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93.号泣謝罪会見
しおりを挟む私には『嫌いなもの』がある。
その一つが涙を武器にする人間だ。
今の私は間違いなくその『嫌いなもの』であると言えよう。
「私は領主の花嫁になりたくない」
どうして出てしまったのか、ポロポロと零れる涙。
「……」
「……」
二人からの言葉はない。ああ、これがドッキリだったらどれだけいいだろう。
でも今の私に否定する言葉は出ない。
「ルセリナちゃん、そんなにやりたくなかったんだね」
先に口を開いたのはベルさんだった。彼の言葉はとても優しい。
どうやら心の底から理解しようとしてくれるらしい。彼が本来の花婿だというのに。そんな事言われてこの人だって気分がいいはずはないのに。
ごめんなさい、本当にごめんなさいベルさん。そうだけど違うんだよ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
否定の言葉は出ず、やはり謝罪しか出来ない自分。なんてもどかしいんだろう。誰かいっそ私の頭を殴って昏睡させてくれ。
けれど、今の私にはもはや二人の顔を見て訴えることすら出来なくなっていた。
「ごめんなさい、ベルさん」
「いいよ」
そう言って彼はそっと隣に座った。
「……ったく」
目の前で呆然と突っ立っているのはレイズ様。
たぶん、かなり呆れている。そりゃそうだ。私が肝心なところでこんな風にぶち壊すんだもん。
「レイズ様も、ごめんなさい」
「本当にな」
ですよね。
いつもの悪ノリならともかく、本当に泣いてるとか引くよね普通。
「で?」
明らかに機嫌が悪い。これも全部私のせい。
「ごめんなさい、レイズさ……」
「そうじゃなくて」
そう言って私の言葉を遮る。
「そうじゃない、お前のそれのことだよ」
「……」
顔を上げるとレイズ様はやっぱり不愉快そうに私を見下ろしていた。
「ちょっと何言ってるんだい、レイズ。ルセリナちゃんは今それどころじゃ」
「それどころ、ってお前こそ何言ってんだ。見りゃすぐ分かる」
「すぐ分かるって……まさか、えっ?」
「……」
ベルさんが私とレイズ様の顔を交互に見比べた。
「えっと、もしかしてこれって」
「もしかじゃなくても、決まってるだろ。マリアの魔法」
「あっ、ああー!」
全てを理解したようにポンとベルさんは手を叩いた。
「この短時間で引っかかるとか、お前は本当に馬鹿か」
そうだよ。馬鹿だよ。
「何が感情を増幅させる魔法だよ。そんなの何も感じないで無視すりゃいいだけの話だろ」
ごもっともです。
「お前のことだから、どうせ暇になって雑談でも始めたんだろうな」
よくご存じで。
「メイドなんだから大人しく俺に茶でも入れとけよ」
それは嫌です。
でも。
「ありがとう」
「…………は、何」
レイズ様はくるっと後ろに向いてしまった。
「気持ち悪い」
うん、私もそう思う。
いつもだったら絶対そう思うよ。
だから今回だけ。
――見つけてくれてありがとう。
自分は泣いているはずなのに、何故か口元だけは笑っているような、そんな気がした。
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