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第2章 北の領土ノースジブル

16.北の街フリーレン

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 私はふと身体に寒気が感じて意識を取り戻した。眠っていたのだろうか。眠い目をこすりながら何やら横には温かい感触があった。ふと横を見ると褐色の美しい髪が視界に入った。

「公爵様!大変失礼致しました!」

 公爵様の肩に何故寄りかかっていたのかは分からないが先ほどまで自分がそうしていたのは明らかだった。

 公爵様は不思議そうな顔でこちらを見た。

「そんなに謝らなくてもいい。」
「ですが失礼しました」
「いや、貴女も大変だっただろう。あのようなことがあったのだから」

 公爵様は少し私の方をみると視線を足元に移した。

「怪我は大丈夫ですか?」
「え?…そんな大袈裟です。少し深いですがかすり傷ですから」
「かすり傷一つでも重症化することはあります。大事を取って損はないです。…遊学の条件で貴女に傷をつけないと誓ったのに誠に申し訳ない。」

 公爵様は深々と私に頭を下げた。

「いえ、その条件はお父様が過保護なだけですから。聖女の要請で遠くに向かう私の身を案じていましたが、もう聖女ではないのですからそんなに心配しなくてもよいのに…なのであまり気にしないで下さい。」

 私は真剣な顔の公爵様に話を続けた。

「それに今回は公爵様がいなければ侍女も私も助かりませんでした。」
「貴女はあの馬が倒れるのを知っていたのですか?」
「ええ。手綱を握った時、明らかに普通の感覚ではありませんでしたから。あのまま馬が倒れれば命を落としてもおかしくない状況でした。」
「そこまでご存知だったのですね」
「聖女として務めていた時も私を狙って馬に毒を仕込んだものがいましたから」
「そうですか。貴方は本当に…」

 公爵様が何かを言いかけた時だった。御者の声が響いた。

「旦那様、そろそろフリーレンに入ります」

 公爵様は窓を開けると御者に「分かった。ありがとう」と礼の言葉を述べた。窓を見るとそこには白い世界が広がっていた。

「これがフリーレン!」 

 遠くから見ても街は賑わっていた。寒さを感じさせないほど活気づいていた。

 私は幼い頃にこの街に来たことを思い出していた。あの頃のフリーレンは何十年ぶりの大寒波でノースジブル領の主要の街だというのに飢饉や瘴気に襲われ酷い状況だった。あまりの酷さにあのノースジブル領が聖女の要請を出したのだ。それほどあの時は酷い状況だったのに10年でここまで変わったことに感心した。

―そういえばあの時に助けた少年は元気だろうか

 ふと昔に聖魔法で傷を治した少年のことを思い出した。美しい褐色の瞳でサファイアのような瞳を持った悲しそうな少年だった。まだ生きていればもう立派な成人だろう。

―そういえば何だか公爵様に似ている気がする

 そう思ったが私は自分の考えをすぐに否定した。あの少年は一般的な平民の服を着ていたし、貴族ではないだろう。少年には悪いが公爵様と比べては何だか悪い気がした。

―何処かであの少年にも会えたら

 私は心の何処かで期待しながら活気のあるフリーレンの街を眺めていた。
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