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第21話 ゴブリン洞窟の戦い1

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 交渉から戻った俺たちから報告を聞いたマーカスとヴィルは特に驚かなかった。

「まぁ、結果は知ってたよ」
「オレも分かってたよ、兄ちゃん」

 キャンプではコボルトたちのまだ全員が起きていて、それぞれが何やら忙しそうに作業に励んでいた。

「時間が惜しい。もう、ぼくたちでゴブリンを退治するしかない」
「だろうな」
「うん」

 マーカスとヴィルはそれぞれ既に武装していた。マーカスは鎖帷子を着込み、背中に短い槍を二本、腰にはショートソードと手斧を左右に下げている。ヴィルは皮の鎧を着こんで短剣を左右に二本ずつ吊っていた。

「作戦を立てよう」

 焚火の周りに、キャンプにいる全員が集まった。みんなが真剣なまなざしで俺たちを見つめている。

「すぐに出発するの?」

 俺はネフューに尋ねる。パーティーでは彼がリーダーだ。それにネフューはゴブリン退治についてはここにいる誰よりも経験が豊富だった。

「いや、今夜は休んで明朝の暗いうちに出発する。夜明けと共に襲撃する」
「それって捕まった人たちが……」
「分かってる!」

 ネフューが声を荒げる。みんなの視線がネフューに集まる。

「だが、ぼくたちは絶対にゴブリンに負けるわけにはいかないんだ……。怒りに任せて十分な準備も作戦もなしに飛び込んでしまっては、また奴らの罠にはめられて、また地獄を見ることになる」

 ネフューは地面を見つめて沈黙する。

「なぁ坊主、俺もゴブリンに捕まった連中がどんな恐ろしい目に会うのかは知ってるぜ。いま捕まってる奴らのことはまったく知らねえが、心底むかっ腹が立つし、いますぐゴブリン共に剣をぶっ刺して、首をねてやりてぇ」

 マーカスがネフューを見つめて続ける。

「だが、そうやって頭に血が昇った連中を罠に引っ掛けて返り討ちにしちまうのが、あいつらの一番得意とするところなんだよ。悪知恵に関しては人間より遥かにやつらは知能が高い。怒りに任せてゴブリンに突っ込んで落とし穴なんかに引っ掛かって死んだ奴を、俺は山ほど見てきた」

 ネフューが俯いたままで話を言った。

「フィールドで偶然出くわしたゴブリンたちなら、それほど恐れなくてもいいかもしれない。だが奴らの巣に出向くときは別だ、魔術師の館に忍び込みこむくらいの用心が必要なんだよ」

 マーカスがネフューの背中を思いっきり叩く。

「おら、しっかりしろネフュー! お前の大嫌いなゴブリンを屠りに行くんだ。お前はリーダーで、今はみんながお前の知恵と決断を必要としているんだよ」
「そうだよ! ネフューの兄ちゃん! しっかりしてくれよ! そんな弱気じゃ心配で仕方ねぇ!」
「ゴブリン、たおす!、みんな、たたかう!」
「俺だって戦うぜ!」

 みんなの勢いに便乗して俺も声を挙げた。ネフューの顔に余裕が戻り、笑顔が浮かぶ。

「そうだ。ぼくたちはゴブリンを倒す! やつらを一匹残らずほふる!」

 ロコが鬨の声を挙げようとしたのをネフューが口を押えて制止した。

「ゴブリンを倒すためには、ぼくたちは何より静かに、そして素早く行動しなきゃいけない」

 口を押えられたロコがうんうんと頷くと、他のコボルトたちも声を出すことなくただ頷いた。

「それでは作戦について話そうか」




 ~ 作戦会議 ~

 今回の戦いではゴブリンの数が多いことと、捕虜の救出という目的が最優先となったため、【幼女化】のためのゴブリン捕獲は見送ることになった。ゴブリンは殲滅せんめつする。

 俺はマーカスに勧められて短い槍を持つことになった。マーカス曰く、ゴブリンに穂先を向けてどっしり構えていれば、運が良ければ向こうから刺されてくれるということだった。

「坊主の場合は【幼女化】が一番の武器だけどな。ただそれを使い切ったときには、それが坊主の命を守る」

 俺はそんな状況が来ることを想像してゴクリと喉を鳴らす。

「心配すんな。その前にカタはつく」

 コボルトたちも全員が戦いに参加することになった。自分たちの新しい集落を得るための戦いなのだからと全員が命を賭すことにしたらしい。

 女コボルトと子コボルトは後方の森に身を隠して、戦いの負傷者や捕虜を治療するということになった。みんな薬草やヴァール竹で作った水筒を抱えている。

 18人と馬3頭の大所帯となったので予定より早めに出発した。結果がどうあれ、もうこのキャンプには戻ることはない。だれもが決死の覚悟を決めていた。

 洞窟への到着は予定よりもやや遅れ、すでに空が明るくなり始めていた。洞窟からは死角となる場所に馬と女コボルト、子コボルトを止め、他残り全員が身を潜めて洞窟へと近づいていく。
 
 コボルト達が洞窟の入り口周辺に身を潜めた。彼らの役割は洞窟から飛び出してきたゴブリンたちに槍で止めを刺すことだ。

 洞窟の中に入るのは、ネフューとマーカスとヴィルとロコ、そして俺だ。俺の役割は4人の中心にいて索敵を使ってゴブリンの位置を知らせることだった。

 俺たちは洞窟の入り口から離れた茂みに身を潜め、想定とは異なる事態に戸惑っていた。

 常に入り口に配置されているはずのゴブリンがいなかったからだ。これまでネフューとマーカスが斥候に出た際は、昼夜を問わず必ずゴブリンの歩哨が立っていた。

 ココロチンに索敵マップを表示してもらうと、洞窟の入り口付近に二つの赤い×が付いていた。これは……

「ここからは死角で見えないけど、入り口付近に死体がふたつ……たぶんゴブリンかな」
「なんだと!?」

 何か想定外の出来事が発生している。

 どうにも嫌な予感に俺たち全員が額に汗を浮かべていた。



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