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eスポーツ部誕生

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 日がだいぶ傾いてきた頃、3人は校門を出ようとしていた。ほとんどの部活が終了時間になって、その他の多くの生徒も校門から出ていく。歩きながら速人が2人に聞いた。

「僕は歩きだけど2人はどうやって帰るの?」

「私は地下鉄で八事やごとまで帰るよ」

「俺は名鉄で有松ありまつや」

「そうか、3人ともバラバラだね。翔君の有松って『有松絞ありまつしぼり』が有名なところだよね?」

 速人が少し自信なさげに聞いた。

「そうそう、うちの爺ちゃんと婆ちゃんは有松絞作っとるんだがね」

「へぇ~、すごい。伝統工芸の職人さんなんだね。後を継ぐの?」

「いいや、継がん。爺ちゃんにはお前は才能がないから無理だと言われとるでよ」

「その『有松絞』って有名な物なの?」

 真紀が首をかしげて聞いた。

「真紀ちゃん、おみゃーさん『有松絞』も知らんのきゃあ?」

「ごめんなさい。私は名古屋に来てまだ1年も経ってないから、地元で知らない事がまだ一杯あるの」

「ほうやった。もともと東京の人やったもんな。『有松絞』っていうのはな、布の染め方の事なんだわ。まず、浴衣とかで使う布をちょいとつまんで、ぐりぐりと糸で縛るって事を何百とやる。それが大変な作業でよ、何日もかかるんや。その状態で染色して最後に糸をほどくと、縛っていたところだけ模様になっとるという仕組みや」

「へぇ、大変なお仕事なんだね。全然知らなかった。翔君の地元じゃやっている人多いの?」

「昔は多かったけど、段々少のうなってきたって婆ちゃんが言ってたな。ほんでもって、うちの婆ちゃんが糸で縛って、爺ちゃんが染色しとる」

「家内工業だね。お父さんやお母さんは手伝ってないの?」

「うちには親父もおふくろも住んどらん。3人暮らしや」

「あっ、余計な事を……。ごめんなさい」

「ええって。気にすんな。真紀ちゃんちはどうなん?」

「うちはお母さんとお婆ちゃんとの3人ぐらし。お父さんは東京で単身赴任だよ」

「えっ、真紀さんのところも3人暮らし?」

 速人が驚きながら聞き返した。
 
「うん、そうだよ……。って事は速人君の家も?」

「そうそう。うちはお父さんとお婆ちゃんとの3人暮らしだよ。3人とも3人暮らしなんて、すごい偶然だね」

 名古屋は都会でありながら、意外に保守的な土地柄であり、3世代同居はさほど珍しい事ではない。地元愛が強く、地元就職にこだわる人が多いため、必然的にそうなるパターンが多い。とは言うものの、3人いて3人とも3世代同居であり、かつ3人家族という事はめったにある事ではない。厳密に言えば、翔の家庭は祖父母と孫の2世代ではあるが。
 今の時代、母子家庭、父子家庭は多いが、さすがに両親ともにいない家庭は少ない。翔の派手な出で立ちはそれが原因なのかもしれない、と速人は勝手に想像していた。
 校門を出て一番最初についたのが地下鉄の駅だ。

「じゃあ、私はここから地下鉄に乗るから。今日はいろいろありがとうね。それから変なところ見せちゃってごめんなさい」

 そう言うと真紀はペコリと頭を下げた。

「そんなん、気にせんでええって。ほしたら、また明日な。バイバイ」

 翔はそう言い、真紀に手を振った。
 真紀はそのまま地下鉄への階段を下りて行った。

 残された二人は、名鉄の駅まで話しながら向かった。

「光速、おみゃあさん、真紀ちゃんの事どう思った?」

「ちょっと不思議な子だけど、いい子だと思ったよ」

「それ以外に感情は無いんか? おみゃあさん、告られたと思って赤くなっとったがね」

「あれは……。女の子に『好き』なんて言われたことなかったからちょっと舞い上がっただけ」

「ほうか、じゃあ、真紀ちゃんを狙っても問題ないよな?」

「ご自由にどうぞ。でも、真紀さんが嫌がって部活に来なくなっりしないようにしてね」

「女の子の扱いは、まかしときゃあ」

「えっ?! 今まで女の子と付き合ったことあるの?」

「ほんなもん……。それが、無いんだわ」

 翔は少しバツが悪そうな顔をしてうつむいた。

「ハ、ハ、ハ。なんだ、僕と同じレベルじゃん」

 その後、他愛もない話をしながら、翔とは名鉄の駅で別れた。
 1日で2人部員を見つけられた。あと2人見つければ部活が正式に認められる。明日が楽しみだ。速人はそう思い、晴れやかな気分で自宅に向かった。

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