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92.本当に伝えたいこと
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――そう言いきった、つもりだった。
――でも、声が聞こえたんだ。
「本当に、それでいいのかしら?」
ほら聞こえた。
「ルセリナ、ちゃん?」
「……」
――ねえ本当に、いいの。
「本当に」
――本当に。
「ルセリナちゃん、ルセリナちゃんってば!」
ベルさんが心配そうに顔を覗き込む。
いつの間にか30㎝くらいの距離に顔があった。
おかしい、私は今、一体何を考えていたんだろう。
「本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ」
大丈夫な、はずだ。
そう答えて椅子から立ちあがり元気さをアピールしてみせる。
「大丈夫、ちゃんと私、花嫁としてしっかり活躍……」
「ねえ、本当は?」
またこの声。
「いえ、本当に……」
――ほんとうに。
「本当に?」
――…………ホントウハ。
「……本当は」
言葉が続かない。
「ル、ルセリナちゃん?」
「おい、さっきからどうしたんだよ」
変な空気を察知したのかレイズ様までもこっちにやって来る。
おかしいな、そんな変な空気になる展開じゃないんだけど。
「おい」
「大丈夫?」
何故だろう、すごく胸がモヤモヤする。昨日、変な料理でも食べ過ぎたかな。それともちょっと疲れたのかな。
「私は別に大丈……」
ベルさんとレイズ様、二人の体の隙間から、一瞬だけマリアさんの姿が見えた。
そんな一瞬で表情なんて見えるはずないのに、何故だか彼女は笑っているような気がした。
――あ、これはたぶんやばい奴だ。
さあっと背筋が凍りつく。
なんとかしなければ。
「私……」
一生懸命取り繕おうと、二人の洋服の裾を握りしめる。
傍から見れば、それはまるで少女漫画のヒロインのように見えるかもしれない。上目遣いで頼りなさげに相手をみつめる、まさにそれ。
ああでもこれは違う、罠なんだ。
ぎゅううと握るその手に力を込めた。
「ルセリナちゃん」
「お前」
けれど、その頑張りも空しく目からは熱いものがこみ上げる。
二人の動きか強張り、明らかに動揺した表情を浮かべているのが分かる。
二人ともそんな顔もするんだね。こんな時じゃなかったら、滅茶苦茶笑ってやるのに。そしていくらでも憎まれ口を叩かれてやるのに。
「私はっ」
でも今はそんな事出来る状況じゃないんだ。ごめんね、全然面白くなくて。
私だってこの歳になって、こんな姿を人様に晒したくはない。けれど頭でそう考えてはいても、体が思うように動かない。
――誰か私を止めて。
「私は領主の花嫁になりたくない」
まるで魔法にかけられたように、この言葉と涙が止まることはなかった。
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