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6 やっぱり連合艦隊
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戦艦〈加賀〉
司令室の主はまったく楽しくなかった。
「やっぱり急に決まった作戦はダメだねぇ。つまらないところでケチがつく」
連合艦隊司令長官、榎本中将はぼやいていた。
「北海が荒れる前にやらなきゃって慌てたら燃料不足で戦艦一隻置いてかなきゃならなくなるなんて、情けない話だよまったく」
窓から彼は自分の配下の艦隊を眺めた。舞鶴港の備蓄燃料が不足していたために結局戦艦〈長門〉の出撃は見合わされた。もう少し落ち着いて作戦を立案していれば燃料の問題には気づいただろうし、あるいはあと一週間もあれば他の港から持ってこれたであろう。これ以上後だと北海が本格的に荒れるという予報が焦りを呼んでいた。
「兵員輸送の船は予定通りに到着しています。陸軍にしては協力的でした」
副官の鯨浜中佐がなだめるように良いニュースを伝える。一個連隊の陸兵が四隻の輸送船に分乗して艦隊に従っていた。さらにもう一個連隊が増援として待機していた。
「普段縄張り争いばっかりしてるのに気持ち悪いんだよな。やっぱり本土防空は陸軍の管轄だから矛先向くの怖がってるのかな」
先ほどの帝都爆撃の責任を取って中部軍司令官が更迭されたが、生け贄がこれで済むかはいささか怪しかった。それがために誰も彼もがこの付け焼き刃な作戦を後押ししていた。一月足らずで立案されたとは思えないほどの戦力がこの海域に集結している。戦艦〈加賀〉と巡洋戦艦〈高尾〉、〈愛宕〉。空母〈翔覽〉と〈比叡〉。重巡洋艦〈妙高〉、〈足柄〉、〈利根〉、〈筑摩〉。そしてそれを取り巻く二隻の軽巡洋艦と二十隻の駆逐艦。この時点で動かせる秋津海軍の半分が集結している格好となった。
「にしてもなぁ、問題はアイスランドだよ」
榎本長官は机の上の海図を眺めた。
「大型爆撃機の出撃拠点となっているようです。戦闘機が居るらしいです。戦艦が居るかもしれません。空母もいるかもしれません。ブランドルの歩兵がいるかもしれません。もしかしたら戦車もいるかもしれません。かもしれないかもしれないかもしれない。曖昧な情報しか無いのはなんとかならないかね」
「もともと霧の多い地域のようで」
陸軍が主体となって何度か偵察機を送り込んではいたが、厚い雲に阻まれて充分な成果を上げられずに居た。
「まあ今の今までアイスランドを放っておいたのは海軍にも責任はあるけどね」
八月頃にはブランドル支配下に入ったという情報を掴んでおきながら、欧州戦線の支援を優先してアイスランドという存在から目を背けていたのは海軍も同様であった。おかげで何が出てくるか判らないため、砲戦も水雷戦も航空戦も、何でも行える万能の艦隊、というより寄せ集めとなっていた。
「むしろアイスランドの様子を探りに行くのが今回の目的みたいなものだからねぇ。こうなったら出たとこ勝負だ。よろしく頼むよ参謀長」
声をかけられた連合艦隊参謀長烏丸章吾は黙って頷いた。それを見た榎本長官は副官に小声で尋ねた。
「なあ、やっぱり烏丸君怒ってるかな?」
表情を変えない男として知られる同期を見て副官の鯨波は答えた。
「いつもの通りですよ」
海軍きってのいい加減な男と云われる榎本に、海軍きっての秀才が参謀長として付けられたのはお目付役とまで噂されていた。
「いやぁやっぱり怒ってるよあれは。困ったな」
どうにもそりの合わない長官と参謀長ではあった。そうなると間の自分がどうにかしないといけないのか。これはこれでやっかいな話だと鯨波は聞こえないように唸った。
司令室の主はまったく楽しくなかった。
「やっぱり急に決まった作戦はダメだねぇ。つまらないところでケチがつく」
連合艦隊司令長官、榎本中将はぼやいていた。
「北海が荒れる前にやらなきゃって慌てたら燃料不足で戦艦一隻置いてかなきゃならなくなるなんて、情けない話だよまったく」
窓から彼は自分の配下の艦隊を眺めた。舞鶴港の備蓄燃料が不足していたために結局戦艦〈長門〉の出撃は見合わされた。もう少し落ち着いて作戦を立案していれば燃料の問題には気づいただろうし、あるいはあと一週間もあれば他の港から持ってこれたであろう。これ以上後だと北海が本格的に荒れるという予報が焦りを呼んでいた。
「兵員輸送の船は予定通りに到着しています。陸軍にしては協力的でした」
副官の鯨浜中佐がなだめるように良いニュースを伝える。一個連隊の陸兵が四隻の輸送船に分乗して艦隊に従っていた。さらにもう一個連隊が増援として待機していた。
「普段縄張り争いばっかりしてるのに気持ち悪いんだよな。やっぱり本土防空は陸軍の管轄だから矛先向くの怖がってるのかな」
先ほどの帝都爆撃の責任を取って中部軍司令官が更迭されたが、生け贄がこれで済むかはいささか怪しかった。それがために誰も彼もがこの付け焼き刃な作戦を後押ししていた。一月足らずで立案されたとは思えないほどの戦力がこの海域に集結している。戦艦〈加賀〉と巡洋戦艦〈高尾〉、〈愛宕〉。空母〈翔覽〉と〈比叡〉。重巡洋艦〈妙高〉、〈足柄〉、〈利根〉、〈筑摩〉。そしてそれを取り巻く二隻の軽巡洋艦と二十隻の駆逐艦。この時点で動かせる秋津海軍の半分が集結している格好となった。
「にしてもなぁ、問題はアイスランドだよ」
榎本長官は机の上の海図を眺めた。
「大型爆撃機の出撃拠点となっているようです。戦闘機が居るらしいです。戦艦が居るかもしれません。空母もいるかもしれません。ブランドルの歩兵がいるかもしれません。もしかしたら戦車もいるかもしれません。かもしれないかもしれないかもしれない。曖昧な情報しか無いのはなんとかならないかね」
「もともと霧の多い地域のようで」
陸軍が主体となって何度か偵察機を送り込んではいたが、厚い雲に阻まれて充分な成果を上げられずに居た。
「まあ今の今までアイスランドを放っておいたのは海軍にも責任はあるけどね」
八月頃にはブランドル支配下に入ったという情報を掴んでおきながら、欧州戦線の支援を優先してアイスランドという存在から目を背けていたのは海軍も同様であった。おかげで何が出てくるか判らないため、砲戦も水雷戦も航空戦も、何でも行える万能の艦隊、というより寄せ集めとなっていた。
「むしろアイスランドの様子を探りに行くのが今回の目的みたいなものだからねぇ。こうなったら出たとこ勝負だ。よろしく頼むよ参謀長」
声をかけられた連合艦隊参謀長烏丸章吾は黙って頷いた。それを見た榎本長官は副官に小声で尋ねた。
「なあ、やっぱり烏丸君怒ってるかな?」
表情を変えない男として知られる同期を見て副官の鯨波は答えた。
「いつもの通りですよ」
海軍きってのいい加減な男と云われる榎本に、海軍きっての秀才が参謀長として付けられたのはお目付役とまで噂されていた。
「いやぁやっぱり怒ってるよあれは。困ったな」
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