王子様を放送します

竹 美津

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本編

夏のギフト

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『夏のギフト、お届けしま~す!』

『今年も会えなかったわ。あの人、遠くにいるから、もう3年もーーー。今頃どうしているかしら。』

『あら、それなら、夏のギフトを贈ってみたら?』

『夏のギフト?』

『季節のものを、カードと一緒に贈って、お元気ですか、ってするのよ。』

『ヘェ~贈ってみようかな。』
お店で送れるギフト、フレッシュ果物ゼリーの3つ、詰め合わせを選んだ女性。カードには文字が辿々しく、自分でペンを持ち。
『おげんきですか?私は元気です。会えなくなって、3年になりますね。私は結婚して、子供も今年、生まれますーーー。』

『ゆうびんでーす!』

段々と私書箱から、配達をしてくれるように、銅貨5枚で地図を郵便局に登録する者が増えた。その際、住所とも言える土地や通りの名前と番号を、ちょっとずつつけている。地方だけではなく王都でも、家まで手紙や荷物が届くようになりはじめた。
そして、夏のギフトをやるにあたり、私書箱宛のギフトは、郵便局内特設の時止め箱に入れておかれる。局員に申し出て、私書箱の郵便物を受け取る方式なので、そこで届いた荷物を受け取れるのだ。

夏の海の絵はがきを受け取って。お返事、嬉しそうに、裏表を確かめ、頬を赤らめた女性。

『夏のギフト、ありがとう。俺も、結婚して、父親になりました。ゼリー、3人で美味しく食べました。俺も、君も子供で、海を走り回ったあの頃が、懐かしいね。』

『ああ、私の初恋は、今、終わったーーー。』
胸にハガキを抱きしめて、寂しそうに、でも、嬉しそうに。
笑顔の女性、奥さんに、人の良さそうな夫が、『ハガキ?誰から?』と聞いてくる。

『初恋の人からよ!』
『えええぇ!!!?』

海、砂浜、ロングから走る少年と少女。

『初恋が始まり終わる夏。夏のギフトは、郵便の緑の旗がある、各商会まで!お店に頼めば、郵便で送れます。』

テレビの広告に、見入る広場の人々。
前回の健康診断と同じく、恩師バージョン、従兄弟、女友達、男友達、実家編と幾つもドラマを揃えた。

必要に迫られ、採用試験に先んじて、侍女侍従さんや文官さん達から志願者を募って。CMを創る撮影隊を結成したこの部署は、ドラマ仕立てのCMを、本当に真剣に試行錯誤しながら創っている。そして皆に喜ばれていると知って、「面白いよ~!」と竜樹の褒めに、照れくさそうに、笑っていた。

今年の夏、季節の贈り物を、の試みは、スタートからなかなか好調である。暑中見舞いも宣伝したので、日本のギフトよりももっと安価で小さい単位のものを、ちょっとだけ贈り合う、暑中見舞いを添えて、が貴族にも庶民にも流行ってきた。また、王都や他の地方に出てきていて、実家に帰れない独り者達が、ちゃんとやってるよ、と知らせと共に贈るのも。

代書代読屋も大忙し、綺麗な絵はがきに、色々なインクとペンを揃えて、自分で書きたい人には、伝えたい事を聞き出しながら、見本を書いてもくれる。
これから後々、文盲の人は減る見込みもある。はしっこい者達は、独自の綺麗な絵はがきや封筒便箋、ペン様々にインクも色とりどり、丁寧な聞き取りの文章見本、箔押しした正式な招待状などの宛名を含む代筆サービスで、顧客を掴んでおこうと工夫している。
ここでも、時代の変化、流れに翻弄されながらも強かに泳ぎ、生きる者達がいる。

夏休みは、おぼん期間中ではないけれど、まずは文官達から。交代で5日ずつほど、取れるように王様が取り計らった。
「わーい!!」と文官達は、文書を放り上げる勢いで喜んだ。何といっても有給休暇だ。休み、わくわく、何しよう!
まずは、できる所から実施して、民に広めよう。ニュースや新聞でも取り上げられたので、良いなぁ、と思っては、もらえている。来年の広がりを楽しみに。

おぼんの迎え火送り火は、木を組んで焚こうとなり、それほど経費がかかりそうでもなかったので、王宮の、平民も集まるお披露目広場に、小さな光る鬼灯を飾る事になった。
もちろん大画面広場にも、提灯ならぬ鬼灯を。
そして祭壇も作る。
竜樹が、祭壇にあげたお菓子や果物は、後で下ろして、皆でいただいたりしても良いんですよ、一番美味しい所を食べてもらった、って認識です。と言ったので、合理的だなあ、とハルサ王とマルグリット王妃は感心していた。
お酒もあげよう、ワインも良いし、米のお酒もいいね。

「竜樹、神殿と教会は、どうなったの?」

オランネージュが、キュ、と鬼灯を縛りつつ聞いた。
撮影隊と新聞売りの寮で、王子達と貴族組と子供達は、鬼灯を頑丈な紐に結びつけるお手伝いをしている。

「送り火と迎え火の儀式をやってくれるって。王宮のに参加する事になったよ。」

王都では、皆が家の庭で火を焚いたりできないから、代表して王宮のお披露目広場に。そこに人も魂も集まって、次に自宅へ。教会の印をつけた魔道具ランプを売り、そこに魂を寄せて、各家庭に連れ帰りお迎えする。
地方でも、教会や神殿が魂迎えの役を担い、またそこから皆で自宅に連れ帰る、となった。火の元は少ない方がいい。

売り出し始めた、お迎えお送り魔道具ランプは、影絵みたいに、ガラス面に素敵な絵柄をつけたものが人気だ。しかし何といっても準備に短い1つ月。普通のランプに絵を描いたものなど、間に合わせに工夫した安価なものから、高価な細工のものまで、職人が必死に働いていると聞いている。
間に合わなければ、普通のランプでもいい、としているから、各家庭で調整するだろう。

「それに、おぼんの真ん中あたりの日は、家庭に司祭や助祭が回って、お祈りしてくれるって。お布施は勿論貰う、ってファヴール教皇が言ってたな。お気持ち程度だそうだけど。」
「おおー。かせぐね!」
「まどうぐらんぷ、ぼくほしい!」
「わ、私も、お迎え一緒する!」
竜樹は、3王子達がわちゃちゃ、と鬼灯を結ぶのに手伝ってやりながら。
「魔道具ランプ、後で皆で買いに行こう。気にいるのがあるといいな。」
「うん!」
「ねー!」
「はーい!」

「お、俺たちの分もいいの?」
ジェムが、遠慮しいしい、竜樹に聞く。
「もちろん!ジェム達のお父さんやお母さん、ご先祖様だって、ここにお迎えしなきゃな。」
なで、とジェムの頭を撫でる。
へへ、と撫でられた頭に手を当てて、ジェムは照れた。

「私、おぼん、ワイルドウルフの国に一度帰るよ。」
アルディ王子が、ウルフお耳をひこひこさせながら。

「皆とおぼん、できないのはちょっと寂しいけど、もし良かったら帰っておいで、ってお父様とお母様と、兄様が。おぼん、ワイルドウルフのお国でも、やろうって決まったのです!」

色々と母国であったアルディ王子だけれど、笑顔で尻尾もブンブンと振っているから、きっと大丈夫だろう。家族に、貴族に、民達に、元気になったよ、と会ってこられるといい。

「道中気をつけて、楽しんでご家族に会っておいでね。」
「はい!」

帰っちゃうのアルディ。また来るよね、と3王子とエフォール。
「うん!おぼんが終わったら、またパシフィストに来るよ!念の為に、ルルー治療師も、付き添って来てくれるんだ。」
「そしたら、ぜんそくもあんしん、ね!」
うんうん。
わちゃちゃ、とアルディ王子に集まる子供達。帰ってきてねー、の合唱に、その中央で、アルディ王子は顔をポッと染めて、ニココと嬉しそうにしている。

「あーうー。」
ツバメが、シャンテさんによいよいされながら、鈴の入った布おもちゃを、握ってあぐあぐしている。
「ツバメは、縦抱っこができるようになったんだよね~。」
「すくすく育ってますね。」
首がすわったのだ。シャンテさんが、ふふふ、ツバメちゃん、と頬をツンツンしながら笑う。
ふにゃ、と笑うツバメに、笑ったぁ、と皆も笑顔になった。

「さてさて、これからデザイナーの皆さんが来るからね。これで皆も、モデルさん!かも、しれないよ~。」

竜樹がニヤニヤとけしかける。
子供の浴衣もファッションショーで披露する、という事で、デザイナーさん達が子供のいる寮にやってくるのだ。
うまくいけば、モデルの勧誘に。
3王子に、という話も出ているので、それで本決まりになりそうなのだが、他の子も見てみたいし、竜樹と話もしてみたいし。
デザイナーさん達も、新しい試みに、浮き立ちながら瞳をキラキラさせているのだ。

「デザイナーの方々がみえました。」
タカラが竜樹に告げる。
フィルを筆頭とした、デザイナー達が、失礼致します、と頭を下げてやって来た。

ピティエは、デザイナーさん達かぁ、と思っただけだった。沸き立つ雰囲気は好ましく、何だかはやはやと、気分は便乗して興奮気味だったが、だからといって自分にはあまり関係ないだろうと。
子供の大きさではないから、デザイナー達にも範囲外だし。

しかし、そのサングラスをかけた、ちょっとミステリアスに見えるピティエの姿を、ふと、見留める1人のデザイナーがいた。


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