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第51話 自分が一番大事
しおりを挟む「待って下さい!」
「貴方は、誰ですか?」
どことなく見覚えがある。
誰だったか?
確か騎士総長ライオネスの傍で見かけた記憶がある。
「面識はあるでしょう? 私の名はコヒール。 お城では騎士として指導をしていた者です」
ああっ、そう言えばいた。
だが、僕には関係ない。
「確かにお城の騎士の中にいた記憶はあります。 ですが、僕はその集団には混ぜて貰えず、一人別メニューで訓練していましたから、見覚えがある程度です……それで何か御用でしょうか?」
街道に出たとは言え、ここは多分王国の領土だ。
面倒くさい事になったな。
「いや、急に馬車に乗って出かけるみたいですから声を掛けさせて貰ったのです。遠方に何か御用でも?」
「僕は能力が無く、魔族とは戦えません。 ライア王女様にも『残念ながら貴方には魔王軍と戦う力がありません、2週間のち、この城を出て行って貰う事になります』と追い出された身なので、魔族の影響の少ない安全な場所に移り住もうと思っただけです」
「まさか、王国を出られる……そう言う事ですか?」
此奴、まさかと思うが引き留めようとしているのか?
「その通りです。ここにいて争いに巻き込まれても困りますからね」
「……出来たら、この国にいて貰う事は出来ないですか?」
「城から追い出した役立たずが居なくなっても困らないでしょう」
「その……もしかしたら貴方には秘められた力があるかも知れない。 そう姫様は考えています。 待遇改善もまた検討中なので出来たらこのまま王国に戻っていただけますか?」
ここで戻ったら、もう終わりだ。
恐らく、調べ尽くされて、否応なしに戦いに駆り出される。
「嫌なこった」
「なっ、何故ですか? これからは待遇を……」
「残念ながら、僕は戦いが一番嫌いなんです。戦うのを前提にした待遇なんて要りません。 実は追い出されて幸運だと思っています。 怖い魔族と戦わないですみますからね」
「本当にそれで良いと思っていますか?」
「僕には一番必要な戦う覚悟がありませんから、関わらない方が良いですよ? そうですね、魔族が姫様を差し出せと貴方に言ったらどうしますか?」
「勿論、命がけで戦います」
「でしょうね……僕は魔族が怖いので平気で姫様を差し出して逃げます」
「貴方には誇りは……」
「ありません。僕の周りは敵だらけでしたから……知っていますか?」
「ああっ姫様から聞いた」
「それなら早い。 僕は人間の悪い所ばかり見て来たから『自分より大切な物はない』僕は自分が助かる為なら王女も王も、民衆も全て捨てますよ……そんな人間頼らない方が良い! もし、僕が魔族に殺される状況で『姫様を殺したら助ける』そう魔族が言ったら喜んで殺します。 騎士みたいな忠誠心も無い。 勇者や英雄みたいな気高さなんて全くありません」
「お前……最低だな」
「最低ですよ? だから構わない方が良い。仲間が欲しいなら、ちゃんとした人間を探して下さい」
「ああっ、解ったよ」
ふっ、あの軽蔑するような眼差し。
これなら、もう誘ってくることも無いだろう。
「聖夜……相変わらず凄い事言うわね」
「あれじゃ、確かに怖くて味方に出来ないね」
「本当にあの対応で大丈夫なのでしょうか?」
「もう、王国に戻る気はないからね……どうでも良いんだよ」
もう少し行けば、聖教国との国境。
もう……これで大丈夫だろう。
『うっふふふ、見つけた……』
なっ……振り向いた先には……あの日の恐怖を思い出させる存在が居た。
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