上 下
37 / 123

2日目の自由行動その3 調薬終了、次はミヤネ露店

しおりを挟む
「お前ら、さっきから口ばっか動かして、手が動いてねぇじゃねぇか!」

 雑談ばっかりしてたら、ササキさんから檄が飛んできた。なんとなく拳骨が落ちてきそうな檄だ。
 確かに今この場でみんな口は動いているけど、誰の手も動いていなかった。
 ここは作業場のはずだよな?
 カフェかなんかだと勘違いしそうなくらい、話しかしてない。
 でも、ササキさんも手を動かさずに雑談してたのになぁ。

「あぁ、ごめんごめん。話に夢中になっちゃって」

 ダイアさんがうれしいことを言ってくれる。
 夢中になってくれてたんだ!
 俺も謝りながら、とりあえず言い訳を並べる。

「すみません。皆さんのことを早く覚えようと必死で」

「オクツさんとの話が楽しくて!」

 いやぁ、クジョウくんもうれしいことを言ってくれる。

「ササキ、君も用具を出しただけで、何も作業が進んでないじゃないか」

 ダイアさんが、俺が思ったことを代弁してくれたのかな? っていうことを言った。
 そうだそうだ!
 心の中で、ダイアさんに賛同しておいた。

「確かにそうだな……すまん」

 ササキさんは、ちょっとだけ恥ずかしそうに言った。
 これは、雑談に夢中になってたのが恥ずかしいのかな? それとも、注意したことを自分もしていた事が恥ずかしいのかな?

「まぁ、そろそろちゃんと作業しましょう!」

「そうですね!」

 俺とクジョウくんで、場の雰囲気を切り替えようとする。
 そこに、ダイアさんも乗ってくれて、さっきまで残っていた楽しく雑談って雰囲気が、だんだん、作業もしようって雰囲気になってきた。

「あぁ、じゃあ、作業を始める前にオクツ君に1つアドバイス! 『生産の心得(入門)』ってスキルを取った方が良いよ」

 生産にも心得スキルがあったんだ。
 知らなかった。
 SPのスキル一覧も、生産の方まで見ないからなぁ。
 仕方ない、仕方ない。

「それって、SPで取れますか?」

 心得スキルだから、SPで取れるだろうけど、一応確認してみる。

「取れるよ」

「じゃあ、SPも余ってるので、さっそく取ってみます」

 ダイアさんに教えてもらった、『生産の心得(入門)』スキルをSPで取った。
 ステータスアップ系のスキルがあらかた取り終わって、今後どんなスキルを取ろうか考えてたタイミングだったから、SPが余っていたのだ。

「そうした方が良いと思うよ。ここにいる3人はみんな持ってるから!」

「そろそろ、作業を始めるぞ。そろそろ、手を動かしながら話せー」

 ササキさんの号令で、みんなが各々手を動かしだした。
 俺もその流れに乗って手を動かす。

「はいはい」

「分かりました」

「クジョウを見習え! もうあいつは黙々と作業を始めたぞ!」

 俺が用具の用意をしている時、クジョウくんはもう作業を始めていた。
 すごく真剣な表情で集中している。

「すごいですね! あの集中力」

「集中ってスキルを持ってるのもあるけど、あの没頭癖は天性の才能だと思うよ!」

 ダイアさんが、クジョウくんを褒めた。
 同じ調薬(入門)組として、親近感があったけど、クジョウくんの表情とかを見て、一気に生産職の人なんだなぁという尊敬の気持ちがわいてきた。

「本格的な雑談は、ポーションを冷ますときにでもな」

 ササキさんの言葉を聞いて、俺たちも本格的に作業に入っていった。


 俺のポーションづくりは順調に進んでいった。
 みんな作業中・生産中は集中していて、ほとんど雑談することはなかった。
 作業中静寂の時が流れていた。聞こえてくる音は、道具から出る音だけ。
 薬草をすりつぶす音や、鍋を火にかけている音などだけ。
 たまにする雑談は、ポーションを冷ましている時間や、道具を洗ったりしている時間だけ。
 本職だなぁって心から思った。
 やっぱり生産が、調薬が好きなんだなぁと思うほどみんな真剣にやっていた。
 その真剣さに充てられて、俺もいつも以上に集中して作業することができた。
 正直、作ろうと思っていた量よりもだいぶ多くできてしまい、初級のHPポーションもMPポーションも過剰在庫になっている。
 ササキさんの何度目かの、ポーションを覚ます時間、ササキさんが、みんなに話しかけた。

「いい感じにできたな! 俺はこれぐらいにして露店に戻るが、お前らはどうする?」

 ダイアさんも集中が必要な作業ではなかったのか、すぐに答えた。

「ササキが戻るなら、私も戻ろうかな!」

 クジョウくんは、作業を区切りのいいところまでして、答えた。

「僕は、他の生産もしたいので、ここに残ります!」

 俺は、用具の片付けをしている手を止めて答える。

「俺も、結構な量のポーションができたから、ここで切り上げます」

「おう! じゃあ、クジョウ以外は作業場を出るんだな。この後何するんだ?」

 本格的に雑談モードだ。
 まぁ、俺はすでに作業が終了しているからいいけどね!
 まず答えたのは、これまた片付けに入っているダイアさんだ。

「うーん……露店にいるかな。採取とかに出る気分でもないし」

 俺もそれに続いて答える。

「俺は、ミヤネさんの露店に向かいます。新しい装備が欲しいですし!」

 ちなみにクジョウくんは、もう作業に戻っている。
 真剣な顔して、集中しているのが分かる。

「お、ミヤネちゃんかぁ。懐かしい名前だね!」

 へぇ、ダイアさんもミヤネさんを知っているんだ。
 生産職の繋がりかな? βテスターのつながりかな?

「懐かしいも何も、お前昼過ぎぐらいにミヤネの露店に行ってただろ!」

 ササキさんから、ダイアさんに突っ込みが入った。
 そんなに親しい感じなんだ。
 名前を知ってるとか、一言二言かわしたことがあるみたいな間柄だと思ってた。
 まぁ、確かに、あのアクセサリーは、誰もが必要だしな!

「ダイアさんもミヤネさんと知り合いなんですか?」

「生産職のネットワークはすごいからね! ついでにβテスターのネットワークもあるしね」

 俺が思っていたつながりの両方らしい。

「へぇ、そうなんですか!」

 作業場から出ていく組の片付けが終わったので、個室から3人で出た。
 俺たちが個室から出る時、クジョウくんはこっちを見て手を振ってくれた。
 クジョウくんは手を振り終えるとすぐに作業に戻っていった。
 クジョウくんって本当に何かを作るのが好きなんだな!
 俺たちは、歩きながら雑談をする。

「ミヤネちゃんによろしく言っておいて!」

「分かりました!」

「ちなみに私の露店は、ここだよ」

 ダイアさんから、店の場所が記された露店の地図の画像がメッセージで送られてきた。
 ちなみに雑談を始めて最初の方に、ダイアさんとクジョウくんとは、フレンド交換をした。

「時間があったら伺いますね!」

 社交辞令じゃなくて、ほんとにね!
 ダイアさんが作った細工の商品とかも気になるし!

「時間によったら、作業場にいたり、南の草原に行ってるかもしれないけど、来てくれたら歓迎するよ!」

「じゃあ、俺たちはこっちだから、ここで別れだな」

 露店街の入り口ぐらいで、ササキさんとクジョウさんと別れる。
 進行方向が、俺とは違うのだから、仕方がない。

「誘っていただきありがとうございました!」

「どういたしましてー」

「誘ったのは、お前じゃなくて俺だろ!」

 ササキさんとダイアさんは、なんかコンビって感じがするなぁ。
 2人でいるとすごくしっくりくる感じがある。
 クジョウくんは、2人とは、生産職仲間って感じがするけど、ダイアさんとササキさんは、長年のコンビみたいな感じがする。
 不思議なもんだなぁ。
 キャラがあってるのかな?

「またねーオクツ君」

「またな、オクツ」

 2人は、俺に手を振ってくれた。
 俺は軽く手を振り返すと、歩き出した。
 俺は、2人と別れて、ミヤネさんの露店へ向かった。
 ダイアさんもクジョウくんもいい人だったな。
 いいめぐり逢いに感謝だな。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

ファーマー生活はじめました!〜ゲーム1おいしい野菜を目指します〜

毎日のお味噌汁
ファンタジー
 農園系ゲームとハウジング系ゲームが好きな主人公がオープンワールドのVRMMOを始めたらどっぷり生産沼にハマっちゃった。  もう!ゲームは動かなくても冒険できるから素晴らしいんですよ?仮想空間でも動かないに越したことはないんです!!そんな主人公の意識低め省エネ生産ライフ。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

ユニーク職業最弱だと思われてたテイマーが最強だったと知れ渡ってしまったので、多くの人に注目&推しにされるのなぜ?

水まんじゅう
SF
懸賞で、たまたま当たったゲーム「君と紡ぐ世界」でユニーク職業を引き当ててしまった、和泉吉江。 そしてゲームをプイイし、決まった職業がユニーク職業最弱のテイマーという職業だ。ユニーク最弱と罵られながらも、仲間とテイムした魔物たちと強くなっていき罵ったやつらを見返していく物語

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……! ※感想は私のXのDMか小説家になろうの感想欄にお願いします。小説家になろうの感想は非ログインユーザーでも記入可能です。

春空VRオンライン ~島から出ない採取生産職ののんびり体験記~

滝川 海老郎
SF
新作のフルダイブVRMMOが発売になる。 最初の舞台は「チュートリ島」という小島で正式リリースまではこの島で過ごすことになっていた。 島で釣りをしたり、スライム狩りをしたり、探険したり、干物のアルバイトをしたり、宝探しトレジャーハントをしたり、のんびり、のほほんと、過ごしていく。

―異質― 激突の編/日本国の〝隊〟 その異世界を掻き回す重金奏――

EPIC
SF
日本国の戦闘団、護衛隊群、そして戦闘機と飛行場基地。続々異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 大規模な演習の最中に異常現象に巻き込まれ、未知なる世界へと飛ばされてしまった、日本国陸隊の有事官〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟と、各職種混成の約1個中隊。 そこは、剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する世界であった。 そんな世界で手探りでの調査に乗り出した日本国隊。時に異世界の人々と交流し、時に救い、時には脅威となる存在と苛烈な戦いを繰り広げ、潜り抜けて来た。 そんな彼らの元へ、陸隊の戦闘団。海隊の護衛艦船。航空隊の戦闘機から果ては航空基地までもが、続々と転移合流して来る。 そしてそれを狙い図ったかのように、異世界の各地で不穏な動きが見え始める。 果たして日本国隊は、そして異世界はいかなる道をたどるのか。 未知なる地で、日本国隊と、未知なる力が激突する―― 注意事項(1 当お話は第2部となります。ですがここから読み始めても差して支障は無いかと思います、きっと、たぶん、メイビー。 注意事項(2 このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 注意事項(3 部隊単位で続々転移して来る形式の転移物となります。 注意事項(4 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。かなりなんでも有りです。 注意事項(5 小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...