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第50話 命の重さ
しおりを挟む二人の意思は確認した。
これも一つの『愛』だと認めるしかないな。
きっと僕も『あの虐めの中助けてくれる存在が居たら、好きになる可能性は高い』
だったら、現状、僕を好きになったと言うのもあながち嘘ではないのだろう。
自分では運命を切り開く力がなければ……その運命を切り開いてくれた相手に依存するのは仕方ない。
依存も多分『愛』の一つ形だと僕は思う。
あの地獄のなか、死ぬ寸前まで助けを求めていた僕。
その時、助ける存在が居たら……きっと僕はその誰かを好きになったのかも知れない。
希望を夢見た僕だからこそ、これは嘘ではないと信じるしかない。
『僕を死に追い込む程の虐め』は『視力を奪う事』で償った。
恨み続けるのも疲れた。
ここらが潮時かもしれないな。
死んだ者……心が折れた者……生涯目が見えない者。
ここで恨みを捨てよう。
ここで終わりで良い。
うん……終わりだ。
◆◆◆
充分なお金が溜まっていたから、馬車を買った。
今は、その馬車に乗って聖教国方面に向かっている。
魔族との戦線が王国なら、そこから少しでも離れた方が良い。
少なくとも、王国を通らなければ魔族は聖教国には来れない。
聖教国を越えなければ帝国にはいけない。
だったら、聖教国を越えて帝国から先を目指せば良い。
そこまで行けば、魔物は居ても、魔族は軍勢という意味なら来れないだろう。
大群で来るには三国を倒すしかないないのだから……
「聖夜……随分急に旅立ちを決めたんだね」
「聖夜くん、まさか翌日には旅立つなんて思わなかったよ」
「聖夜様、旅を急ぐ意味はあるのですか?」
「王国は魔族との戦いを率先して行う国だ。 幾ら追放されたからと言って、僕たちに利用価値があると判断したら連れ戻される可能性がある。実際に王宮に呼び出され、助力を頼まれたんだ。まぁ、上手く逃げたけどね……だから、そうならない様に逃げ出したんだ」
「そうなんだ……目が見えないからと追い出したのに」
「塔子ちゃんはまだ良いよ……回復師として教会に行く提案があったんでしょう? 私なんかポイ捨て同然に捨てられたんだよ! 酷いよね?」
「王宮からの呼び出しは助力だったのですか?」
「リリア、僕は王宮に手を貸そうとは思わない。まぁ戦える力も無いしね。薄情だと思われるかも知れないけど、王国の人間なんて死んでしまっても気にならない。 自分や仲間の命の方が大切だよ……だから逃げる。正直に言えば1万人が死んで自分が助かるなら、喜んで1万人に死んで貰うよ」
「聖夜、凄い事言うわね」
「だけど、聖夜くん……それ同感だよ」
「聖夜様……本当にそれで良いのでしょうか?」
良く異世界物のライトノベルで召喚された主人公が同じく召喚された恋人と一緒に戦う話があるけど……僕は疑問に思った事がある。
『僕だったら、絶対に戦わない』
残念な事に僕に恋人は居ない。
だけど、僕の中では赤の他人と仲間や家族には明確に命の重みに違いがある。
恐らく、もし見知らぬ1万人の命と家族1人の命なら僕は迷う事なく『家族1人』の命をとるし、1万人の他人が死んで自分が助かるなら1万人に犠牲になって貰う。
「だけど、これが僕の本音だよ! 僕にとって一番大切なのは自分だ。 悪い……三人の方が自分の命より大切とは、ゴメンまだ言えない。 だけど、自分の命の次に大切なのは誰か、そう言われたら、多分三人になると思う。 もし、自分や三人が死ぬ様な事になるなら、国、いや世界ですらどうでも良い……そう思っている」
「「「聖夜(くん)(様)」」」
「だから、この旅は安住の地探し……四人が幸せに暮らせる様な場所まで逃げるつもりだよ」
一緒に生活しているって恐いな。
嫌いな筈の二人を大切に思う日が来るとは思わなかった。
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