
「先輩がレーノーリョクシャとかチョーノーリョクシャの噂を集めてるってのも、自分の趣味って訳じゃないと思うよ?」
「え、そうなのか?」
「うん。多分だけど、お兄さんの為だと思う」
「お兄さん? 先輩、お兄さんがいるのか」
何気なく言った言葉だったが、何故か舞美が渋い顔をしている。「うわ、こいつマジか」とでも言いたげな表情だった。
おかしなことを言ったつもりはないのだが。
「貴教って、頭はいいのにたまに世間知らずだよね……」
「どういうことさ?」
「え~と、ちょっと待ってね。確かこの辺に……あった!」
舞美はベッドからずり落ちるように床に転がると、あろうことかベッド下に手を突っ込んで何かを探り当てた。
……男子のベッドの下はセンシティブな空間なのだから、もっと手心を加えて欲しいのだが。無防備に突き出された短パンの尻のせいで、目のやり場にも困るし。
というか、何故に舞美が俺のベッドの下にあるものを把握しているのだろうか? 謎は深まるばかりだ。
「これこれ、この雑誌の、ここ!」
「ん~? なになに。『奇術界の王子・真白常君、またもやお手柄!』ってやつか? 真白……先輩と同じ苗字だな。この人が?」
「そう、先輩のお兄さん。世界的に有名なマジシャンの真白常君さんだよ」
舞美が取り出して見せてきたのは、心霊現象やら都市伝説やらを専門に扱ったオカルト雑誌だった。俺は買った覚えがないので、恐らく舞美が持ち込んだものだろう。
その雑誌の中に、「奇術師・真白常君」という特集記事があったのだ。
記事によれば、真白常君は世界中でマジックショーを披露する傍ら、「インチキ超能力者や霊能力者の正体を暴く」という副業めいたこともやっているらしい。今回は、日本のとある場所を本拠とする新興宗教団体の教祖のインチキを暴いた、と書いてあった。
ここ数年、「宗教団体」を名乗りながらも、怪しげな儀式や「教祖が霊能力を持っている」という嘘で信者を集める、心霊系のカルト宗教がテレビを騒がしている。真白常君が暴いたのも、そういった宗教団体の名を借りた、インチキ集団の嘘だったようだ。
ただ、その雑誌には宗教団体の名前や、具体的にどんなインチキが行われていたのかまでは書いていない。あくまでも「奇術界の王子」がインチキを暴いた、という事実だけが重要なようだった。
「へぇ。先輩のお兄さん、有名人なんだな」
「なんでか、テレビには殆ど出ないけどね。顔もいいから、かなり売れっ子らしいよ」
「なるほど」
パラパラとページをめくると、真白常君の写真も載っていた。年の頃は三十歳くらい。先輩と同じく、かなりの美形だ。ただし、先輩と違って背は高い。そこは兄妹で似なかったようだ。
特集ページの最後は、お兄さんの決め台詞らしい「タネも仕掛けもございます」という言葉で締められていた。……これ、同業者に怒られないのだろうか?
雑誌にはその他にも、お兄さんの様々な異名が書かれていた。
先述の「奇術界の王子」以外にも、「超能力者ハンター」やら「霊能力バスター」やら、かっこいいかどうか微妙に悩むものも。「平成のフーディーニ」というものもあるが、「フーディーニ」とはなんだろうか? よく分からない。
――中には、「名探偵」なんてものもある。「先輩とお揃いだな」等と、思わず頬が緩んでしまった。
「じゃあ、先輩が心霊現象とか超能力の噂を集めてるってのも、お兄さんの為か」
「多分ね。普段は世界中飛び回ってるから、中々会えないらしいけど」
「世界、ねぇ。先輩も高校を出たら、プロとしてデビューしたりするのかね?」
先輩がプロの奇術師としてステージに上がる姿を夢想する。
小学生みたいに小柄ながらも目鼻立ちの整った先輩は、ステージ上ではさながら妖精のような可憐さを見せるだろう。
けれども、披露するマジックの数々は見事の一言。会場が大歓声に包まれることは、まず間違いないはずだ。
「それはどうだろうなぁ。真白先輩、目立つの嫌いだし」
「ああ、それはなんか分かるな。あんな見た目なのに、俺、舞美に教えてもらうまで先輩のこと知らなかったし」
普通に考えれば、真白先輩ほどの美人ならば、一年生の間でも噂になっていておかしくないはずだ。特に男子高校生なんてのは、一日の大半を異性のことを考えて生きる動物だ。二年生にあれだけの美人がいるとなれば、話題になるはずだ。
にも拘らず、俺は奇術部を訪れるまで、先輩のことを全く知らなかった。それは、先輩自身が意識して人目を忍んでいたからなのだろう。
等と思っていると――。
「そりゃそうよ。真白先輩、普段はむっちゃ地味ぃな恰好に変装してるから。多分、廊下ですれ違っても気付かないと思うよ」
「はぁ? そんな、恰好変えたくらいで気付かないなんてことあるか? そもそも、真白先輩の身長じゃ、学校の中歩いてるだけで目立つじゃん。あんな小さい人、比企高にはあと何人かいるかいないかだぞ」
「ま、そう思うよね、普通は。でもさぁ――あの真白先輩だよ? 人を騙すのが商売の奇術師だよ? それは見事に『化ける』姿が思い浮かばない?」
「むぅ……」
確かに、そう言われるとそんな気もしてくる。そもそも、初対面の時に、大鋸先輩との即興芝居で俺を騙してみせた人だ。「地味な恰好」とやらも、それはビックリ仰天する変身ぶりなのではないだろうか。
「なあ、舞美。真白先輩、具体的にはどんな恰好してるんだ?」
「おやおや~? 気になる? 気になる? 先輩のことは、なんでもかんでも知りたくなっちゃった?」
「そう言うんじゃないよ。単純に気になっただけだ」
「ま、それは見てのお楽しみってことで~」
「なんだよ、それ」
舞美がニヤニヤしながら俺のことを弄り始める。こいつ、もしや俺が真白先輩に気があるとでも思っているのだろうか?
いや、気になっているのは確かだけれども、そういう感情ではない。――多分。
「ふふふ、それにね貴教。真白先輩の変装パターンは一つじゃないんだぜぇ? アタシだって全部は知らないんだよ。……しかも、真白先輩は分身も出来るんだよ!」
「……はっ? ぶ、分身?」
「そう! 前にね、先輩と廊下ですれ違ったことがあったんだけど……その後、不思議なことが起こったの! すれ違いざまにアタシから挨拶して、向こうも笑顔で手を振ってくれて、そのまま別れたんだけど……」
「ど、どうなったんだ?」
「廊下をそのまま歩いてたら、なんと! 真白先輩がまた前から歩いてきたの! しかも『え、先輩さっきすれ違いませんでしたか?』って訊いたら、『そうね。これで二度目ね』って言ったのよ!」
「……それは単に、先輩が廊下を行ったり来たりしてただけってオチじゃなく?」
至極当然の疑問を口にする。舞美は案外おっちょこちょいだ。
何か勘違いをしていた可能性が高い。だが――。
「違うヨー! アタシはね、二階のどん詰まりにある視聴覚室に向かってたの! 最初に先輩とすれ違った場所から二度目に会った場所までに、脇道なんてないんだよ!? 先輩が行って戻って来たんなら、絶対に気付くモン!」
「え、それはマジなのか?」
「マジもマジ、大マジだよ~! もう、信じてくれないなら、お話はここでオシマイ!」
舞美はちょっと拗ねるような表情を見せると、再びファミコンに集中し始めてしまった。どうやら、この話題はこれで終わり、ということらしい。
先輩が分身、というか分裂したという舞美の話は俄かには信じがたい。だが、舞美はこんなことで嘘を吐く奴でもない。ということは、そこには何らかのトリックがあるのではないだろうか?
次に先輩に会った時にでも、訊いてみることにしよう。
――それにしても、だ。真白先輩と知り合って、はや数日。少しは彼女のことを分かって来たと思っていたのだが、どうやらまだ全然だったらしい。俺より前から知り合いだったとはいえ、舞美の方が先輩のことをずっと熟知している。
ここ数日の感触では、舞美と先輩はそこまで頻繁に会っている訳でもなさそうなのに。何故だか、お互いのことをよく理解し合っているような雰囲気さえ感じる。
「……そういえばさ、舞美」
「なぁに?」
ふとあることが気になり、塔への挑戦を再開した舞美のポニーテールに呼びかける。
「舞美と先輩って、そもそもどうやって知り合ったんだ?」
「あ~……その内話すよ」
舞美は何故か気まずそうにして、その答えを口にしようとしなかった。
……女の子には、色々あるのかもしれない。
いつも通り、俺の部屋には舞美が入り浸ってファミコンに興じていた。今日のゲームは、黄金騎士が六十階建ての塔に挑む不朽の名作だ。
「へぇ~。じゃあ、納田のその依頼、貴教が受けることになったの?」
「ああ、何故かそういうことになった」
あの後、納田はいつもの如く「じゃ、任せた!」と一方的に話を打ち切って去っていった。
「やる」とも言っていないのに、どうやら俺は「占い研究会乗っ取り事件」を解決しなければならなくなったらしい。
「ふ~ん。でも、真白先輩も手伝ってくれるんでしょ?」
「ああ、もちろん『私も手伝うわよ』って言ってくれたけど……表向きは、俺が動いていることにしてほしいって」
そうなのだ。ここは「名探偵」たる真白先輩の出番かと思ったのだが、先輩は表だって動いてはくれないらしい。
あくまでも俺が主体となって情報を集め、その結果を先輩に伝え、一緒に対策を練るということになってしまった。
「先輩が自分で動いてくれれば、すぐに解決しそうなもんなのにな」
「それは無理だと思うよ。先輩って基本的に『安楽椅子探偵』だから」
「あーむ……なんだって?」
「安楽椅子探偵。調査は他人に任せて、自分は得られた情報をもとに事件を推理するタイプの探偵のことだよ」
「へぇ、そんな探偵がいるのか」
――意外なことに、舞美はこう見えてミステリ小説が大好きなのだ。だから時々、俺が全く知らない知識を披露してくることがあった。
まあ、推理は全くしないで純粋にエンターテイメントとして楽しんでいるらしいんだが。なんとも舞美らしい。
「でもなぁ、今回は真白先輩が自分で出張ってくれるものと思ってたんだけどなぁ」
「なんで?」
「ほら、舞美も知ってるだろ? 先輩が霊能力者とか超能力者の噂を集めてるって。今回は占い師だけど、似たようなものじゃないか」
「ああ、なるほど」
そうなのだ。俺も舞美も、真白先輩からは「趣味で心霊現象や超能力の噂を集めている」と聞いている。もちろん、いくら鎌倉が霊験あらたかな土地だからといって、そんな話がゴロゴロ転がっているはずもない。
そんな訳で、今まで先輩の趣味欲求を満たすような噂を伝えられていなかったのだが――。
「先輩がレーノーリョクシャとかチョーノーリョクシャの噂を集めてるってのも、自分の趣味って訳じゃないと思うよ?」
「え、そうなのか?」
「うん。多分だけど、お兄さんの為だと思う」
「お兄さん? 先輩、お兄さんがいるのか」
何気なく言った言葉だったが、何故か舞美が渋い顔をしている。「うわ、こいつマジか」とでも言いたげな表情だった。
おかしなことを言ったつもりはないのだが。
「貴教って、頭はいいのにたまに世間知らずだよね……」
「どういうことさ?」
「え~と、ちょっと待ってね。確かこの辺に……あった!」
舞美はベッドからずり落ちるように床に転がると、あろうことかベッド下に手を突っ込んで何かを探り当てた。
……男子のベッドの下はセンシティブな空間なのだから、もっと手心を加えて欲しいのだが。無防備に突き出された短パンの尻のせいで、目のやり場にも困るし。
というか、何故に舞美が俺のベッドの下にあるものを把握しているのだろうか? 謎は深まるばかりだ。
「これこれ、この雑誌の、ここ!」
「ん~? なになに。『奇術界の王子・真白常君、またもやお手柄!』ってやつか? 真白……先輩と同じ苗字だな。この人が?」
「そう、先輩のお兄さん。世界的に有名なマジシャンの真白常君さんだよ」
舞美が取り出して見せてきたのは、心霊現象やら都市伝説やらを専門に扱ったオカルト雑誌だった。俺は買った覚えがないので、恐らく舞美が持ち込んだものだろう。
その雑誌の中に、「奇術師・真白常君」という特集記事があったのだ。
記事によれば、真白常君は世界中でマジックショーを披露する傍ら、「インチキ超能力者や霊能力者の正体を暴く」という副業めいたこともやっているらしい。今回は、日本のとある場所を本拠とする新興宗教団体の教祖のインチキを暴いた、と書いてあった。
ここ数年、「宗教団体」を名乗りながらも、怪しげな儀式や「教祖が霊能力を持っている」という嘘で信者を集める、心霊系のカルト宗教がテレビを騒がしている。真白常君が暴いたのも、そういった宗教団体の名を借りた、インチキ集団の嘘だったようだ。
ただ、その雑誌には宗教団体の名前や、具体的にどんなインチキが行われていたのかまでは書いていない。あくまでも「奇術界の王子」がインチキを暴いた、という事実だけが重要なようだった。
「へぇ。先輩のお兄さん、有名人なんだな」
「なんでか、テレビには殆ど出ないけどね。顔もいいから、かなり売れっ子らしいよ」
「なるほど」
パラパラとページをめくると、真白常君の写真も載っていた。年の頃は三十歳くらい。先輩と同じく、かなりの美形だ。ただし、先輩と違って背は高い。そこは兄妹で似なかったようだ。
特集ページの最後は、お兄さんの決め台詞らしい「タネも仕掛けもございます」という言葉で締められていた。……これ、同業者に怒られないのだろうか?
雑誌にはその他にも、お兄さんの様々な異名が書かれていた。
先述の「奇術界の王子」以外にも、「超能力者ハンター」やら「霊能力バスター」やら、かっこいいかどうか微妙に悩むものも。「平成のフーディーニ」というものもあるが、「フーディーニ」とはなんだろうか? よく分からない。
――中には、「名探偵」なんてものもある。「先輩とお揃いだな」等と、思わず頬が緩んでしまった。
「じゃあ、先輩が心霊現象とか超能力の噂を集めてるってのも、お兄さんの為か」
「多分ね。普段は世界中飛び回ってるから、中々会えないらしいけど」
「世界、ねぇ。先輩も高校を出たら、プロとしてデビューしたりするのかね?」
先輩がプロの奇術師としてステージに上がる姿を夢想する。
小学生みたいに小柄ながらも目鼻立ちの整った先輩は、ステージ上ではさながら妖精のような可憐さを見せるだろう。
けれども、披露するマジックの数々は見事の一言。会場が大歓声に包まれることは、まず間違いないはずだ。
「それはどうだろうなぁ。真白先輩、目立つの嫌いだし」
「ああ、それはなんか分かるな。あんな見た目なのに、俺、舞美に教えてもらうまで先輩のこと知らなかったし」
普通に考えれば、真白先輩ほどの美人ならば、一年生の間でも噂になっていておかしくないはずだ。特に男子高校生なんてのは、一日の大半を異性のことを考えて生きる動物だ。二年生にあれだけの美人がいるとなれば、話題になるはずだ。
にも拘らず、俺は奇術部を訪れるまで、先輩のことを全く知らなかった。それは、先輩自身が意識して人目を忍んでいたからなのだろう。
等と思っていると――。
「そりゃそうよ。真白先輩、普段はむっちゃ地味ぃな恰好に変装してるから。多分、廊下ですれ違っても気付かないと思うよ」
「はぁ? そんな、恰好変えたくらいで気付かないなんてことあるか? そもそも、真白先輩の身長じゃ、学校の中歩いてるだけで目立つじゃん。あんな小さい人、比企高にはあと何人かいるかいないかだぞ」
「ま、そう思うよね、普通は。でもさぁ――あの真白先輩だよ? 人を騙すのが商売の奇術師だよ? それは見事に『化ける』姿が思い浮かばない?」
「むぅ……」
確かに、そう言われるとそんな気もしてくる。そもそも、初対面の時に、大鋸先輩との即興芝居で俺を騙してみせた人だ。「地味な恰好」とやらも、それはビックリ仰天する変身ぶりなのではないだろうか。
「なあ、舞美。真白先輩、具体的にはどんな恰好してるんだ?」
「おやおや~? 気になる? 気になる? 先輩のことは、なんでもかんでも知りたくなっちゃった?」
「そう言うんじゃないよ。単純に気になっただけだ」
「ま、それは見てのお楽しみってことで~」
「なんだよ、それ」
舞美がニヤニヤしながら俺のことを弄り始める。こいつ、もしや俺が真白先輩に気があるとでも思っているのだろうか?
いや、気になっているのは確かだけれども、そういう感情ではない。――多分。
「ふふふ、それにね貴教。真白先輩の変装パターンは一つじゃないんだぜぇ? アタシだって全部は知らないんだよ。……しかも、真白先輩は分身も出来るんだよ!」
「……はっ? ぶ、分身?」
「そう! 前にね、先輩と廊下ですれ違ったことがあったんだけど……その後、不思議なことが起こったの! すれ違いざまにアタシから挨拶して、向こうも笑顔で手を振ってくれて、そのまま別れたんだけど……」
「ど、どうなったんだ?」
「廊下をそのまま歩いてたら、なんと! 真白先輩がまた前から歩いてきたの! しかも『え、先輩さっきすれ違いませんでしたか?』って訊いたら、『そうね。これで二度目ね』って言ったのよ!」
「……それは単に、先輩が廊下を行ったり来たりしてただけってオチじゃなく?」
至極当然の疑問を口にする。舞美は案外おっちょこちょいだ。
何か勘違いをしていた可能性が高い。だが――。
「違うヨー! アタシはね、二階のどん詰まりにある視聴覚室に向かってたの! 最初に先輩とすれ違った場所から二度目に会った場所までに、脇道なんてないんだよ!? 先輩が行って戻って来たんなら、絶対に気付くモン!」
「え、それはマジなのか?」
「マジもマジ、大マジだよ~! もう、信じてくれないなら、お話はここでオシマイ!」
舞美はちょっと拗ねるような表情を見せると、再びファミコンに集中し始めてしまった。どうやら、この話題はこれで終わり、ということらしい。
先輩が分身、というか分裂したという舞美の話は俄かには信じがたい。だが、舞美はこんなことで嘘を吐く奴でもない。ということは、そこには何らかのトリックがあるのではないだろうか?
次に先輩に会った時にでも、訊いてみることにしよう。
――それにしても、だ。真白先輩と知り合って、はや数日。少しは彼女のことを分かって来たと思っていたのだが、どうやらまだ全然だったらしい。俺より前から知り合いだったとはいえ、舞美の方が先輩のことをずっと熟知している。
ここ数日の感触では、舞美と先輩はそこまで頻繁に会っている訳でもなさそうなのに。何故だか、お互いのことをよく理解し合っているような雰囲気さえ感じる。
「……そういえばさ、舞美」
「なぁに?」
ふとあることが気になり、塔への挑戦を再開した舞美のポニーテールに呼びかける。
「舞美と先輩って、そもそもどうやって知り合ったんだ?」
「あ~……その内話すよ」
舞美は何故か気まずそうにして、その答えを口にしようとしなかった。
……女の子には、色々あるのかもしれない。
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