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第4章 婚約の行方

49.公爵様の誘い

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 魔鳥が飛んでくることは今までにもあったが蒼い魔鳥を見るのは初めてだった。蒼い鳥は私の指先に乗ると姿を消して文へと変わっていく。

『夜分に失礼します。もし良ければ庭園へ来て頂きたいです。-リヒト・ヴェンガルデン』

 魔鳥を送った人物が公爵様であったことに私は驚いた。庭園に今から行くというのも、エマは心配しそうだが私は簡単にストールだけを肩にかけると足は庭園に向かっていた。どのみちこんな気持ちでは眠ることも出来なかっただろう。私はそんな思いを抱えながら、公爵邸の庭園へと足を運んだ。

 庭園に着くと、ガゼボの中に公爵様の姿が見えた。

「アリス嬢、来てくれたのか」

 公爵様は私を見るなりにそう口に出すといつもと違う雰囲気で微笑んだ。その顔に何故か胸が締めつけれられた。

ーなんでこんなに公爵様の顔を見るだけで胸が高鳴るのだろう

 私はそんな思いに気づかれないようにするために公爵様に話しかけた。

「私も眠れなくて。でも魔鳥が部屋に来た時は驚きました。」
「急なことですまなかった。…身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、それよりも考えてしまうことが多くて丁度窓から景色を眺めておりました。」
「そうか。」

 暫く公爵様と私の間に静かな時間が流れていた。思えば私にとっては昨日まで話していたような感覚だが、実際には一月ほど眠りについていたのだから久しぶりに会ったと言っても過言ではないだろう。不思議な感覚になりながらもこの沈黙を破ったのは公爵様のほうだった。

「ここに呼んだのは見せたいものがあったんだ」
「見せたいもの?」

 私は不思議がりながらも公爵様の方を見ると公爵様は「こちらへ」と私に後をついてくるように促した。こちらに何かあるのだろうか。暫く歩くと庭園から少し離れた場所へと出た。一応、ヴェンガルデン公爵邸の屋敷内なのだろうが、何か雰囲気が違うように思えた。一見、手入れのされていない野原のようだが、しっかりと植物が芽生えており、丘のせいか夜空も視界に入り素晴らしく美しいものだった。

「歩かせてすまなかった。手を。」

 公爵様はそう言うと私の目の前に自分の手を差し出す。私は躊躇いながらもその手を握った。大きくて温かな手に今まで感じたことのない感情が込み上げてきた。

ーこんな気持ちになるのは初めてだ

 そう思いながら公爵様と私は更に高台の方へと向かっていった。









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