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eスポーツ部誕生
40 下校
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日がだいぶ傾いてきた頃、3人は校門を出ようとしていた。ほとんどの部活が終了時間になって、その他の多くの生徒も校門から出ていく。歩きながら速人が2人に聞いた。
「僕は歩きだけど2人はどうやって帰るの?」
「私は地下鉄で八事まで帰るよ」
「俺は名鉄で有松や」
「そうか、3人ともバラバラだね。翔君の有松って『有松絞』が有名なところだよね?」
速人が少し自信なさげに聞いた。
「そうそう、うちの爺ちゃんと婆ちゃんは有松絞作っとるんだがね」
「へぇ~、すごい。伝統工芸の職人さんなんだね。後を継ぐの?」
「いいや、継がん。爺ちゃんにはお前は才能がないから無理だと言われとるでよ」
「その『有松絞』って有名な物なの?」
真紀が首をかしげて聞いた。
「真紀ちゃん、おみゃーさん『有松絞』も知らんのきゃあ?」
「ごめんなさい。私は名古屋に来てまだ1年も経ってないから、地元で知らない事がまだ一杯あるの」
「ほうやった。もともと東京の人やったもんな。『有松絞』っていうのはな、布の染め方の事なんだわ。まず、浴衣とかで使う布をちょいとつまんで、ぐりぐりと糸で縛るって事を何百とやる。それが大変な作業でよ、何日もかかるんや。その状態で染色して最後に糸をほどくと、縛っていたところだけ模様になっとるという仕組みや」
「へぇ、大変なお仕事なんだね。全然知らなかった。翔君の地元じゃやっている人多いの?」
「昔は多かったけど、段々少のうなってきたって婆ちゃんが言ってたな。ほんでもって、うちの婆ちゃんが糸で縛って、爺ちゃんが染色しとる」
「家内工業だね。お父さんやお母さんは手伝ってないの?」
「うちには親父もおふくろも住んどらん。3人暮らしや」
「あっ、余計な事を……。ごめんなさい」
「ええって。気にすんな。真紀ちゃんちはどうなん?」
「うちはお母さんとお婆ちゃんとの3人ぐらし。お父さんは東京で単身赴任だよ」
「えっ、真紀さんのところも3人暮らし?」
速人が驚きながら聞き返した。
「うん、そうだよ……。って事は速人君の家も?」
「そうそう。うちはお父さんとお婆ちゃんとの3人暮らしだよ。3人とも3人暮らしなんて、すごい偶然だね」
名古屋は都会でありながら、意外に保守的な土地柄であり、3世代同居はさほど珍しい事ではない。地元愛が強く、地元就職にこだわる人が多いため、必然的にそうなるパターンが多い。とは言うものの、3人いて3人とも3世代同居であり、かつ3人家族という事はめったにある事ではない。厳密に言えば、翔の家庭は祖父母と孫の2世代ではあるが。
今の時代、母子家庭、父子家庭は多いが、さすがに両親ともにいない家庭は少ない。翔の派手な出で立ちはそれが原因なのかもしれない、と速人は勝手に想像していた。
校門を出て一番最初についたのが地下鉄の駅だ。
「じゃあ、私はここから地下鉄に乗るから。今日はいろいろありがとうね。それから変なところ見せちゃってごめんなさい」
そう言うと真紀はペコリと頭を下げた。
「そんなん、気にせんでええって。ほしたら、また明日な。バイバイ」
翔はそう言い、真紀に手を振った。
真紀はそのまま地下鉄への階段を下りて行った。
残された二人は、名鉄の駅まで話しながら向かった。
「光速、おみゃあさん、真紀ちゃんの事どう思った?」
「ちょっと不思議な子だけど、いい子だと思ったよ」
「それ以外に感情は無いんか? おみゃあさん、告られたと思って赤くなっとったがね」
「あれは……。女の子に『好き』なんて言われたことなかったからちょっと舞い上がっただけ」
「ほうか、じゃあ、真紀ちゃんを狙っても問題ないよな?」
「ご自由にどうぞ。でも、真紀さんが嫌がって部活に来なくなっりしないようにしてね」
「女の子の扱いは、まかしときゃあ」
「えっ?! 今まで女の子と付き合ったことあるの?」
「ほんなもん……。それが、無いんだわ」
翔は少しバツが悪そうな顔をしてうつむいた。
「ハ、ハ、ハ。なんだ、僕と同じレベルじゃん」
その後、他愛もない話をしながら、翔とは名鉄の駅で別れた。
1日で2人部員を見つけられた。あと2人見つければ部活が正式に認められる。明日が楽しみだ。速人はそう思い、晴れやかな気分で自宅に向かった。
「僕は歩きだけど2人はどうやって帰るの?」
「私は地下鉄で八事まで帰るよ」
「俺は名鉄で有松や」
「そうか、3人ともバラバラだね。翔君の有松って『有松絞』が有名なところだよね?」
速人が少し自信なさげに聞いた。
「そうそう、うちの爺ちゃんと婆ちゃんは有松絞作っとるんだがね」
「へぇ~、すごい。伝統工芸の職人さんなんだね。後を継ぐの?」
「いいや、継がん。爺ちゃんにはお前は才能がないから無理だと言われとるでよ」
「その『有松絞』って有名な物なの?」
真紀が首をかしげて聞いた。
「真紀ちゃん、おみゃーさん『有松絞』も知らんのきゃあ?」
「ごめんなさい。私は名古屋に来てまだ1年も経ってないから、地元で知らない事がまだ一杯あるの」
「ほうやった。もともと東京の人やったもんな。『有松絞』っていうのはな、布の染め方の事なんだわ。まず、浴衣とかで使う布をちょいとつまんで、ぐりぐりと糸で縛るって事を何百とやる。それが大変な作業でよ、何日もかかるんや。その状態で染色して最後に糸をほどくと、縛っていたところだけ模様になっとるという仕組みや」
「へぇ、大変なお仕事なんだね。全然知らなかった。翔君の地元じゃやっている人多いの?」
「昔は多かったけど、段々少のうなってきたって婆ちゃんが言ってたな。ほんでもって、うちの婆ちゃんが糸で縛って、爺ちゃんが染色しとる」
「家内工業だね。お父さんやお母さんは手伝ってないの?」
「うちには親父もおふくろも住んどらん。3人暮らしや」
「あっ、余計な事を……。ごめんなさい」
「ええって。気にすんな。真紀ちゃんちはどうなん?」
「うちはお母さんとお婆ちゃんとの3人ぐらし。お父さんは東京で単身赴任だよ」
「えっ、真紀さんのところも3人暮らし?」
速人が驚きながら聞き返した。
「うん、そうだよ……。って事は速人君の家も?」
「そうそう。うちはお父さんとお婆ちゃんとの3人暮らしだよ。3人とも3人暮らしなんて、すごい偶然だね」
名古屋は都会でありながら、意外に保守的な土地柄であり、3世代同居はさほど珍しい事ではない。地元愛が強く、地元就職にこだわる人が多いため、必然的にそうなるパターンが多い。とは言うものの、3人いて3人とも3世代同居であり、かつ3人家族という事はめったにある事ではない。厳密に言えば、翔の家庭は祖父母と孫の2世代ではあるが。
今の時代、母子家庭、父子家庭は多いが、さすがに両親ともにいない家庭は少ない。翔の派手な出で立ちはそれが原因なのかもしれない、と速人は勝手に想像していた。
校門を出て一番最初についたのが地下鉄の駅だ。
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そう言うと真紀はペコリと頭を下げた。
「そんなん、気にせんでええって。ほしたら、また明日な。バイバイ」
翔はそう言い、真紀に手を振った。
真紀はそのまま地下鉄への階段を下りて行った。
残された二人は、名鉄の駅まで話しながら向かった。
「光速、おみゃあさん、真紀ちゃんの事どう思った?」
「ちょっと不思議な子だけど、いい子だと思ったよ」
「それ以外に感情は無いんか? おみゃあさん、告られたと思って赤くなっとったがね」
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「ほうか、じゃあ、真紀ちゃんを狙っても問題ないよな?」
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「えっ?! 今まで女の子と付き合ったことあるの?」
「ほんなもん……。それが、無いんだわ」
翔は少しバツが悪そうな顔をしてうつむいた。
「ハ、ハ、ハ。なんだ、僕と同じレベルじゃん」
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