18禁ヘテロ恋愛短編集「色逢い色華」

結局は俗物( ◠‿◠ )

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蒸れた夏のコト 全36話+α(没話)。年下男子/暴力・流血描写/横恋慕/高校生→大人 

蒸れた夏のコト 29

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 ふと可愛い仔犬をいじめたくなってしまった。手筒を止める。その中を熱く固いものが突き上げた。
夏霞かすみちゃ……っ、手、止めちゃヤだ……」
祭夜さやちゃん、かわいい」
「久しぶり……だから、っ感じちゃぁ……っ!」
 リズムを変えて扱く。素直な恋人の表情は快感も隠せない。蜜孔を擦る。括れを揉み、先端との境界にある浅い溝を軽く押す。面白いほど反応がある。
「ダメ、夏霞ちゃ……そこばっか、ダメ、いじめちゃヤ……!いじめないで……ぇっ!」
 彼の甘えた口の中で舌が照っている。
「かわいい。かわいい、祭夜ちゃん。大好き」
「オレも、好き……っ!ぁう!」
 祭夜の好きな慰撫を再開した。
「あ、あ、あ、夏霞ちゃ………、も、出るっ、出ちゃう、!」
 すぐ傍に置かれているティッシュを取った。恋人の喘ぎ声が低くなっていく。射精の脈動に合わせ、まだ摩擦をやめない。ティッシュの中で力強い波を感じた。量が多く、半個体に近いようだ。この強壮な活液を身体の奥で受け止めたくなってしまう。
「気持ち良かった………」
「これでちゃんと寝んね、できるよね?」
 下着と浴衣を直し布団を掛ける。仰向けだった祭夜は夏霞のほうに寝返りをうつ。
「ゴメン、せっかく来たのに。先に寝ちゃうの」
 眠気は声や喋り方にまで現れていた。
「ううん。最近忙しかったんでしょう?なのに、わたしがつまらない意地に巻き込んじゃったんだから。ゆっくり休んで」
「別に忙しくはなかったよ。夏霞ちゃんのコト考えてたの。夏霞ちゃんとまたこうなれて、安心して幸せになったら、急に眠くなっちゃって。こんな幸せでいいのかな。夢みたいだ。覚めたくないよ」
「夢じゃないよ。わたしはここに居るから。おやすみ、祭夜ちゃん。ご飯になったら起こすね」
 重げな目蓋が伏せられていく。夏霞は静かにその場を離れ、手を洗ってから戻ってきた。ほんの一瞬のことだったが、すでに彼は寝息を立てていた。クーラーの温度と風向きを変えた。まだ外は青みを帯びている程度で景色を見渡すのにも難儀しない。眠る祭夜の脇に座り、叔父へメッセージを送った。内容は感謝と報告だ。祭夜と共に軟禁されて以来、あの高校生からの着信はない。解決したのだろうか。或いは決着したのだろうか。考えたくはなかったが、腑に落ちない。

 やがて夕食の時間になり、部屋のテーブルいっぱいに料理が運ばれてくる。夏霞は寝ている祭夜を揺さぶった。
「祭夜ちゃん、ごはんだよ」
 白身魚の刺身が水々しく照っていたのが印象的だった。イカの素麺もあったような気がする。香ばしい魚介の香りも漂っている。
「さ~やちゃん。ごはん美味しそうだよ」
 眠気に打ち勝てない仔犬の頭を抱いて夏霞も寝そべる。重げにそう長くない睫毛が持ち上がる。
「ごはん」
 その一言で寝呆けた眼が冴える。
「ごはん?」
「食べよう」
 豪勢な料理で、皿の形も凝っていた。それでいて機能美も忘れられてはいない。もはや芸術品の風情すらある。まだ運ばれてくるらしい。祭夜がひつから飯を盛った。
「ありがと、祭夜ちゃん」
 旅館の人に無理を言って食べながら待つものをテーブルに溜めておいてしまっている。皿が空くと、次は煮物が来た。対面に座る恋人は美味しい、美味しいと言って嫌いなものも躊躇わず口に運んでいく。
「夏霞ちゃんと、夏霞ちゃんの叔父さんと、暑詩しょうたくんと、4人でまた来たい。今度はオレが招待するから」
「うん。楽しみにしてる」
 夏霞は微笑んだ。恐ろしいほどの幸福感に耐えられず、目頭が熱くなるのを隠す。水菓子が出て、夕食が終わる。それから少し休んでから歩きに出る。手を繋いで温泉街を回る。外はすでに暗くなっていた。別の旅館の浴衣姿が行き交い、すれ違う。
「叔父さんのお土産、お酒にしようかな」
 観光客向けの商店の前で夏霞は立ち止まった。
「オレも叔父さんに何か買う!温泉まんじゅうとか、叔父さん、好きそ?」
「あんまり甘いもの食べてるところ、見たことない」
「んー。じゃあ、お漬物かな。おつまみなら喜んでくれるかな。入浴剤じゃ味気ないもんなぁ」
「でも叔父さんにとって一番大事なの、きっと祭夜ちゃんもわたしが仲良くいることだと思うから、難しく考えなくていいかも」
 彼の腕に身を寄せた。頭上で破裂音がして夜空が光る。花火が散っている。
「花火だ」
 夏霞はぽかんとして呟く祭夜の顔を見上げた。後夜祭のときよりも逞しくなっている。次々に空で爆ぜ、白煙を垂らす花火が彼の日焼けした顔を照らす。強く手を握った。大きな目に火の花が咲く。
「思い出すね、後夜祭。あれが出会いっていうか、始まりみたいなものだからあれが基準になっちゃうケド、今日コトがいつかの基準になってもいいくらい、オレ、幸せだよ、夏霞ちゃん」
「うん。わたしも」
 少しの間花火を仰いでいた。祭夜が咳払いする。
「あ、あのさ……夏霞ちゃん」
「うん?」
「また………こうなると思ってなくて、あの、こうなったらいいなって期待はしてたし、実際こうなれてめちゃくちゃ幸せなんだケド、その、そういうコト考えるの失礼だって思って、よ、用意してなくて………だから、あの、今夜どうデスカ……それで、買ってきていいデスカ」
 何の話かすぐに分からなかった。夏霞の表情で、彼は通じてないことを瞬時に察したらしかった。
「ゴ、ゴム………夏霞ちゃん、今夜、疲れちゃった?いきなり誘っちゃったから、無理すんのナシで」
「しようか。でもわたしはしたいけれど、祭夜ちゃんはもう疲れてるんじゃない?」
「さっきちょっと休んだからだいじょぶ。もったいないと、思っちゃって……」
 繋いでいた彼の手を掬い上げる。
「もったいないかな?何もしないで祭夜ちゃんの隣で寝る夜もいいかなって思ってて」
「そ、それもいい!でもそんなの、きっとオレ我慢できなくなっちゃう。一応、買っとく!帰ればいっぱいあるケド、いくつあってもいいし……この夏で使い切れるくらい、しようね」
 温泉街から少し外れたコンビニエンスストアで避妊具を買う。夏霞はアイスキャンディを2本買っていた。帰りながら食べて、土産は明日買うことにした。旅館に戻り、あとは歯を磨いて寝るだけとなる。祭夜はそわそわしていた。
「夏霞ちゃん好きぃ」
 彼は夏霞を後ろから抱き締めて甘える。尻尾が千切れそうなほど左右に触れていそうだった。布団へ誘導される。
「祭夜ちゃん…………する?」
「今は、チュっちゅッしたい」
 2人で布団に腰を下ろし、手を結びながら唇を重ねる。あらゆる角度から柔らかさを確かめる。
「祭夜ちゃ……」
 体当たり的な接吻は恋人からのものというよりも愛犬からのもののような感覚だ。首を引こうとすると温かな掌で輪郭を捉えられてしまう。
「チュウ、気持ちいいから、止まんない……」
「わたしも祭夜ちゃんにチュウしたい」
 自ら首を伸ばして恋人の唇をもらっていく。前に出て、舌を挿し入れる。普段は恋人に任せていた濃密なキスを仕掛けるが、その舌遣いは辿々しい。彼の鍛えられた腿に手を置き、必死で舌を絡ませた。上手くできている気がせず、最後に強く押し当てるキスをして誤魔化す。
「夏霞!」
 相手の表情を窺う間もない。抱き寄せられ、倒されていく。仔犬からオオカミの貌つきに変わり、それでいて枕に寝かせる仕草は優しい。
「手、繋いで寝れたらいいと思ったケド、ダメだ。したい」
 浴衣の襟を自分ではだけさせ、筋肉の乗った胸板がしっとりと照る様が艶かしい。
「しよ……?」
 恋人の大きな差異に見惚れている。身体は彼に抱かれたくなってすでに疼いている。危うい感じのする目と目がぶつかった瞬間に祭夜から夏霞の唇を貪った。触れるだけの口付けにはもう飽いている。夏霞の待ち望んでいた深いキスが訪れる。
「ぅん……っ、ぁ」
 舌が縺れ合うだけ、呼吸も意識もままならなくなる。甘やかな浮遊感のなかで抱き締め足らない恋人の頑健な男体を腕全体で覚える。境界線を失いそうだった。溶けていきそうなのだ。しかし恐怖心はない。彼とひとつの液体になれそうで、それは悦びであった。
「かすみ……っ」
 目交まなかいの祭夜とまだ透明な糸で繋がっている。
『すき』
 声に出さなくても伝わってしまうほどの距離だった。もう一度、唇をぶつけ合う。浴衣の中に手が入った。彼はブラジャーのフリルを楽しんでいる。ゆっくりと剥かれていった。薄いピンクに少しクリーム色の入った下着を晒す。
「かわいい。カキ氷みたい」
 やはり祭夜だった。欲情の中の安堵。夏霞は抱き付いた。彼女の腕にはまだ浴衣が引っ掛かっている。
「おっぱい、見ていい?」
「うん」
 彼女は背に腕を回そうとする。
「オレが外すから。オレが外す」
 抱き締められている祭夜はそのまま夏霞の背に腕を伸ばしホックを外した。羽織っているだけの浴衣を一度腕から抜いて、ブラジャーを脱がせる。彼は律儀に浴衣を羽織らせ直す。
「夏霞ちゃんのおっぱい、好き」
「いっぱい触って。わたしの胸、祭夜ちゃんのだから」
 慎重な加減で手が胸の形を添えられる。彼のそういうところに身を委ねることができた。大切にされていると感じられる相手だ。様子を見ながら指に力が入っていく。先端部に向かって焦らしながら揉まれている。
「あ……っ」
 胸の突起を摘まれる。芯を作っていた。
「こりこりだ」
 熱い指と指に敏感なところを挟まれ、艶やかに爛れていく。
「んっ……ぁ、」
「かわいい。夏霞ちゃん。かわいい……」
 タップされ、甘い痺れが広がった。片胸に祭夜の頭が埋まる。先程まで彼女の口腔で暴れていた舌が胸の実りを転がした。
「あぁ……っ」
 硬い髪を抱く。彼の頭の形が手に馴染んだ。
「夏霞ちゃんのおっぱい吸いながら頭撫でられるの、すごく好き」
 祭夜はあどけなく笑うと、その綻んだ唇が、凝った小さな膨らみの食感を味わった。左右で異なる刺激に堪らなくなる。
「や、ぁんッ!」
 心地良い電流が下腹部へ走っていく。腰が揺れた。腹の底のほうで滲むのが分かった。
「おっぱいばっか……」
 胸の先端で達することができないわけではないことを瑠夏に知らしめられている。祭夜とは繋がって果てたい。彼の果てる声、表情、膜越しの脈動を感じたい。
「もうちょっとだけ」
 かぷりと丸みを舌で焦らされ、指でも似た動きをされる。
「あっ……!」
 彼の手が胸を離れ、臍を辿り、ショーツの下に潜ると薄い茂みで遊んだ。
「舐める」
「舐めるの?」
「夏霞ちゃんの舐めるの好き。指でしながらキスする?」
 顔を覗き込まれる。彼の腕を撫でる。
「わたし、祭夜とするなら何されてもきっと気持ちいいから………祭夜ちゃんのスキにしてみて」
「夏霞ちゃん……」
「いつもわたしばっか気持ちいい」
 彼の表情が尖る。頭突きをされるのかと思うほど急激に視界が動いた。額と額が重なり、唇に指をひとつ立てられている。
「夏霞。あんまり煽んないで」
 飢渇した凶暴な獣の目をしている。そういうものを夏霞は見たことがないが、すぐにそれと分かった。低く掠れた声と引き攣った口元。彼の劣情に呼応する。それは安楽的な死の予感にも似ていた。この恋人相手にならば、血肉も臓物をも食い散らかされたくなってしまう。同時に興味とも挑戦ともいえない衝動に駆られる。
「好き」
 一言呟いて口を閉ざそうとする彼の人差し指を舐める。口淫を模していた。爛々としている。獲物に狙いを定め、今にも飛びかからんとする猫の目だ。祭夜は夏霞の唇にまたもや激しいキスをした。手はもう遠慮もなくショーツの深くに至っていた。それでいて媚珠に触れる指は決して乱暴ではない。捏ねられると夏霞は口腔を掻き回され上蜜を啜られている最中も甘い息を漏らす。
「あ……んっ」
 指の腹で器用に扱かれる。腰が揺れた。彼の手に押し付けたいのか逃げたいのか分からない。短く鋭い快感に鳴き、やがて彼女をそうさせている指は艶泉を突破する。
「後ろからおっぱい揉みながらいっぱい突きたい。心の準備、しておいて……」
 欲に灼けたこの男の嗄れた喉に弱い。言葉の選び方は彼のままであるために、その差で心惹かれてしまう。想像して、指を咥える秘肉を疼かせた。
「いっぱい、欲しい…………」
「煽んないで…………夏霞」
 もう我慢が利かない。彼の指では足らないほどに夏霞も欲も膨らんでいる。男に抱かれたい訳ではなかった。この恋人でなければ要らない。しかしこの恋人ならばすべて欲しい。
「もう、挿れて。祭夜ちゃん……っ」
 彼女は懇願した。まだ少し余裕のある理性が、彼女を客観視させてしまう。他の男にもこのように牡を求めている女だと、誤解されはしないか―
 しかしすぐに理性は飛んだ。ショーツを脱がされ、四つ這いにされる。体裁よりも、次に来る彼との悦楽に意識を奪われた。尻や腿にキスされ、それが合図だった。スキン越しの滾りが彼女の体内に沈んでいく。
「あ………んっああ!」
 夏霞の背中に硬い筋肉に覆われた胸や腹が重なる。布団のシーツを掴む手に彼の大きな手が乗った。幼いと思った手付きが、女の身と並ぶと大きく、健剛としている。
「痛い?」
「気持ちいい、祭夜ちゃん………っ、気持ちいい………っ」
「………っぁ、」
 内部で恋人の楔が鼓動した。接触している箇所にまで響き、頭の中で銅鐘でも鳴るような鈍い快感が広がる。
「祭夜ちゃ………、おっきくなって、る………」
「も…………余裕ない………ゴメ、動く」
 肌と肌がぶつかる。隣の部屋にも人がいる。夏霞は口を押さえた。
「声抑えてるの、すごい、コーフンする……」
 腰が固定される。前後に揺さぶられ、祭夜を求めていた花筒は彼を掴もうと必死だった。
「気持ちいい………や、あっあっ!」
 この男を好いている、この男と快楽を極めたいということ以外、考えられなくなってしまった。今の彼女のなかに他のものはこの世に存在していない。
「夏霞………っ!」
 背中に唇が落ちる。臀部と腰部が汗ばみながらも乾いた音を立て、その奥では粘着質な音が隠れている。重なっていた手が退いた。蒸れた手の甲も乾いていく。胸を揉まれ、夏霞は先端部の期待を高めてしまった。柔らかな脂肪に熱い指が食い込む。痛みはない。彼は肉情に溺れてもその点において飽くまでも優しかった。好いところを摘まれ、夏霞は背を反らした。
「ああんっ!」
 強く牡を食い締める。指の動きは手慰みの悪戯というものではなかった。的確に彼女を快楽に導こうとしている。
「あっ、んっ、好き、だめ、それ好き……っ、や、ぁっ!祭夜ちゃぁんっぁ!」
「夏霞………っナカすごいことになってる。そんな締めらたら、オレ……」
 欲に身を任せた牡のような揉みしだき方と、理性を以って快楽で嬲る繰り方に夏霞は訳が分からなくなってしまった。ただただ官能に息が乱れ、締め付ければ締め付けるだけ自らも快楽の波に拐われる。
「おっぱいしながら、突くの………わたし………、もう…………」
「おっぱい揉まれながら突かれるの、好き?」
 一打ずつ確実な抽送に変わる。脳まで貫かれているようだった。
「だめすき………すき、それすき、だめ、祭夜ちゃ、あ……あ、あ、っ!」
 彼女は華奢な腰を痙攣させて果ててしまった。
「んぁあ……」
「か、すみ………―ッ」
 大きなうねりは祭夜のことも追い詰めた。どくり、と大きな脈動が起こり、彼は繋がった奥、膜の中で放精した。夏霞としてはもう少し中に留まっていてほしかったが、祭夜はすっと去っていってスキンを処理した。ティッシュに包み、隠して捨ている。牡欲から解き放たれ冷静になるというのはよくある話だ。高校時代のみならず大学でも聞かないわけではなかった。彼女としてはこの恋人にはあまりその傾向が見られなかったが、今夜はあくまで借りている部屋である。特に冷ややかな感慨は浮かばず、もう少し休んでから自分の身も整えようとしたが、彼は戻ってきて夏霞にべったりと纏わりついた。
「夏霞ちゃん」
 都合の良い二重人格を疑ってしまうほど、甘え方を知った二面性を彼は持っている。情事中の大人の男みたいな面構えは消え、仔犬じみた少年になっている。
「すごくきもちかった。後ろからするの、きもちいいケド、顔見ながらゆっくりするのもいいな。おっぱいがオレの胸筋おっぱいとかお腹に当たるの、いつもすっごく安心する」
 硬い毛を挟みながら彼は夏霞の肌に頬擦りする。
「ブラジャーして寝るの?着ける?」
 ひょいと起き上がって、自分で脱がせたブラジャーを祭夜はいくらか遠慮がちに拾った。
「着けない」
 彼に浴衣を着せられていく。寝るときは柔らかなショーツにタンクトップのみだ。夏霞も、彼と夜にこうなることを望み、期待していた。
 照明が落とされる。
「祭夜ちゃん……好き」
 彼は隣の布団に入るかと思いきや夏霞を押し退けて同じ布団に入ってきた。ヘーゼルナッツみたいな瞳が今は暗さでよく見えない。
「夏霞ちゃんが寝るまで看てる」
 そう言っておきながら数分も経たずに寝息を立てたのは祭夜のほうである。彼の胸元に潜る。幸福感と憂愁の念が同時に押し寄せる。
 夏霞も眠りに落ちている頃、暴力的なほど強く抱き締められた。汗と熱と力強さに目が開いた。
『ゴメン、舞夜。ユルシテ………』
 朧げな寝言はそう聞こえた。はっきりとはしない。本格的に彼は魘されはじめた。夏霞は肩を掴んで揺さぶる。
「夏霞……」
 腕を掴み返され、祭夜の目が覚めたのを知る。呼び方が、彼ではないみたいだった。
「魘されてたよ。大丈夫?寝違えたんじゃない?」
 明かりを点け、テーブルに置かれたペットボトルを取りに行く。彼は茶を一口飲んだ。
「ゴメン……起こしちゃって」
「枕変わったし、いつもと環境違うし、楽しいのも意外と身体は疲れちゃうから。仕方ないよ」
 おそらく舞夜の夢をみていた。夏霞は傷んだ髪を撫でる。女性用のヘアオイルで普段と質感も雰囲気も少し違う。
「旅館に纏わる怖い話とか、結構そういうことなのかも知れないね」
「夏霞ちゃん」
 浴衣の裾を直し、祭夜は正座する。夏霞は両手を取られた。
「オレが高校時代、夏霞ちゃんになんて言ってコクハクしたか、覚えてる?」
「忘れるはずないよ」
「このタイミングなんだケド、オレの妻になってください」
 頭の中が破裂するような衝撃だった。悲喜問わず、ただただ驚きで言葉が出てこない。
「5年ぶりの再会だし、お互い大学生だし、これから社会人で……色々考えてたら遅くなっちゃった。待たせたよね。今後の人生、夏霞ちゃんよりも好きになれる人と会えないよなってワカっちゃったんだよな」
 濃いハチミツ色の目とぶつかったきり夏霞は静止していた。
「結婚前提のお付き合いはもうやめて、オレと結婚してください」
 視界には靄がかかる。
「まだ指輪も何にも用意してない。こんなプロポーズあるのかって、未来で笑い話にしてください。外で花火見た時、もう決めた。運命だなって。別に逆らおうと思ってもないケド、夏霞ちゃんといるの、逆らえない運命だな、今日しかないなって思った」
 左手を引かれ、薬指に唇が落ちる。彼は夏霞を見上げ、照れ笑いを浮かべた。
「嬉しくて、言葉出なくて……―わたしを祭夜ちゃんの妻にしてください」
 眠れなくなりそうな夜だったが、この出来事が夢なのかと思うほど2人はあっさりと寝てしまった。別々の布団だったが手は繋いだままで、やがてどちらからともなく寝返りをうって放される。


 夢をみた。誰かの墓参りにいっている。祭夜とは手を繋いでいた。しきみと手桶をそれぞれに持ち、誰のものかも分からない墓石には近付けなかった。近付かなかったのか近付けなかったのかは分からない。離れたところからぽつんと1基建っている墓石を2人で眺めていた。祭夜が小さく詫びたのを聞いた。彼の真っ直ぐ墓を見つめる横顔を見遣った。覚えのある表情をしている。
―祭夜ちゃん
 夏霞は彼を呼んだ。
―オレの妻になってください
 花火の時の顔付きだ。数拍遅れて理解する。打ち上がる花火が爆ぜたとき、恋人は空を目に泣いていた。

―俺と結婚してくれ、雨堂


 目が開く。光が射し込んでいる。隣を見ると祭夜はうつ伏せになって浴衣も掛布団も乱してまだ寝ている。彼の膝まで捲れている裾を直し、夏霞は起き上がった。風呂付きのベランダに出て、外の空気を吸った。朝の海を望んだ。山の景色は見ているだけで清められていく感じがあった。背後でカラカラとガラス張りの脱衣所の戸が開いた。
「夏霞ちゃん」
「おはよう、祭夜ちゃん」
「おはよ」
 甘えたな大きい愛犬みたいな態度で色気もなく抱き締められる。この生活が遠からず約束されている。歓喜の朝だった。
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