零下3℃のコイ

ぱんなこった。

文字の大きさ
上 下
15 / 49
2

これは違う

しおりを挟む
【学校終わったら、僕の家に来ない?】

それは、友達同士でよくある家への誘い。

でも、上手く言えないけどなんとなく今までの感覚と違う感じがする。なんだろう。

状況が状況だからか。

「もうすぐ着くよ」

学校が終わって、こいつと一緒に帰ってて、こいつの家へ向かってる。1年前はこんなことになるなんて思ってなかった…。

まあ、これは僕が雪菜さんに好きになってもらうためと…日下部が雪菜さんと離れるためだけど!!


「…お前ん家ってマンションなんだ。でかいな」

「あ、それは違うよ。僕の家はこっち」

「いや同じようなもんじゃん!こっちより少し小さいだけで!高そうなとこじゃん!」

「ちなみに、そっちのマンションには雪菜が住んでるよ」

「は!?家も近いの!?」

「うん。小学校からの仲だからね」

「小学校!?すごい長いじゃん!!」

知らなかった…そんな長い仲で、同じ敷地内のマンションに住んでるなんて。

しかも2人ともいい家だな、おい。

「え、付き合い始めたのは?」

「中2の時からかな」

「ええ!?中2って…女子と付き合う以前に世間話も話したこともなかったわ」

「あはは、風音くんっぽいね」

「バッ、バカにするな!」

「まあでも…僕と雪菜の場合は小学生の時に親同士が仲良くなって、それで家付き合いもあったからさ。元々よく一緒に遊んでたんだ。それで中学も高校も同じとこになったから、中学までは常に一緒にいたよ」

「へ、へぇ…幼なじみ的な?」

「まあ、軽く言うとそんな感じかな」

そんな話しながら日下部について行くと、でかいエントランスを通り抜けて、綺麗なエレベーターに乗り込んだ。

「すご、ホテルみたいだな…うわ!こっちガラス張りで外見える!高ーい!」

「…風音くんはすごいね」

「へ!?なにが?」

「あ、いや…何とも思わないから、僕は」

「えっ綺麗じゃん!まあずっと住んでると感覚鈍るもんかな?」

「何とも思わないようにしてるんだ。いちいち、こういうことに一喜一憂してたら持たないっていうか…」

ん?なんだそれ…

「日下部…?」

「なんでもない。着いたよ」

今、すごく日下部の素が見えたような気がする。
こいつ…この顔。何回か見てきたこの表情。

冷たく見えてたのは…冷たいっていうより。
もしかして、本当は何か違うのかも…

今の言葉、どういう意味だよ。なんか引っかかる…

べ、別に僕が気にすることじゃないけど…!

「どうぞ入って」

「お、お邪魔します…」

綺麗な家…!?玄関広い!!
しかも、ここ何階だ?10階以上だったような…

「あれ、親は?」

「2人とも仕事でいないよ。だから楽にして」

「そっか…兄弟いないんだっけ?」

「うん、僕はひとりっ子。だからいつも1人で留守番」

「…そう、なんだ」


まあ僕ん家には母さんがよくいるし…むしろ留守番なんて自由で嬉しかったけど。

日下部は、寂しいのかな…。


「ここだよ、適当に座ってて」

奥に進んでいって、日下部の部屋に入った。

綺麗に整頓されてて、黒のベッドに、白い机と白い壁…かっこいい男の部屋って感じ。

漫画だらけの僕の部屋とは大違い…!

「飲み物とってくる。何がいい?ジュースとか基本的に置いてあるけど…」

「えっ、ありがと!じゃあコーラ!!」

「ふふ、分かった」

スンスンッ
ていうか、なんかこの部屋…日下部の匂いがす…

は!?

いや!だからスンスンってなんだ!?嗅ぐな!!埋めるぞ自分!!

「はぁーーー…あ?」

あれ、なんだろう。机に置いてあるこの写真…幼くて可愛い。
制服の男の子と女の子が3人で映ってる。

「これって…もしかして日下部?と」

「あ、それ。僕と雪菜と、雪菜のお兄さんだよ」

「うわ!!びっくりした!ご、ごめん!勝手に見て」

「別に大丈夫。その写真、僕たちが中1の時かな。お兄さんは高校生で、制服でみんなで記念に撮ったんだ」

「へぇ…3人とも仲良かったんだ」

日下部はコーラのペットボトルとグラスを2つ持ってきて、机に置いた。

「まあ、そうだね。3人でもよく遊んでたし。お兄さんも優しくて、僕のこと弟みたいに可愛がってくれてた」

「そうなんだ…」

「まあこんな話はいいとして、まずは雪菜にハンカチ返す時に連絡先聞いて、誘えるかどうかだったね」

「いきなりその話!?数学は!?」

「数学はあとでね」

とりあえず注いでくれたコーラを飲む。日下部は口に手を当てて、誘い方を真面目に考えてる。

やっぱり、異様だな…

「風音くん、今日普通に喋れたんなら、よかったら連絡先教えてって自然な感じで言える?」

「へ!?い、言えないかも…今日も雪菜さんがほとんど話しかけてくれたし…」

「うーん、でも自然に言えば、教えると思うよ。僕達、別に誰かと連絡先交換するの何も制限してないし。でも僕から教えちゃうよりは、風音くんが直接聞いた方が印象いいかなって」

「でも…考えただけで緊張して口から何か出そう…今まで女子に連絡先なんて聞いたことないし…」

でも待て。こんな自信も度胸もないんじゃダメだよな…
好きになってもらうには、日下部に教えてもらってばっかりじゃなくて僕も変わらないと…


「で!でも頑張る!だから、この前みたいに練習してくれ!」

「えっ…」

「弱気なこと言ったけど…!僕もこんなヘタレのままじゃダメだと思って…日下部も協力してくれてるんだから、自分も勇気を出して頑張りたいって思ったんだ!」

「…そっか、分かった。練習しよう」

日下部は僕から少し離れると、いいよ?って感じで合図をしてきた。


「よ、よし!!じゃあまずはハンカチ届けに行ったとして…ゆ、雪菜さん!!」

「あ、風音くん、どうしたの?」

「あの、この前ぶつかった時にハンカチ落としてました!と、届けにきました!」

「わぁ、失くしたと思ってたんだ。ありがとう、届けてくれて」

「はい!それで、あの…ちょっとお願いがあるんですけど…」

「なにー?」

「えっと…あの、れ…」

いい感じに、自然な感じに…!
あれ。どうやって言ったら不自然じゃないんだ…!?

「あ、えっと…!」

「風音くん?目見て、肩の力抜いて」

「う、うん…」

「風音くんの言葉でいいんだよ。相手の目を見て、自分の気持ちを真っ直ぐ伝えてみて」

日下部は、僕の顔を両手で包んで上を向かせる。そして肩をトントンッと撫でた。

「緊張したら、深呼吸してから落ち着いて…」

「すぅーーーーーーはーー」

よし、言える!

「あのっ!あなたの、ことが好きです!!!!」

「……え」

「……ん?」

あれ?あれ?僕、今なんて言った…?

「わーーーー!!!ごめん!間違えた!」

「……」

「順番すっ飛ばして間違えた!まだ早かった!ごめん日下部!!びっくりしたよな…」

え、あれ。

なんで下向いて黙ったままなの…!?

練習とはいえ、急に男にそんなこと言われて嫌だったか!?

「ちょ、あの、日下部!今のは勢い余ってっていうか…!!練習でも嫌だよな!ごめ…うわ!?」

「えっ…ちょ!」

やば!!ずっと固まって座ってたから、足痺れてた…!

急に立ったから、倒れ…ー!!

ドサッ!!!

「いた…た…」


えっ。


な、なんで。


「…っあ、あの、風音くん?」

なんで、こんな至近距離に…真上に日下部の顔が?


「ご、ごめん。倒れる時に服掴まれたから…僕もバランス崩して倒れちゃって…」


あっ!!!

僕がさっき咄嗟に服掴んじゃったからか!!
って、自分の手!思い切り今も掴んでる!!?

しかも、ベッドに倒れちゃったし!
こんなの、お、お、押し倒されてるみたいになって…

「ごごごめん!!足痺れてつい…!道連れにしちゃったな!?ごめん、まじで…」
 
え。

「…ちょ、お、起きれないんだけど」

「……」

日下部は、起き上がろうとしない。動かない。

それどころか…

「…!?え、おい!なにしてんの!?」

倒れた体勢のまま、覆い被さったまま。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

好きだといわせたい

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:23

からかわれていると思ってたら本気だった?!

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,079

下心は恋心なんだ。

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:28

白猫は宰相閣下の膝の上

BL / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:1,151

(…二度と浮気なんてさせない)

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:32

都合の良いすれ違い

BL / 完結 24h.ポイント:972pt お気に入り:22

東京ナイトスパロウ

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:72

処理中です...