地平線の頌賦~horizonal Ode~

ななち

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第二十九話

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「ここより先は、どうか、あなたとその者とだけでお通りください。」
「わかりました。」

 慇懃なほど丁寧な礼の後、妖精が去って行く。妖精が見えなくなるまで、その姿を見つめていたオードだが、視界からいなくなると、扉のほうへと視線を移す。

「…長様。」

 睨み付けるかのように鋭い視線で見つめていると、腕の中から美しい少女の声が聞こえる。

「どうだい、気分は。」
「はい、大丈夫です。すみません、ご迷惑をおかけして。ありがとうございます。」

 腕の中で身じろぎするのが、下ろしてくれ、というサインのようだったので、オードはセロを地に下ろした。

 セロは自分で立ち上がると、懐かしい家を見上げた。
 どういうわけで、ここで育てられたのか、どうして長老が親代わりになってくれたのかは全く分からない。
 でも、ずっと傍にいてくれた。どんな悪意からも、蔑みからも、できうる限りの手を使って守ってくれた。

 そんな長老が、目の前で倒れた時から、どれほど経ったのだろう。

 誰も、救ってはくれなかったから、自分が旅に出た。
 どうせ嫌われた身。
 当然、誰一人として、セロを止めてくれなかった。
 苦しい旅を続けて、倒れた先がオードの傍ではなかったら、今頃どうなっていたことだろう?

「…行こうか。」

 思えば、長老以外の誰かにこれほど大切にされた覚えは一度も無かった気がする。

「はい。」

 初めて自分を大切にしてくれた人間は、妖精術士で。
 しかも、追放処分を受けていながら、当代一の実力者で。

 そんな彼が、自分の大切な人を助けてくれる。
 オードには本当に頭が上がらない気分だ。
 もはや、借りがありすぎてどうしたらいいのかわからない。
 それを少しでも、返せる手段を考えなければならない。

 扉を開いて、室内に入っていくオード。その後を追いながら、セロはその想いを強くするのだった。

 室内に入ると、そこは何もない空洞だった。ほんのりと明るいが、どこにその光源があるのか分からない。
 よくよく観察すると、壁の前方と左右に一つずつ、扉があった。

「長様のお部屋は、正面の部屋です。ご案内します。」
「うん。頼むよ。」

 このあたりは、長老と一緒に生活していたセロに任せるのが一番だ。
 妖精の家が人間の住宅環境と同じというわけはないだろう。
 姿形はほぼ同じだとしても、その生活習慣や、文化・能力といったものは全く違うのだ。
 それは妖精術士であった経験から理解している。

 セロは扉の取っ手をつかむと、案の定、何やら口中で唱えている。どうやら室内に入るには、何らかの術が必要なようだ。

「どうぞ。」

 扉を開けると、セロが促し、オードを迎えいれる。
 室内に入ると、広い空間に、それほど大きくない寝台と、小さなテーブルと椅子が2脚あるだけ。

 その寂しい室内の寝台の上に、懐かしい老人の姿があった。
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