琉球お爺いの綺談

Ittoh

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頼光四天王筆頭、綱

頼光四天王筆頭、渡辺綱 あやかしの血筋

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 葛葉の子を宿したお腹は、動くようになっていて、綱は、蹴られたような動きに、口元を綻ばせていた。

 葛葉は、大きく広がった白い尾や耳を隠さず、化生を解いて綱と一緒に、自分のお腹を撫でていた。

「ねぇ、葛葉」

「どうしたのじゃ、綱」

あやかしひとならざるものって、人だと思う」

「綱。わらは達を、人と呼ぶかや」

「うん。血が繋がる相手だもの、狢は、狢同士では子を為すことが難しいって言うし、葛葉だって、僕の子を宿せている」

「どうじゃろうな、綱よ。竜王殿は、外ツ世より訪れたと言うておったが、日ノ本で子を為しておる」

「外ツ世って、どこから」

「東海竜王の話では、天を渡り、天より降りて参ったそうじゃ」

「天界って本当に、あるんだねぇ、葛葉」

「人は、天界の落とし子とも言うでな、綱。神代との交わりだけならば、古くから繋がろう」

「そうなの、葛葉」

「日ノ本に人が訪れて、数万年と言うが、大陸より逃れたあやかしひとならざるものも多い。おそらくは、天津神は大陸より逃れたモノで、国津神はこの地のモノであろうな。血筋を引くものも多いのは確かじゃ」

「昔は、もっと身近だったってことかな」

「日ノ本の民は、あまり変わらぬが、大陸では、偽りをもって、あやかしひとならざるものを狩り尽くして居る」

「偽りって、貴族が言っていた、寿命が伸びるとかってやつか」

 かつて、長寿のあやかしひとならざるものを喰らえば、寿命が伸びるという伝承があった。不老長寿の妙薬とも言われ、あやかしひとならざるものは狩り尽くされていった。結局、不老長寿の妙薬などではなく、偽薬効果プラシーボがあっただけであった。

 ただ、効果が無いと証明するのは難しく、権力者というものは、傲慢な生き物であるため、日ノ本でも幾多のあやかしひとならざるものが殺されたと伝えられている。葛葉も、幾度か命を狙われており、綱に救われたことも多かった。

「そうじゃ。綱に救われたのぉ、ほんに、無茶をする子じゃ」

「葛葉ぁ」

 少し、綱がむくれたように、葛葉を呼ぶ。葛葉は、そんな綱をお腹の子供と一緒に、抱き寄せるようにして、

「のぉ、綱。わらはは、綱のモノじゃし、難波のあやかしひとならざるものは皆、綱に仕えよう」

「あぁ、渡辺党というよりは、主上おかみに仕える、一党としてだ」

「綱は、主上おかみに従うのであろ。わらはあやかしひとならざるものは、主上おかみとの約定によって、眷属しんし生かされておる」

 天平宝珠元年、孝謙が御代に、日ノ本へ来朝した、主上おかみと上人様が後見として、あやかしひとならざるもの眷属しんしとして迎えることが認められた。日ノ本で神武の御代が始まってより、千年を超えて、日ノ本として年を重ねてきていた。天平の風が吹く頃、日ノ本は公地公民の下に、北は陸奥より薩摩までが、日ノ本として確立した時代である。

 日ノ本の建国は、天平の風が吹く頃に、千年を超えていたのである。
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