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Kapitel 02
神代の邪竜 04
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耀龍と麗祥は、真っ黒に変わった大地を見下ろして愕然とした。
世界の終焉のような大火、地獄が顕現したかのような業火。それは紛れもなく、兄弟のうち最大の火力を操る赫一瑪の容赦のない火焔の一太刀だった。
「こ、これが手緩いと仰有った理由か。《邪視》とは、一大哥が本気になられても、それでも殺せぬほどの怪物だと……ッ」
「こんなんじゃ……こんなんじゃ……天哥々が生きてるわけ、な……ッ」
耀龍の目には涙が滲んだ。麗祥のような心境にはなれなかった。絶望した。地獄の業火に焼かれ、耐えられる生き物がいるなど思えなかった。
「ティ……ティエ……あ……ティエン……ッ」
アキラも同様だった。上空で滞空する縁花の腕のなかで、震えながら譫言のように何度も名前を紡いだ。それしかできなかった。何もできなかった。救うことも身代わりになることも。
隔絶された世界にいて、気配も感じられず、実在さえも疑った。しかし、同じ世界にいたって、視界にいたって、何もできない。無力な自分にはできることなど何もない。
縁花は諦めるなと言った。本当にそうだ。何かする前に諦めるべきではなかった。諦める前に何かすべきだった。すべてもう遅いと悔いるくらいなら、この身を賭して、命を懸けて、何かしてあげたかった。
地上には黒い塊があった。顎を仰角に上げて両膝を突いて座りこんだ、霜髪の怪物だったものだ。髪も衣服も焼け落ちて全身真っ黒。時折パラパラと表面から黒い滓が剥げ落ちる。大火によって地表から洗い流された樹木と同じように黒炭と化していた。
バサンッ!
黒い塊に突如として羽が生えた。
その身よりも大きな皮膜の両翼を一掻き、空に舞い上がった。一瞬にして赫一瑪の眼前に到達した。
赫一瑪は黒い塊に目を見つけた。焼け爛れたり炭となったりした表面のなかでギラリと光った紫色の双眸が、こちらを見ていた。
人の脂と肉の焼けた臭いがする。焼け焦げた肉をパラパラと撒き散らす。そうなってまでも息絶えることのない醜悪な怪物。
「斯様な様に成り下がり…………見るに堪えん」
赫一瑪は手刀にネェベルを纏わせて鋭利に強化し、怪物の首筋に切りつけた。
ドォンッ! ――怪物は手刀によって地面へと跳ね飛ばされた。
赫一瑪は即座に怪物を追った。
怪物は宙で一回転して脚から着地。その瞬間、皮膚の焼け焦げた黒いものが一気に弾け飛んだ。一瞬にして頭部から霜髪が生え揃い、皮膚や黒い鱗は元通りに再生された。
怪物の間近に迫っていた赫一瑪に、剥げ落ちた黒い鱗片が一斉に襲いかかった。
チュインチュインッ、カカカンッ、キンッ! ――赫一瑪の眼前に牆壁が発生して〝飛鱗〟を弾いた。
赫一瑪が怪物に向かって手刀を振り下ろし、怪物は鋭利な爪を突き出した。
ズドォオンッ!
双方の攻撃と攻撃とが接触する直前、分厚く覆ったネェベル同士が反発し合ってふたりとも反対方向へ吹き飛んだ。
赫一瑪は難なく宙で体勢を立て直して着地した。
すぐさま耀龍が近くにやって来て、大丈夫かと声をかけた。
先ほど〝飛鱗〟を防いだ牆壁、あれは耀龍が兄の為に助力したものだった。優しくはない人物だと知ってはいても、血を分けた兄弟だ。咄嗟に身を案じる情はある。
赫一瑪は耀龍の問いかけにも答えず、目線を霜髪の怪物に固定していた。
「もう脚も生えたか。やはり再生速度が尋常ではない」
丸焼きにされた怪物の風貌は、以前とは少々異なった。
霜髪は足許にぞろびく元の長さを取り戻し、真新しい皮膚は青黒く色艶が増し、体表を覆う漆黒の鱗は以前よりも面積を増して鎧のような光沢を放った。二本の脚でしっかりと地面を踏み締めて立つ闘士型の体型。何処までが筋肉で、何処からが天然の鎧を纏っているのか見分けがつかない。人離れして逞しく恐ろしく、正しく怪物じみている。
霜髪の怪物はバチンッバチンッ、と三叉の尾を地面に叩きつけた。自身を鼓舞しているのか、歓喜しているのかもしれない。己を討ち滅ぼそうとする戦士の来臨を。
「我々と同じ生き物とは思えん」
赫一瑪が冷淡に言い捨てた言葉が、耀龍の耳に届いた。しかし、いいえ、そんなことはない、と直ちに否定できなかった。対峙する霜髪の怪物に、兄の面影は一切無かった。
同じ生き物とは思えない。それは耀龍の本音と一致した。兄を救わねばと思う反面、恐ろしくて消えてくれとも思う。この如何ともしがたい恐怖心を兄であったものに抱いているという罪悪感から逃げ出したかった。
ヴヴンッ。――チカッと眩しさが目を刺した。
耀龍が顔を顰めた瞬間、赫一瑪にドンッと突き飛ばされた。
シュインッ。――光の槍がすぐ傍を通過した。
耀龍は赫一瑪に突き飛ばされたお陰でそれを喰らわずに済んだ。
ヴンッ、ヴヴヴンッ。――霜髪の怪物の周囲に無数の光の槍が生じた。
耀龍が体勢を立て直す前に一斉に発射された。縁花が耀龍の前に走りこんできて、刀剣で以てそれらをすべて弾き落とした。
赫一瑪は光の槍を華麗に回避しながら霜髪の怪物と距離を取った。
光の槍はアキラたちのほうへも飛来した。アキラを守るルフトとヴィントはハッとしたが、回避するには光の槍は速すぎた。彼らは縁花のようにあれを相殺できる技術もネェベルも持ってはいない。盾になる覚悟を決めるしかなかった。
ズドンッ! ズダアンッ!
「グアァッ!」
ルフトとヴィントは、光の槍が着弾した威力で吹き飛ばされた。
アキラの視界は目映い光でいっぱいになった。光の槍が向かってきたことは分かったが、回避する術も防御する術も持たなかった。
バヂィンッ、ガチンッ、カキィンッ!
アキラの眼前に赫暁が降り立ち、ブンッと大剣を振り回した。光の槍を薙ぎ払って消滅させた。
赫暁は、赫一瑪と縁花が、このなかで自分に次ぐ手練れたちが、霜髪の怪物と攻防を繰り広げるのを確認し、アキラのほうへ爪先を向けた。
「間一髪だったな」
「あ、ありがとうございます」
赫暁は気にするなとばかりにニッと笑った。
耀龍は、アキラと赫暁とが向き合って何かを話しているのを目にした。戦闘の衝撃音が引っ切りなしに響き、ふたりから位置も離れており、声はまったく聞こえなかった。赫暁が懐から何かを取り出してアキラに手渡し、アキラに顔を近づけて耳許で何かを囁くような素振りがあった。
次の瞬間、アキラが霜髪の怪物に向かって駆け出してギョッとした。
「アキラ⁉」
驚いたのはルフトとヴィントも同じだ。光の槍の着弾に吹き飛ばされて地面に伏していたふたりは、ガバッと急いで起き上がった。
「いけません、アキラ殿!」
アキラのあとを追おうとしたふたりの前に、赫暁が立ちはだかった。
赫暁は大剣を肩に載せてふたりを悠然と見下ろした。
「主人の邪魔をするな、従者」
「アキラ殿に何をさせるつもりだ。あの方はご自分を守る術を持っていないのだぞッ」
「それはお前たちも同じこと。あの邪竜の前には、姑娘も有翼の子らも違いはない。だが、姑娘には姑娘だけの役目があるのよ」
赫暁は肩に担いでいた大剣を浮かせてヒュッと軽く取り回した。
ズガンッ! ――地面に大剣を突き立てた。
ルフトとヴィントは、不敵にニヤリと口角を引き上げた赫暁に気圧された。
赫=ニーズヘクルメギルの族長は稀代の武人として高名であり、実際に霜髪の怪物と渡り合う腕前を披露した。彼にとって年若い有翼人種の姉弟など赤子同然だ。
ヴィントは赫暁を突破できないことが歯痒かった。か弱い少女の背中が離れてゆくのを見詰めることしかできない。あの少女はとても慈悲深いが、あまりにも非力だと知っているのに。
――いけません、アキラ殿! たとえ何と引き換えであっても、ご自分の命を犠牲にするような真似をなさらないでください!
タタタタッ、とアキラは霜髪の怪物に一直線に駆けた。
体育の授業で全力疾走するときよりも心臓が高鳴った。ドクンッドクンッと痛いほど拍動した。それを無視して遮二無二手足を動かした。立ち止まったら恐くて足が竦んでしまいそうだった。
赫暁から〝飛鱗〟はネェベルに反応すると説明された。霜髪の怪物の意思ではなく、知覚ではなく、あれ自体がネェベルを感知して自動迎撃する厄介この上ない代物。あれがあっては接近することが難しく、接近できたとしても常に防ぎ続けなければならない。さもなくば、肉を抉られる。
この世界の住人は総量の大小はあれ、みなネェベルを有している。したがって、あれを切り抜けられるのはネェベルを持たないアキラだけだ。
アキラは説明自体を理解することはできた。しかし、触れれば肉を抉られるような代物がいつ飛んでくるか分からないのだから、恐怖を完全に払拭することはできなかった。
恐怖に足が停まってしまわぬように、赫暁から託されたものを握り締めて懸命に走った。
(恐い……! 恐いけど、本当に何も飛んでこない)
アキラがネェベルを持たないからだろうか、戦闘の衝撃音によって足音が掻き消されたのだろうか、どんどん距離が近づくのに、霜髪の怪物は一向にこちらを振り向きもせずアキラの存在に気づいていないようだ。
もうすぐ辿り着ける。そう思った瞬間、ヒュッ、と風を切る音が聞こえた。その音はとても近く、小石でも蹴ったのかと思った。
ズブチュンッ。
左手に何かぶつかったと思ったら、激痛が走った。
左の薬指が第二関節あたりから跳ね飛ばされてなくなっていた。そこには耀龍からもらった指輪があった場所だ。〝飛鱗〟は人間であるアキラが唯一持つネェベルを放つものを正確に撃ち抜いた。
「ッあああああ!」
アキラは悲鳴を上げて蹲った。
――痛い痛い痛い痛い痛いッ!
今まで味わったことのない激痛に左腕が震えた。薬指から広がって左手全部が痺れるような激痛。いま口を開いたらまた叫んでしまうに違いない。とにかく歯を食い縛った。
「父様ッ」
耀龍と麗祥が赫暁に詰め寄った。
「アキラに何を言ったの! あんな無茶をさせるなんてッ」
「メギンの短剣を渡した。あれを身に突き刺せば《邪視》を抑える効果がある」
メギンは、ネェベルを吸収する性質を持つ鉱石。純度の高いメギンを名匠が全身全霊を篭めて鍛えることにより、厖大なネェベルを吸収する逸品が生まれることがある。赫=ニーズヘクルメギルの家宝のひとつとして受け継がれるものもそういった類いのものだ。
それは耀龍も麗祥も知っている。しかし、赫暁を見詰める瞳は釈然としなかった。
「本当?」
耀龍から懐疑的に問われ、赫暁はハハッと笑みを零した。
「ご明察。察しがよくなったな、お前」
「父様?」
「俺の狙いは別だ」
赫暁は地面に突き立てた大剣を引き抜き、よっ、と肩に担ぎ上げた。ルフトたちに背を向けてアキラのほうへ目を遣った。
「姑娘に《オプファル》たる役目を果たしてもらう」
「は……?」
「天が《オプファル》を得て〝制約〟を破棄し、生来の完全な力を獲得すれば、内部より《邪視》を御すことも可能、という算段だ。そうなれば《邪視》の強大な力は天のものだ。クソ親父も二度と利用しようなどと考えまい。天の立場は揺るぎないものとなり、クソ親父の鬱陶しい介入もなくなる。一石二鳥だ」
赫暁の視界のなかで、アキラは蹲っていた。指を吹き飛ばされて苦痛に打ち震えていた。年端もゆかない少女が血を流して痛みに啼く、悲愴な姿。清らかな少女が穢らわしい怪物に立ち向かう、健気な姿。可憐で一途で無垢で、なんともパセティック。
「姑娘は……天の女は、イイ女だな。ほんの少しの望みさえあれば、アレの為に躊躇なく命を懸ける」
――「天を救えるのは、姑娘だけだ」――
赫暁はあのとき、アキラにそう囁きかけた。
それだけで事足りた。あの慈悲深く清廉な少女に命を捧げさせるには。
ガシッ。――耀龍は赫暁の衣服の、二の腕あたりを捕まえた。
赫暁は父と子の間柄だから心を許してのことだろうが、画策を饒舌に吐露したことが耀龍には腹立たしかった。アキラを犠牲にすると事もなげに言ってのけたのが許し難かった。父は我が子を見捨てないと兄は言った。我が子を見捨てない父が、我が子を何も理解していないことに憤慨した。
「天哥々の為にアキラを犠牲にするってことじゃないか……」
「お前も元よりそのつもりだったろう。以前より天の〝制約〟の破棄を望んでいた」
「天哥々もオレももう昔とは違うんだよ! 天哥々がアキラを殺すことになるなんて絶対にダメだ! そんなことになったら天哥々がどうなるか……ッ」
赫一瑪が近づいて耀龍を諭す。
「やめよ、耀龍。貴様が手をかけている御身は、我らが父上である前に赫の族長だ」
「どうでもいいよそんなこと! 天哥々に何かあったら父様だって許さないからッ」
パァンッ。――赫一瑪は耀龍の頬に手の平を張った。
それから耀龍の手首を捕まえて父親の服から引き剥がした。
耀龍は再び父親に食ってかかることはしなかったが、明らかに反抗的な目付きを見せた。いつも飄々としている末弟が、真正面から反抗してみせたのは本気の表れだった。
「畏れながら」と麗祥が口を開いた。
「私も今は龍と同じ思いです」
麗祥は耀龍よりも少しばかり理性的だった。しかし、拳をグッと握り締めて今にも噴出しそうな反抗心を押しこめていた。
耀龍と麗祥にとって、天尊は父親代わりだった。実の父親は公務に忙しく、上の兄ふたりも父親の補佐や課せられた責任を果たすことに邁進していた。無視されたわけでも蔑ろにされたわけでもない。ただ、接する時間が乏しかっただけだと理解している。それでも、天尊が父親や他の兄たちよりも自分たちに費やしてくれた時間と手間は意味の深いものだった。
弟たちの記憶のなかで、天尊も不在がちだった。任務で各地を飛び回る多忙な身でありながらも、可能な限り幼い弟たちの相手をしてくれた。時間の許す限り、自身の教えられることを教えてくれたと思う。上ふたりの兄と同じく年は離れているが、最も近しい兄であり、ともすれば実父よりも父親の情のようなものを注いでくれた。
だから、耀龍と麗祥は、何よりも天尊の幸福を望む。天尊の望まないことは何ひとつしたくはない。たとえそれが、天尊を救う唯ひとつの道であったとしても。敬愛する兄を兄のまま取り戻したければ、してはいけないことなのだ。
「ッ……! ハッ……ウッ」
アキラは地面に蹲って激痛に悶えた。止血をする道具も知識もない。指を失った根元からは血液が流れ続けた。
幸い、薬指ごと耀龍の指輪を吹き飛ばしてからは、赫暁の言うとおり〝飛鱗〟はかすりもしなかった。
激痛を噛み殺して顔を上げた。霜髪の怪物がすぐそこに迫った。天尊はアキラと比べると充分に大柄な人物であったが、さらに一回り大きくなったように思えた。事実、そうなのかもしれないし、自分の恐怖心がそう見せたのかもしれない。
巨体を揺らしながら一歩一歩近づいてくる霜髪の怪物を見据え、赫暁に託された短剣を握り締めた。
キンキンキンッ、カキン! チュインッ!
ルフトとヴィントはアキラの傍に行こうとするが〝飛鱗〟に阻まれていた。刀剣で叩き落としたり身を翻して躱したりするが〝飛鱗〟は無数に飛び回って埒が明かなかった。
「クソ! これでは近づけんッ」
「アキラ殿! アキラ殿ォー!」
ヴィントの呼び声は、アキラには届かなかった。
アキラの脳内は赫暁の言葉に支配されていた。天尊を救えるのは自分だけだという魔法の言葉。だからやるべきことをやらなくてはいけないという使命感。恋しいあの人を取り戻したい一心で、その身に余る使命だとは考えが及ばなかった。
もう後悔をしたくなかった。恋しい人との再会を、何もしないで諦めたのは過ちだった。あの人に、この身を賭して、命を懸けて、何かしてあげたかったのだと、自身の本心に気づいた。
これは本懐を遂げる最初で最後のチャンス。脆弱で何もできない自分が、恋しい人にしてあげられる唯一のこと。会いたい会いたいと願うだけではなく、寂しい寂しいと泣くだけではなく、あの人を取り戻す為の受難。
ぶちゅっ。――アキラは指が飛んだほうの手で短剣の鞘を地面に押さえつけ、その拍子に傷口から鮮血が噴き出した。
もう一方の手で柄を持って短剣を引き抜いた。真紅の血液が飛び散った乳白色の鞘から、濃い藍色の刀身が出てきた。メギンの短剣の刀身は、刃物というよりも、よく研磨された鉱石のようだった。
いよいよ霜髪の怪物が眼前にやってきて、アキラの目は右往左往した。何処を見たらよいか分からなかった。赫一瑪の火焔によって焼かれた肉体は頑丈さを増して再生したが、顔面の皮膚は爛れ、高い鼻はなく、一部は白骨が見えている。天尊の面影など微かにも残っていない、それはまさに醜いクリーチャーの面相だった。
(刺せって言われたけど、どこに刺せば……)
アキラには武術の心得はない。自分が切った張ったするなど想像したこともない。何処に刺せば致命傷で、何処に刺せば比較的軽傷で済むのかなど知らない。そもそも、赫暁から手渡された短剣は、どのような使い方をしても同じように効力を発揮する代物なのか。
ガッ。――アキラは霜髪の怪物に首を握られた。
霜髪の怪物は少女の細首を捕まえ、片手で軽々と目の高さと同じくらいに持ち上げた。
アキラの足は地面から離れ、怪物の太い指が首にめりこんだ。首が絞まって苦しい。窒息しそうで何も考えられない。アキラはとにかく短剣を取り落とさないことだけに必死だった。
「アッ……ウウッ……!」
力を振り絞り、ぷるぷると震える腕で短剣を持ち上げた。
トス。――霜髪の怪物の腕に短剣を突き立てた。
不思議なことに、縁花やルフトの斬撃を弾いた鋼鉄の鱗に難なく刃が入った。これがメギンの短剣の力なのかもしれない。
しかしながら、霜髪の怪物には何の変化も見られなかった。小娘が短剣を突き刺したとて致命傷にはなり得ないにしても、刃物が肉を裂けば痛みくらいはあるだろうに、呻きも漏らさず、顔色ひとつ変えなかった。痛覚が無いのか。感情が表出しにくいのか。それとも本当に何ともないのか。赫暁に言われたとおりに、やり遂げたというのに何も起こらなかった。
命を懸けたというのになんということだ。やるべきことを成し遂げたというのにどうして。差し出せるものはすべて差し出したというのにどうにもならない。
本当の絶望とは、こういうことか。自分のすべてを曝け出しても、できることが何もない。
ガクンッ。――アキラを持ち上げていた腕が突如として下がった。
地面に足がついたアキラは、呼吸が自由になりゲホゲホッと咳きこんだ。
メギンの短剣が突き立てられた腕が、脱力してだらんとぶら下がった。メギンの短剣から生じた紋様が、腕全体に血管のように走った。
霜髪の怪物は一向に苦痛を感じた素振りはないが、自身の腕に目を遣り、情況を理解していないようだった。
すぐに取るに足らないことと判断したか、自由が利くほうの腕でアキラの胸倉を乱暴に捕まえた。
ぶちっ、ぶちぶちぃ。――怪物の口の端が耳に向かって裂けた。鰐の顎のように上下に大きく開いた。
物凄い力で引き寄せられたアキラは、怪物の白い歯列を見て、目を見開いた。
――あ。食べられッ……。
霜髪の怪物が何をしようとしているか悟ったが、脱出する間も抵抗する間もなかった。鋭い牙が並んだ大きく開いた顎が近づいてくるのは緩慢な動作に見えたが、身動きできるような時間ではなかった。
ブジュウッ。――霜髪の怪物はアキラの首筋に食らいついた。
「うああああーッ!」
高い苦悶の叫声が上がった。
太い牙が白い肌を突き破って血液が噴き出した。柔らかい肉に容赦なく深く深くめりこんだ。アキラが必死に藻掻いても怪物の腕はびくともせず、ただひたすらに夥しい血流が肌も衣服も真っ赤に染め上げた。
じゅるる、じゅるる。血を啜られる音が聞こえる。
ミシッ、ミシッ。骨が軋む音が体内から聞こえる。
アキラは激痛に顔を歪めて何度も悲鳴を上げた。
……ゴキン!
「ッ――……」
霜髪の怪物の牙が骨を砕き、アキラは意識を失った。
「アッ……アキラ殿! アキラ殿アキラ殿アキラ殿アキラ殿ォオーッ!」
「ダメだヴィント! 近づけば切り刻まれッ……」
「オオオオオオオーーッ‼」
ヴィントは雄叫びを上げて駆け出した。姉の制止する声も聞かなかった。
ヴィントは〝飛鱗〟が飛び交う真っ只中に突っこんだ。腕も足も顔も切り裂かれ、抉られ、磨り減らしたが痛みを感じなかった。血煙を纏って跳躍して疾走した。
ルフトは此処まで鬼気迫る弟の勇姿を見るのは初めてだった。臆病ではないが蛮勇には程遠いと思っていた弟が、激憤に突き動かされている。
ヴィントは、誰よりも慈悲深い少女が、邪悪の顕現に血肉を啜られるのを、踏み躙られるのを、黙って見ていられなかった。
憤った。この世の不条理に慷嘆した。あんなにも優しい少女が、穏やかに生きられない世界なんて間違っている。小さな胸でただただ恋しいと想い、二目会いたいと願っただけなのに。
――あの邪竜が神代から蘇ったのに、アキラ殿のささやかな願いさえ叶わないのなら、元よりこの世の神々は無情なのだ。
ズドンッ!
ヴィントは太腿に衝撃を感じた。霜髪の怪物の三叉に分かれた尾のひとつに太腿を貫かれた。
駆けていた勢いのまま前のめりに転倒してゴロゴロゴロッと地面を転がった。
尾はすぐに引き抜かれたが、太腿に大きな孔を開けられ、立ち上がることはできなかった。歯を食い縛って顔を上げ、腕の力だけで地面を這う。
「アキラ殿ぉおおお!」
霜髪の怪物は、少女から手を離した。
少女は地面の上にくたりと転がされて身動きをしなかった。仰向けの恰好で瞼を閉じ、血液だけを垂れ流した。
霜髪の怪物は少女の身体の両側に足を置き、腕を振りかぶった。それは少女の胸骨をこじ開けて心臓を掴み出す所作だ。己の滋養として最高級のものがそこに在ると本能的に判っていた。
ガシィッ。――霜髪の怪物の腕は少女に届く寸前で停止した。
その手首を赫一瑪が捕まえていた。
霜髪の怪物は眼球だけを動かして自分の邪魔をした男をギロッと見た。赫一瑪も紫水晶の眼を一瞬も逸らすことなく見据えた。無言で睨み合い、ふたりの男の膂力がギチギチと拮抗した。
怪物の三叉の尾が、バシンッと地面を打って跳ね上がった。
ザシュッ、ドスゥッ! ――鋭い尾先が赫一瑪の足を切り裂き、腹を突いた。
「一大哥!」と耀龍と麗祥が声を上げた。
尾の一本は横たわる少女へと矛先を向けた。赫一瑪はそれを素手で掴み取った。鋸のような鱗が皮膚を引き裂き、掴んだ手から血が流れた。
赫一瑪は流血しても一歩も退かず、紫水晶を睨みつけ続けた。
「天尊」と怪物に向かって呼びかけた。
「貴様は無能な愚図だ。愛しい娘が食い殺されるのを黙って見ているつもりか」
ぽたた……。――夕立が降り始めたのかと思った。
アキラは頬に水滴がぶつかる刺激によって意識を取り戻した。
それは怪物の尾を掴む赫一瑪の手から流れ出た血液だった。生温かい雫は、蒸し暑い夏の雨のようだった。
「づあっ……うぅッ」
アキラは意識を取り戻した途端に激痛に襲われて身悶えた。苦痛に耐える術など知らない少女には、指一本を動かすことすら困難だった。否、苦痛はあるのに、鎖骨から下、腕の感覚が無かった。腕は本当に自分の身体に引っ付いているのだろうか。呼吸をするのも痛いのに、心臓がバクバクと高鳴っておとなしくしてくれない。自分の鼓動が激痛を伴った。
ぼたんっ。ぽとと。
顔に降り掛かってくる液体が、激痛に泣き叫びそうだったアキラを正気に引き留めた。
アキラはどうにか瞼をこじ開けて自分の真上を見た。
下から覗き見る顎の稜線を、見知っているような気がした。
「ティエン――……?」
口走ったあとで見誤ったと気づいた。黒い瞳に黒い髪、赫一瑪だった。
唐突に、神々から見放された気分になった。期待を裏切られた。願いを退けられた。地獄に突き落とされた。世界の終わりだ。悲しさと寂しさと恋しさと悔しさと、絶望に似た感情が一気に突沸した。
もう我慢するとか理性を保つとか、無理だ。羞じらう余裕なんて、大人を装う気丈なんて、もうどこにも残っていない。
――わたしにはもう何もない。命を懸けた。全身全霊を注いだ。あなたにしてあげられることはもう何もない。
「ティエっ……ティエン……ッ、ティエン。帰ってきてよ……。こんなに近くにいるのに……どうして帰ってきてくれないの……」
うわああああ、とアキラは子どものように声を上げて泣いた。腕を動かせないから泣き顔を隠すこともできなかった。もし身動きできたとしてもそうする余裕はなかった。
穢れを知らぬか弱く無力な少女が、己の運命を恨みもせず、ただひたすらに恋しいとさめざめと涙する様は、実に物悲しく美しい。
直向きな願いを結実させてやりたいと、どうにかしてやりたいと思っても、そこに在る悪党が邪魔をしているわけではない。邪魔者を排除すればどうにかなるなどという分かりやすい話ではない。それを許さないのは神々だ。神々の意志、或いは気まぐれには、誰しもが抗いようがない。
少女の啜り泣きは次第に弱々しくなっていった。泣き疲れた子どもがゆっくりと眠りに就くように微かになっていった。竟には、真っ黒の焦土に渺々と吹き荒ぶ風に掻き消された。
「姑娘……」
赫一瑪はアキラを見下ろして目を細めた。
アキラの顔面は生気を失って蒼白だった。生きたまま骨を噛み砕かれ、大量の血液を失い、涙して体力は尽き、つまりは恋しい男に殺されかけた。これでもかというほど心を挫かれた。永遠の睡りに就いてもおかしくない悲劇だ。この少女に直ちに起き上がって祈れと、誰が鞭打てようか。
赫一瑪は、握り締めていた霜髪の怪物の腕が、石のように硬くなったことに気づいた。それ自体が意志を持つ生き物のようにビチビチと動いていた尾も、同様に硬くなっていた。握り締める力を緩めても尾が動き出すことはなかった。
赫一瑪は霜髪の怪物をまじまじと見た。捕まえた腕には温度がなかった。至近距離にいるのに息遣いさえも感じられなかった。
怪物は開眼したまま停止していた。目玉に紫水晶をはめ込んだマルスの彫像のように。
「……完全沈黙した」
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
世界の終焉のような大火、地獄が顕現したかのような業火。それは紛れもなく、兄弟のうち最大の火力を操る赫一瑪の容赦のない火焔の一太刀だった。
「こ、これが手緩いと仰有った理由か。《邪視》とは、一大哥が本気になられても、それでも殺せぬほどの怪物だと……ッ」
「こんなんじゃ……こんなんじゃ……天哥々が生きてるわけ、な……ッ」
耀龍の目には涙が滲んだ。麗祥のような心境にはなれなかった。絶望した。地獄の業火に焼かれ、耐えられる生き物がいるなど思えなかった。
「ティ……ティエ……あ……ティエン……ッ」
アキラも同様だった。上空で滞空する縁花の腕のなかで、震えながら譫言のように何度も名前を紡いだ。それしかできなかった。何もできなかった。救うことも身代わりになることも。
隔絶された世界にいて、気配も感じられず、実在さえも疑った。しかし、同じ世界にいたって、視界にいたって、何もできない。無力な自分にはできることなど何もない。
縁花は諦めるなと言った。本当にそうだ。何かする前に諦めるべきではなかった。諦める前に何かすべきだった。すべてもう遅いと悔いるくらいなら、この身を賭して、命を懸けて、何かしてあげたかった。
地上には黒い塊があった。顎を仰角に上げて両膝を突いて座りこんだ、霜髪の怪物だったものだ。髪も衣服も焼け落ちて全身真っ黒。時折パラパラと表面から黒い滓が剥げ落ちる。大火によって地表から洗い流された樹木と同じように黒炭と化していた。
バサンッ!
黒い塊に突如として羽が生えた。
その身よりも大きな皮膜の両翼を一掻き、空に舞い上がった。一瞬にして赫一瑪の眼前に到達した。
赫一瑪は黒い塊に目を見つけた。焼け爛れたり炭となったりした表面のなかでギラリと光った紫色の双眸が、こちらを見ていた。
人の脂と肉の焼けた臭いがする。焼け焦げた肉をパラパラと撒き散らす。そうなってまでも息絶えることのない醜悪な怪物。
「斯様な様に成り下がり…………見るに堪えん」
赫一瑪は手刀にネェベルを纏わせて鋭利に強化し、怪物の首筋に切りつけた。
ドォンッ! ――怪物は手刀によって地面へと跳ね飛ばされた。
赫一瑪は即座に怪物を追った。
怪物は宙で一回転して脚から着地。その瞬間、皮膚の焼け焦げた黒いものが一気に弾け飛んだ。一瞬にして頭部から霜髪が生え揃い、皮膚や黒い鱗は元通りに再生された。
怪物の間近に迫っていた赫一瑪に、剥げ落ちた黒い鱗片が一斉に襲いかかった。
チュインチュインッ、カカカンッ、キンッ! ――赫一瑪の眼前に牆壁が発生して〝飛鱗〟を弾いた。
赫一瑪が怪物に向かって手刀を振り下ろし、怪物は鋭利な爪を突き出した。
ズドォオンッ!
双方の攻撃と攻撃とが接触する直前、分厚く覆ったネェベル同士が反発し合ってふたりとも反対方向へ吹き飛んだ。
赫一瑪は難なく宙で体勢を立て直して着地した。
すぐさま耀龍が近くにやって来て、大丈夫かと声をかけた。
先ほど〝飛鱗〟を防いだ牆壁、あれは耀龍が兄の為に助力したものだった。優しくはない人物だと知ってはいても、血を分けた兄弟だ。咄嗟に身を案じる情はある。
赫一瑪は耀龍の問いかけにも答えず、目線を霜髪の怪物に固定していた。
「もう脚も生えたか。やはり再生速度が尋常ではない」
丸焼きにされた怪物の風貌は、以前とは少々異なった。
霜髪は足許にぞろびく元の長さを取り戻し、真新しい皮膚は青黒く色艶が増し、体表を覆う漆黒の鱗は以前よりも面積を増して鎧のような光沢を放った。二本の脚でしっかりと地面を踏み締めて立つ闘士型の体型。何処までが筋肉で、何処からが天然の鎧を纏っているのか見分けがつかない。人離れして逞しく恐ろしく、正しく怪物じみている。
霜髪の怪物はバチンッバチンッ、と三叉の尾を地面に叩きつけた。自身を鼓舞しているのか、歓喜しているのかもしれない。己を討ち滅ぼそうとする戦士の来臨を。
「我々と同じ生き物とは思えん」
赫一瑪が冷淡に言い捨てた言葉が、耀龍の耳に届いた。しかし、いいえ、そんなことはない、と直ちに否定できなかった。対峙する霜髪の怪物に、兄の面影は一切無かった。
同じ生き物とは思えない。それは耀龍の本音と一致した。兄を救わねばと思う反面、恐ろしくて消えてくれとも思う。この如何ともしがたい恐怖心を兄であったものに抱いているという罪悪感から逃げ出したかった。
ヴヴンッ。――チカッと眩しさが目を刺した。
耀龍が顔を顰めた瞬間、赫一瑪にドンッと突き飛ばされた。
シュインッ。――光の槍がすぐ傍を通過した。
耀龍は赫一瑪に突き飛ばされたお陰でそれを喰らわずに済んだ。
ヴンッ、ヴヴヴンッ。――霜髪の怪物の周囲に無数の光の槍が生じた。
耀龍が体勢を立て直す前に一斉に発射された。縁花が耀龍の前に走りこんできて、刀剣で以てそれらをすべて弾き落とした。
赫一瑪は光の槍を華麗に回避しながら霜髪の怪物と距離を取った。
光の槍はアキラたちのほうへも飛来した。アキラを守るルフトとヴィントはハッとしたが、回避するには光の槍は速すぎた。彼らは縁花のようにあれを相殺できる技術もネェベルも持ってはいない。盾になる覚悟を決めるしかなかった。
ズドンッ! ズダアンッ!
「グアァッ!」
ルフトとヴィントは、光の槍が着弾した威力で吹き飛ばされた。
アキラの視界は目映い光でいっぱいになった。光の槍が向かってきたことは分かったが、回避する術も防御する術も持たなかった。
バヂィンッ、ガチンッ、カキィンッ!
アキラの眼前に赫暁が降り立ち、ブンッと大剣を振り回した。光の槍を薙ぎ払って消滅させた。
赫暁は、赫一瑪と縁花が、このなかで自分に次ぐ手練れたちが、霜髪の怪物と攻防を繰り広げるのを確認し、アキラのほうへ爪先を向けた。
「間一髪だったな」
「あ、ありがとうございます」
赫暁は気にするなとばかりにニッと笑った。
耀龍は、アキラと赫暁とが向き合って何かを話しているのを目にした。戦闘の衝撃音が引っ切りなしに響き、ふたりから位置も離れており、声はまったく聞こえなかった。赫暁が懐から何かを取り出してアキラに手渡し、アキラに顔を近づけて耳許で何かを囁くような素振りがあった。
次の瞬間、アキラが霜髪の怪物に向かって駆け出してギョッとした。
「アキラ⁉」
驚いたのはルフトとヴィントも同じだ。光の槍の着弾に吹き飛ばされて地面に伏していたふたりは、ガバッと急いで起き上がった。
「いけません、アキラ殿!」
アキラのあとを追おうとしたふたりの前に、赫暁が立ちはだかった。
赫暁は大剣を肩に載せてふたりを悠然と見下ろした。
「主人の邪魔をするな、従者」
「アキラ殿に何をさせるつもりだ。あの方はご自分を守る術を持っていないのだぞッ」
「それはお前たちも同じこと。あの邪竜の前には、姑娘も有翼の子らも違いはない。だが、姑娘には姑娘だけの役目があるのよ」
赫暁は肩に担いでいた大剣を浮かせてヒュッと軽く取り回した。
ズガンッ! ――地面に大剣を突き立てた。
ルフトとヴィントは、不敵にニヤリと口角を引き上げた赫暁に気圧された。
赫=ニーズヘクルメギルの族長は稀代の武人として高名であり、実際に霜髪の怪物と渡り合う腕前を披露した。彼にとって年若い有翼人種の姉弟など赤子同然だ。
ヴィントは赫暁を突破できないことが歯痒かった。か弱い少女の背中が離れてゆくのを見詰めることしかできない。あの少女はとても慈悲深いが、あまりにも非力だと知っているのに。
――いけません、アキラ殿! たとえ何と引き換えであっても、ご自分の命を犠牲にするような真似をなさらないでください!
タタタタッ、とアキラは霜髪の怪物に一直線に駆けた。
体育の授業で全力疾走するときよりも心臓が高鳴った。ドクンッドクンッと痛いほど拍動した。それを無視して遮二無二手足を動かした。立ち止まったら恐くて足が竦んでしまいそうだった。
赫暁から〝飛鱗〟はネェベルに反応すると説明された。霜髪の怪物の意思ではなく、知覚ではなく、あれ自体がネェベルを感知して自動迎撃する厄介この上ない代物。あれがあっては接近することが難しく、接近できたとしても常に防ぎ続けなければならない。さもなくば、肉を抉られる。
この世界の住人は総量の大小はあれ、みなネェベルを有している。したがって、あれを切り抜けられるのはネェベルを持たないアキラだけだ。
アキラは説明自体を理解することはできた。しかし、触れれば肉を抉られるような代物がいつ飛んでくるか分からないのだから、恐怖を完全に払拭することはできなかった。
恐怖に足が停まってしまわぬように、赫暁から託されたものを握り締めて懸命に走った。
(恐い……! 恐いけど、本当に何も飛んでこない)
アキラがネェベルを持たないからだろうか、戦闘の衝撃音によって足音が掻き消されたのだろうか、どんどん距離が近づくのに、霜髪の怪物は一向にこちらを振り向きもせずアキラの存在に気づいていないようだ。
もうすぐ辿り着ける。そう思った瞬間、ヒュッ、と風を切る音が聞こえた。その音はとても近く、小石でも蹴ったのかと思った。
ズブチュンッ。
左手に何かぶつかったと思ったら、激痛が走った。
左の薬指が第二関節あたりから跳ね飛ばされてなくなっていた。そこには耀龍からもらった指輪があった場所だ。〝飛鱗〟は人間であるアキラが唯一持つネェベルを放つものを正確に撃ち抜いた。
「ッあああああ!」
アキラは悲鳴を上げて蹲った。
――痛い痛い痛い痛い痛いッ!
今まで味わったことのない激痛に左腕が震えた。薬指から広がって左手全部が痺れるような激痛。いま口を開いたらまた叫んでしまうに違いない。とにかく歯を食い縛った。
「父様ッ」
耀龍と麗祥が赫暁に詰め寄った。
「アキラに何を言ったの! あんな無茶をさせるなんてッ」
「メギンの短剣を渡した。あれを身に突き刺せば《邪視》を抑える効果がある」
メギンは、ネェベルを吸収する性質を持つ鉱石。純度の高いメギンを名匠が全身全霊を篭めて鍛えることにより、厖大なネェベルを吸収する逸品が生まれることがある。赫=ニーズヘクルメギルの家宝のひとつとして受け継がれるものもそういった類いのものだ。
それは耀龍も麗祥も知っている。しかし、赫暁を見詰める瞳は釈然としなかった。
「本当?」
耀龍から懐疑的に問われ、赫暁はハハッと笑みを零した。
「ご明察。察しがよくなったな、お前」
「父様?」
「俺の狙いは別だ」
赫暁は地面に突き立てた大剣を引き抜き、よっ、と肩に担ぎ上げた。ルフトたちに背を向けてアキラのほうへ目を遣った。
「姑娘に《オプファル》たる役目を果たしてもらう」
「は……?」
「天が《オプファル》を得て〝制約〟を破棄し、生来の完全な力を獲得すれば、内部より《邪視》を御すことも可能、という算段だ。そうなれば《邪視》の強大な力は天のものだ。クソ親父も二度と利用しようなどと考えまい。天の立場は揺るぎないものとなり、クソ親父の鬱陶しい介入もなくなる。一石二鳥だ」
赫暁の視界のなかで、アキラは蹲っていた。指を吹き飛ばされて苦痛に打ち震えていた。年端もゆかない少女が血を流して痛みに啼く、悲愴な姿。清らかな少女が穢らわしい怪物に立ち向かう、健気な姿。可憐で一途で無垢で、なんともパセティック。
「姑娘は……天の女は、イイ女だな。ほんの少しの望みさえあれば、アレの為に躊躇なく命を懸ける」
――「天を救えるのは、姑娘だけだ」――
赫暁はあのとき、アキラにそう囁きかけた。
それだけで事足りた。あの慈悲深く清廉な少女に命を捧げさせるには。
ガシッ。――耀龍は赫暁の衣服の、二の腕あたりを捕まえた。
赫暁は父と子の間柄だから心を許してのことだろうが、画策を饒舌に吐露したことが耀龍には腹立たしかった。アキラを犠牲にすると事もなげに言ってのけたのが許し難かった。父は我が子を見捨てないと兄は言った。我が子を見捨てない父が、我が子を何も理解していないことに憤慨した。
「天哥々の為にアキラを犠牲にするってことじゃないか……」
「お前も元よりそのつもりだったろう。以前より天の〝制約〟の破棄を望んでいた」
「天哥々もオレももう昔とは違うんだよ! 天哥々がアキラを殺すことになるなんて絶対にダメだ! そんなことになったら天哥々がどうなるか……ッ」
赫一瑪が近づいて耀龍を諭す。
「やめよ、耀龍。貴様が手をかけている御身は、我らが父上である前に赫の族長だ」
「どうでもいいよそんなこと! 天哥々に何かあったら父様だって許さないからッ」
パァンッ。――赫一瑪は耀龍の頬に手の平を張った。
それから耀龍の手首を捕まえて父親の服から引き剥がした。
耀龍は再び父親に食ってかかることはしなかったが、明らかに反抗的な目付きを見せた。いつも飄々としている末弟が、真正面から反抗してみせたのは本気の表れだった。
「畏れながら」と麗祥が口を開いた。
「私も今は龍と同じ思いです」
麗祥は耀龍よりも少しばかり理性的だった。しかし、拳をグッと握り締めて今にも噴出しそうな反抗心を押しこめていた。
耀龍と麗祥にとって、天尊は父親代わりだった。実の父親は公務に忙しく、上の兄ふたりも父親の補佐や課せられた責任を果たすことに邁進していた。無視されたわけでも蔑ろにされたわけでもない。ただ、接する時間が乏しかっただけだと理解している。それでも、天尊が父親や他の兄たちよりも自分たちに費やしてくれた時間と手間は意味の深いものだった。
弟たちの記憶のなかで、天尊も不在がちだった。任務で各地を飛び回る多忙な身でありながらも、可能な限り幼い弟たちの相手をしてくれた。時間の許す限り、自身の教えられることを教えてくれたと思う。上ふたりの兄と同じく年は離れているが、最も近しい兄であり、ともすれば実父よりも父親の情のようなものを注いでくれた。
だから、耀龍と麗祥は、何よりも天尊の幸福を望む。天尊の望まないことは何ひとつしたくはない。たとえそれが、天尊を救う唯ひとつの道であったとしても。敬愛する兄を兄のまま取り戻したければ、してはいけないことなのだ。
「ッ……! ハッ……ウッ」
アキラは地面に蹲って激痛に悶えた。止血をする道具も知識もない。指を失った根元からは血液が流れ続けた。
幸い、薬指ごと耀龍の指輪を吹き飛ばしてからは、赫暁の言うとおり〝飛鱗〟はかすりもしなかった。
激痛を噛み殺して顔を上げた。霜髪の怪物がすぐそこに迫った。天尊はアキラと比べると充分に大柄な人物であったが、さらに一回り大きくなったように思えた。事実、そうなのかもしれないし、自分の恐怖心がそう見せたのかもしれない。
巨体を揺らしながら一歩一歩近づいてくる霜髪の怪物を見据え、赫暁に託された短剣を握り締めた。
キンキンキンッ、カキン! チュインッ!
ルフトとヴィントはアキラの傍に行こうとするが〝飛鱗〟に阻まれていた。刀剣で叩き落としたり身を翻して躱したりするが〝飛鱗〟は無数に飛び回って埒が明かなかった。
「クソ! これでは近づけんッ」
「アキラ殿! アキラ殿ォー!」
ヴィントの呼び声は、アキラには届かなかった。
アキラの脳内は赫暁の言葉に支配されていた。天尊を救えるのは自分だけだという魔法の言葉。だからやるべきことをやらなくてはいけないという使命感。恋しいあの人を取り戻したい一心で、その身に余る使命だとは考えが及ばなかった。
もう後悔をしたくなかった。恋しい人との再会を、何もしないで諦めたのは過ちだった。あの人に、この身を賭して、命を懸けて、何かしてあげたかったのだと、自身の本心に気づいた。
これは本懐を遂げる最初で最後のチャンス。脆弱で何もできない自分が、恋しい人にしてあげられる唯一のこと。会いたい会いたいと願うだけではなく、寂しい寂しいと泣くだけではなく、あの人を取り戻す為の受難。
ぶちゅっ。――アキラは指が飛んだほうの手で短剣の鞘を地面に押さえつけ、その拍子に傷口から鮮血が噴き出した。
もう一方の手で柄を持って短剣を引き抜いた。真紅の血液が飛び散った乳白色の鞘から、濃い藍色の刀身が出てきた。メギンの短剣の刀身は、刃物というよりも、よく研磨された鉱石のようだった。
いよいよ霜髪の怪物が眼前にやってきて、アキラの目は右往左往した。何処を見たらよいか分からなかった。赫一瑪の火焔によって焼かれた肉体は頑丈さを増して再生したが、顔面の皮膚は爛れ、高い鼻はなく、一部は白骨が見えている。天尊の面影など微かにも残っていない、それはまさに醜いクリーチャーの面相だった。
(刺せって言われたけど、どこに刺せば……)
アキラには武術の心得はない。自分が切った張ったするなど想像したこともない。何処に刺せば致命傷で、何処に刺せば比較的軽傷で済むのかなど知らない。そもそも、赫暁から手渡された短剣は、どのような使い方をしても同じように効力を発揮する代物なのか。
ガッ。――アキラは霜髪の怪物に首を握られた。
霜髪の怪物は少女の細首を捕まえ、片手で軽々と目の高さと同じくらいに持ち上げた。
アキラの足は地面から離れ、怪物の太い指が首にめりこんだ。首が絞まって苦しい。窒息しそうで何も考えられない。アキラはとにかく短剣を取り落とさないことだけに必死だった。
「アッ……ウウッ……!」
力を振り絞り、ぷるぷると震える腕で短剣を持ち上げた。
トス。――霜髪の怪物の腕に短剣を突き立てた。
不思議なことに、縁花やルフトの斬撃を弾いた鋼鉄の鱗に難なく刃が入った。これがメギンの短剣の力なのかもしれない。
しかしながら、霜髪の怪物には何の変化も見られなかった。小娘が短剣を突き刺したとて致命傷にはなり得ないにしても、刃物が肉を裂けば痛みくらいはあるだろうに、呻きも漏らさず、顔色ひとつ変えなかった。痛覚が無いのか。感情が表出しにくいのか。それとも本当に何ともないのか。赫暁に言われたとおりに、やり遂げたというのに何も起こらなかった。
命を懸けたというのになんということだ。やるべきことを成し遂げたというのにどうして。差し出せるものはすべて差し出したというのにどうにもならない。
本当の絶望とは、こういうことか。自分のすべてを曝け出しても、できることが何もない。
ガクンッ。――アキラを持ち上げていた腕が突如として下がった。
地面に足がついたアキラは、呼吸が自由になりゲホゲホッと咳きこんだ。
メギンの短剣が突き立てられた腕が、脱力してだらんとぶら下がった。メギンの短剣から生じた紋様が、腕全体に血管のように走った。
霜髪の怪物は一向に苦痛を感じた素振りはないが、自身の腕に目を遣り、情況を理解していないようだった。
すぐに取るに足らないことと判断したか、自由が利くほうの腕でアキラの胸倉を乱暴に捕まえた。
ぶちっ、ぶちぶちぃ。――怪物の口の端が耳に向かって裂けた。鰐の顎のように上下に大きく開いた。
物凄い力で引き寄せられたアキラは、怪物の白い歯列を見て、目を見開いた。
――あ。食べられッ……。
霜髪の怪物が何をしようとしているか悟ったが、脱出する間も抵抗する間もなかった。鋭い牙が並んだ大きく開いた顎が近づいてくるのは緩慢な動作に見えたが、身動きできるような時間ではなかった。
ブジュウッ。――霜髪の怪物はアキラの首筋に食らいついた。
「うああああーッ!」
高い苦悶の叫声が上がった。
太い牙が白い肌を突き破って血液が噴き出した。柔らかい肉に容赦なく深く深くめりこんだ。アキラが必死に藻掻いても怪物の腕はびくともせず、ただひたすらに夥しい血流が肌も衣服も真っ赤に染め上げた。
じゅるる、じゅるる。血を啜られる音が聞こえる。
ミシッ、ミシッ。骨が軋む音が体内から聞こえる。
アキラは激痛に顔を歪めて何度も悲鳴を上げた。
……ゴキン!
「ッ――……」
霜髪の怪物の牙が骨を砕き、アキラは意識を失った。
「アッ……アキラ殿! アキラ殿アキラ殿アキラ殿アキラ殿ォオーッ!」
「ダメだヴィント! 近づけば切り刻まれッ……」
「オオオオオオオーーッ‼」
ヴィントは雄叫びを上げて駆け出した。姉の制止する声も聞かなかった。
ヴィントは〝飛鱗〟が飛び交う真っ只中に突っこんだ。腕も足も顔も切り裂かれ、抉られ、磨り減らしたが痛みを感じなかった。血煙を纏って跳躍して疾走した。
ルフトは此処まで鬼気迫る弟の勇姿を見るのは初めてだった。臆病ではないが蛮勇には程遠いと思っていた弟が、激憤に突き動かされている。
ヴィントは、誰よりも慈悲深い少女が、邪悪の顕現に血肉を啜られるのを、踏み躙られるのを、黙って見ていられなかった。
憤った。この世の不条理に慷嘆した。あんなにも優しい少女が、穏やかに生きられない世界なんて間違っている。小さな胸でただただ恋しいと想い、二目会いたいと願っただけなのに。
――あの邪竜が神代から蘇ったのに、アキラ殿のささやかな願いさえ叶わないのなら、元よりこの世の神々は無情なのだ。
ズドンッ!
ヴィントは太腿に衝撃を感じた。霜髪の怪物の三叉に分かれた尾のひとつに太腿を貫かれた。
駆けていた勢いのまま前のめりに転倒してゴロゴロゴロッと地面を転がった。
尾はすぐに引き抜かれたが、太腿に大きな孔を開けられ、立ち上がることはできなかった。歯を食い縛って顔を上げ、腕の力だけで地面を這う。
「アキラ殿ぉおおお!」
霜髪の怪物は、少女から手を離した。
少女は地面の上にくたりと転がされて身動きをしなかった。仰向けの恰好で瞼を閉じ、血液だけを垂れ流した。
霜髪の怪物は少女の身体の両側に足を置き、腕を振りかぶった。それは少女の胸骨をこじ開けて心臓を掴み出す所作だ。己の滋養として最高級のものがそこに在ると本能的に判っていた。
ガシィッ。――霜髪の怪物の腕は少女に届く寸前で停止した。
その手首を赫一瑪が捕まえていた。
霜髪の怪物は眼球だけを動かして自分の邪魔をした男をギロッと見た。赫一瑪も紫水晶の眼を一瞬も逸らすことなく見据えた。無言で睨み合い、ふたりの男の膂力がギチギチと拮抗した。
怪物の三叉の尾が、バシンッと地面を打って跳ね上がった。
ザシュッ、ドスゥッ! ――鋭い尾先が赫一瑪の足を切り裂き、腹を突いた。
「一大哥!」と耀龍と麗祥が声を上げた。
尾の一本は横たわる少女へと矛先を向けた。赫一瑪はそれを素手で掴み取った。鋸のような鱗が皮膚を引き裂き、掴んだ手から血が流れた。
赫一瑪は流血しても一歩も退かず、紫水晶を睨みつけ続けた。
「天尊」と怪物に向かって呼びかけた。
「貴様は無能な愚図だ。愛しい娘が食い殺されるのを黙って見ているつもりか」
ぽたた……。――夕立が降り始めたのかと思った。
アキラは頬に水滴がぶつかる刺激によって意識を取り戻した。
それは怪物の尾を掴む赫一瑪の手から流れ出た血液だった。生温かい雫は、蒸し暑い夏の雨のようだった。
「づあっ……うぅッ」
アキラは意識を取り戻した途端に激痛に襲われて身悶えた。苦痛に耐える術など知らない少女には、指一本を動かすことすら困難だった。否、苦痛はあるのに、鎖骨から下、腕の感覚が無かった。腕は本当に自分の身体に引っ付いているのだろうか。呼吸をするのも痛いのに、心臓がバクバクと高鳴っておとなしくしてくれない。自分の鼓動が激痛を伴った。
ぼたんっ。ぽとと。
顔に降り掛かってくる液体が、激痛に泣き叫びそうだったアキラを正気に引き留めた。
アキラはどうにか瞼をこじ開けて自分の真上を見た。
下から覗き見る顎の稜線を、見知っているような気がした。
「ティエン――……?」
口走ったあとで見誤ったと気づいた。黒い瞳に黒い髪、赫一瑪だった。
唐突に、神々から見放された気分になった。期待を裏切られた。願いを退けられた。地獄に突き落とされた。世界の終わりだ。悲しさと寂しさと恋しさと悔しさと、絶望に似た感情が一気に突沸した。
もう我慢するとか理性を保つとか、無理だ。羞じらう余裕なんて、大人を装う気丈なんて、もうどこにも残っていない。
――わたしにはもう何もない。命を懸けた。全身全霊を注いだ。あなたにしてあげられることはもう何もない。
「ティエっ……ティエン……ッ、ティエン。帰ってきてよ……。こんなに近くにいるのに……どうして帰ってきてくれないの……」
うわああああ、とアキラは子どものように声を上げて泣いた。腕を動かせないから泣き顔を隠すこともできなかった。もし身動きできたとしてもそうする余裕はなかった。
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直向きな願いを結実させてやりたいと、どうにかしてやりたいと思っても、そこに在る悪党が邪魔をしているわけではない。邪魔者を排除すればどうにかなるなどという分かりやすい話ではない。それを許さないのは神々だ。神々の意志、或いは気まぐれには、誰しもが抗いようがない。
少女の啜り泣きは次第に弱々しくなっていった。泣き疲れた子どもがゆっくりと眠りに就くように微かになっていった。竟には、真っ黒の焦土に渺々と吹き荒ぶ風に掻き消された。
「姑娘……」
赫一瑪はアキラを見下ろして目を細めた。
アキラの顔面は生気を失って蒼白だった。生きたまま骨を噛み砕かれ、大量の血液を失い、涙して体力は尽き、つまりは恋しい男に殺されかけた。これでもかというほど心を挫かれた。永遠の睡りに就いてもおかしくない悲劇だ。この少女に直ちに起き上がって祈れと、誰が鞭打てようか。
赫一瑪は、握り締めていた霜髪の怪物の腕が、石のように硬くなったことに気づいた。それ自体が意志を持つ生き物のようにビチビチと動いていた尾も、同様に硬くなっていた。握り締める力を緩めても尾が動き出すことはなかった。
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