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悩ましいボイス②
しおりを挟む聞けば、ルナさんは、プロデューサー,シナリオライター,デザイナーでもあるらしい。つまり、新作エロアニメの方向性を打ち出し、作品の設計図を描き出し、ビジュアル面を含めて、ほとんどすべてを手がけているわけだ。
「何でもできる人間が重宝されるのは、どの業界でも同じです。一人でこなすことで、作業の効率化が図れるし、コスト削減につながります。過酷な競争社会で同業他社を出し抜くには、それぐらいしないとダメなんですよ」
カラオケボックスの店員さんが飲み物を持ってきたので、彼が出て行くまで話はしばし中断する。僕は乾いた喉をウーロン茶で潤した。ルナさんはスプリングコートの色とマッチしたメロンソーダをすすっている。
「実は、腐女子ターゲットの新作アニメを考えているんです」こめかみに指先をあてて、にっこり微笑んだ。「美少年を好きなようにいたぶって自分好みの男に調教する、というストーリーラインです。そのモチーフとなるのがズバリ、コールボーイなんです。あんなことをしたり、こんな風にしてもらったり、ユーザーの赤裸々な要望を叶えようってわけ。ゲームと連動させて、弊社の新たな柱にしたいと考えています。もちろん、リアル志向でね」
腐女子の好みを把握していない僕には、その企画の可能性、実現性、将来性はよくわからない。ただ、ルナさんの熱意は充分に伝わってきた。
〈エルドラド〉シリーズの第一作も、ルナさんがメインになって作り上げ、業界に殴りこみをかけたらしい。ネット配信の過渡期と重なったことが功を奏し、あっという間にヒット作となったとか。
ルナさんはビギナーズラックと謙遜するけれど、企画力と行動力がなければ、幸運の女神だって振り向いてくれない。愛くるしい外見をしているけど、かなりのやり手なのだろう。例えはよくないかもしれないが、ラッセル車やブルドーザーのようなイメージを抱いた。
「おっしゃることは、よくわかりました。僕にわかることなら、何でもお答えしますよ」
「それでは、お言葉に甘えて」
ルナさんは笑顔で立ち上がり、スプリングコートの前を開く。驚いたことに、彼女は下着しか身につけていなかった。しかも、ブラもショーツも面積が最小限で、水蜜桃はほとんど露になっている。
ルナさんは淡々と話し続けているが、眼を奪われた僕の耳には少しも入ってこない。手を上げて彼女の言葉を止めようとするが、彼女はスルーして話し続けている。
「ちょっと待ってください。防犯カメラで見られていますよ」
防犯カメラはドアの上に設置されていた。ルナさんは防犯カメラを背にしているので、正確には下着姿を見られているわけではない。フロントのモニターに映っているのはコートを開いた後ろ姿だけだ。
「大丈夫。この店の防犯カメラは画角が狭い安物だから、死角がいっぱいあるの」
ルナさんは確信犯だった。
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