毎日記念日小説

百々 五十六

文字の大きさ
上 下
9 / 147

7月8日 ナンパの日

しおりを挟む
”これより雑談を始めます。雑談の所要時間は30分、役職等はございません。

それでは始めさせていただきます。


今日の雑談の話題は『ナンパ』です。



アナウンスが止んだ。

俺はメンバーを見回した。

この話題、男子から切り出したらなんか大変そうだな。

経験談語っても、自慢野郎に聞こえるし、ここは女子の愚痴に期待だな。

そもそもナンパなんてしたことないけどな!それにする勇気もないけどな!!

幸い今日もちゃんと男女比は2:2。

女子二人からさぁ!話題を切り出してくれ。

俺の願いが届いたのか、吉川が話を始めてくれた。

「ナンパってさ、なんでかわかんないんだけど、時間のないときに限って絡んでくるんだよね。あれ、家のことが嫌いなのかな」

「それって、時間ないときのほうがイライラして記憶に残りやすいから、時間ないときばっかりって印象になってるんじゃない?」

小坂がノリのいい感じで頭の良さそうなことを言った。

それにマジトーンで返す吉川。

「は?そんなわけ無いじゃん。ちゃんと数値に則ってるんですけど」

場の空気が凍った。

吉川の冷たい厳しい視線が、場を支配下。

沈黙が続く中、吉川が人が変わったかのように笑顔になり再び話し始めた。

「冗談だよ、冗談。最近論破系の人にハマっててさ、今のめっちゃそれっぽくなかった?!確かに、イライラしてるときとかのことしか覚えて無いや。小坂っち賢~い。その見た目とは裏腹にめっちゃ頭いいんだね」

上機嫌な吉川の発言が、どうやら小坂にクリーンヒットしたらしい。

「見た目とは裏腹にってことは、この見た目バカっぽく見えるってこと?…高校進学を気に頑張ってイメチェンしたのに……」

小阪の長めの独り言が、偶然俺の耳に入ってしまった。

イケメンでさらに頭もいいなんていけ好かないなんて思っていたけど、小坂も苦労してんだなぁ。

「それでさ、本題に戻るけど男子二人はナンパしたことあるの?」

変な空気になってしまったところを吉川が、無理やり話題を変えることでどうにかしてくれた…と思う。

「俺はないな。そんな度胸もないし、迷惑になると思って億劫になってしまう」

小阪のあとに話すとオチ役になりそうだったので、少しだけ食い気味で小坂の話すタイミングがないように話し始めた。

小坂は、俺の話をウンウンとうなづきながら聞き、俺の話が終わってからワンテンポ開けて話し始めた。

こういうところがモテる秘訣なんだろうか?

「俺もだいたい一緒かな?勇気がないし、迷惑かけたくない。それに、なんかこうもっといい感じの出会い方したいじゃん。別にナンパっていうものを否定してるわけじゃないよ。ナンパから始まる恋愛があったっていいとは思うよ。だけど、俺はなんかこうもっと漫画っぽいっていうか物語っぽいっていうか、要はめちゃくちゃベタな出会い方をしたいかな」

小阪の配慮の塊みたいな話を聞いて吉川はバッサリ。

「小阪話しが長い。それとめっちゃ童貞っぽい。二人の迷惑かけたくないって姿勢はめちゃくちゃいいと思うよ。ナンパをするようなやつがみんなお前らみたいな良識も常識もあるやつならうちは毎日こんなにもストレスを貯めないのにな!!!」

「わ、私はいいと思うよ、小坂くんの恋愛観?も。私もナンパをしてくる人たちがみんな二人みたいないい人たちだったら、怖い思いしなくて住むのになぁ、とは思うよ」

富田が、小阪をフォローした。

それを聞いて急に小坂が元気になった。

チョロッ。

大丈夫かな?慰めてもらったからって急に小坂が富田さんに惚れたりしてないかな?

吉田が、富田に聞いた。

「富田もナンパされることあるの?」

「うん、たまにあるよ。多分だけど、吉田さんほどではないだろうけど」

「どれくらいされるの?」

「多いときで月二回とかかなぁ。だいたい一月一回あるかないかくらいだよ。吉田さんはどれくらいされてるの?」

「うちは、多分毎週一回以上はナンパされてるよ。うちなら行けるだろって感じで寄ってくる男どもが多いんだよね」

「わかる。私のこといいなって思って声かけてくるひとより、私なら行けるだろって感じで声かけてくるひとがめちゃくちゃ多くて腹が立つよね。私はそんなに安い女じゃないよって気持ちになるよ」

「共感してくれて嬉しいわぁ」

女子の会話になってしまい完全についていけなくなる。

小坂は、合間合間に的確に「うんうん」と言いながら相槌を打っている。

さすがモテる男子は聞き方がうまい。

どうしようこのままじゃ、私だけに会話参加不足の注意のアナウンスが飛んできちゃう。

そうなったらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

流石に一ヶ月に二回も注意される雑談問題児(自作造語)にはなりたくない。

とりあえず、小阪を真似て相槌を打つ。

さすがに本家みたいにとまではいかないけれど、なかなかうまく相槌が打てたんじゃないだろうか。

何回かギロって吉田に睨まれたけど、初めてだから仕方ない。



それからずっと、女子たちがナンパの愚痴を言って、それにタイミングよく男子が頷く時間だった。

小坂は、今日うなずきパーフェクトゲームだった。一度も吉田に睨まれることなく最後まで切り抜けていった。

俺は4度ほど睨まれてしまった。

不甲斐ない…

俺達のターンが回ってくることはなかった。

まぁ、いっか女子たちが少しだけスッキリしたっていう顔になっているし。

女子の愚痴の嵐が落ち着いた頃アナウンスが流れた。

最近アナウンス調子いいなぁ。







”30分が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、どうぞご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、この場に教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますが、なにとぞご協力よろしくお願いいたします。




週頭なのにどっと疲れた。

土日に養った英気が全部吸われていった。

これから一週間乗り切れるのだろうか。

そもそも、今日一日乗り切れるのだろうか。

ちなみに今日のシチュエーションは駅近の喫茶店だった。

ナンパ成功した後みたいな場所だなぁ、と女子たちの愚痴を聞きながら思ったのは内緒だ。


やっぱり女子って怖い。


ナンパって怖い。



しおりを挟む
お読みいただきありがとうございます。よろしければ、いいね、エール、お気に入り登録よろしくお願いします!!!!
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...