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第四章
第一段階は クリープ現象とブレーキから始まった。
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シミュレーターでズタボロになった夜、車の運転の大先輩である夫に報告する。
「明日、実車での教習始まるって言うんだけどさ…」
「もらってきた教科書で、予習してイメージトレーニングするんだ」
予習と言う言葉で気が付いた。
「学校」と名の付く場所で「学ぶ」のは実に約二十数年ぶりなことを。
早速、ピッカピカの運転教本を開いた。
ドアを開けて乗り込み、運転準備するところから書いてある。
運転を始めるまでの一連の動作にいちいち意味があったのか驚くが、さらに驚いたのは、読んだ内容が頭にとどまってくれない感覚だった。
脳が老化しているという現実を突きつけられた気分であった。
二十数年、学ぶということから離れていたら、これほどまでに脳が老化しているのか…更に気持ちが落ち込んでいく。
頭に「免許とれるんだろうか」というフレーズが沁みになってこびりついた。
自動車学校に入学して2日目、私は練習用の自動車の横に先生と立っていた。
免許をとろうと思わないで過ごしてきた半世紀、自動車学校で練習する車や、路上教習している車を見ると、ひたすらすごいなぁと眺めていた。
自分がついに、その「すごいなぁ」の立場になったのかと思ったが、嬉しさはほんのちょっとで、やっぱり不安で頭の中は悲壮感でほぼ埋め尽くされていた。
早速、運転席に乗るのかと思ったら、先生が助手席に乗ることを指示してきた。
私が助手席、先生が運転席。
シートベルトを着用すると、運転教本を開けとの指示で、先生の解説が始まった。
とはいえ要点をかいつまんでいるという感じ。
そして
「まず、私の運転を見てください」
そういうと約30分、先生が練習コースを延々と時計回りで走り続けた。
正しい運転姿勢とスローイン、視線はどこにもっていくか、解説を続けながら、自動車はグルグル回った。
助手席は馴染みの席で落ち着く。
とはいえ、落ち着いているだけではダメなのだ。
先生は運転を見てくださいと言ったが、どこを見ればいいのか、よくわからない。
見えにくい足の動きなのか、ハンドルを持つ手なのか、先生の視線の動かし方なのか?
バラバラのシーンを同時にやっているー私には無理ゲーの世界を先生が、披露しているようにしか見えなかった。
練習コース外に車を止めた先生が言った。
「では運転してみましょう」
ついに!運転席に、本物の車の運転席に座った、私が…まじで…。
最初は自動車の開け方、自分の席の位置合わせ、バックミラーの調整、シートベルト着用、同乗者のベルトとロック確認。
ゆっくりゆっくり、一つ一つ。
すでに私はてんぱっている状態だった。
ブレーキふんづけて、エンジンかけて、サイドブレーキを外してシフトをDにいれて準備整った。
車から動くぞという振動がくる。
そこで先生の解説が始まった。
「AT車は、今踏んでいるブレーキから足を話すと勝手に動き出します、クリープ現象といいます」
え?勝手に動いてくれるの?
運転するって、発進するって、ブレーキから足を離すということなの?
先生の指示でブレーキから足を離すと自動車がソロ~リと動き出した。
これが「運転」なのか?勝手に車が動いている他人事の感覚しかない。
先生の
「ブレーキをかけて」
の指示でブレーキから浮かした足をブレーキに戻したーというかブレーキを力いっぱい踏み込んだ。
ガックン、からだが前のめりになって車が止まった。
自分が運転している、という感覚を初めて体験した。
先生は私の思考と関係なく
「力いっぱい踏みこんだら、急ブレーキになりますので、速度に合わせてブレーキの踏み方を加減しなければなりません」
速度に合わせたブレーキの踏みこみ方というのが、よく理解できないが、力いっぱい踏んだらガックンとなるーそれが、私が最初に覚えたことだった。
「ではコースに出ましょう」
ブレーキから足を離すと車が動き出し、助手席から先生がハンドルの下を動かして、車をコースに戻した。
ハンドルを握る私の手はほとんど添え物状態だった。
「足は基本的にアクセルの上の添える形がポジションです」
と先生は言うが、クリープ現象とやらで動き出した車のスピードが怖い。
足はほぼブレーキの上をさまよい、カーブがどんどん近づいて来る。
「速度落として」
先生がブレーキを踏むタイミングを指示してくるが、ハンドルが!ハンドルを回した手がばってんになったところで、私の頭はオーバーフローした。
足の動きと手の動きが全く連動しないのだ。
車が走るコースってこんなに狭いものなのか。怖かった。
時計回りで2週ほどの間、私はからだが固まったまま、足はブレーキの上をさまよい、先生の
「アクセルふんで」
という声で泣きそうな気分でちょっとだけアクセルを踏んで、恐ろしい車のスピードに、自分が取り残される感覚に陥った。
半世紀、自らの意思で体感するスピードはママチャリが出せるスピードまでだった。
それ以上のスピードー時速20キロを自動車のメーターが示す世界は恐怖だった。
慣れなくてなくてはいけないと先生が言い、自分の頭もそうだと感じるが。足も手も何もかもバラバラだった。
これは、異次元なのか?
理解の範疇の遥かに超えた世界が終わった時、魂が抜ける感覚は意外になかった。
魂が抜ける余裕すらなかったので、初めての運転が終わった私の意識は、ちゃちなドライブシミュレーターの後よりしっかりしていた。
ただし、帰宅の途につきながら、運転免許証が確実に遠のいたことをはっきり自覚していたのだった。
「明日、実車での教習始まるって言うんだけどさ…」
「もらってきた教科書で、予習してイメージトレーニングするんだ」
予習と言う言葉で気が付いた。
「学校」と名の付く場所で「学ぶ」のは実に約二十数年ぶりなことを。
早速、ピッカピカの運転教本を開いた。
ドアを開けて乗り込み、運転準備するところから書いてある。
運転を始めるまでの一連の動作にいちいち意味があったのか驚くが、さらに驚いたのは、読んだ内容が頭にとどまってくれない感覚だった。
脳が老化しているという現実を突きつけられた気分であった。
二十数年、学ぶということから離れていたら、これほどまでに脳が老化しているのか…更に気持ちが落ち込んでいく。
頭に「免許とれるんだろうか」というフレーズが沁みになってこびりついた。
自動車学校に入学して2日目、私は練習用の自動車の横に先生と立っていた。
免許をとろうと思わないで過ごしてきた半世紀、自動車学校で練習する車や、路上教習している車を見ると、ひたすらすごいなぁと眺めていた。
自分がついに、その「すごいなぁ」の立場になったのかと思ったが、嬉しさはほんのちょっとで、やっぱり不安で頭の中は悲壮感でほぼ埋め尽くされていた。
早速、運転席に乗るのかと思ったら、先生が助手席に乗ることを指示してきた。
私が助手席、先生が運転席。
シートベルトを着用すると、運転教本を開けとの指示で、先生の解説が始まった。
とはいえ要点をかいつまんでいるという感じ。
そして
「まず、私の運転を見てください」
そういうと約30分、先生が練習コースを延々と時計回りで走り続けた。
正しい運転姿勢とスローイン、視線はどこにもっていくか、解説を続けながら、自動車はグルグル回った。
助手席は馴染みの席で落ち着く。
とはいえ、落ち着いているだけではダメなのだ。
先生は運転を見てくださいと言ったが、どこを見ればいいのか、よくわからない。
見えにくい足の動きなのか、ハンドルを持つ手なのか、先生の視線の動かし方なのか?
バラバラのシーンを同時にやっているー私には無理ゲーの世界を先生が、披露しているようにしか見えなかった。
練習コース外に車を止めた先生が言った。
「では運転してみましょう」
ついに!運転席に、本物の車の運転席に座った、私が…まじで…。
最初は自動車の開け方、自分の席の位置合わせ、バックミラーの調整、シートベルト着用、同乗者のベルトとロック確認。
ゆっくりゆっくり、一つ一つ。
すでに私はてんぱっている状態だった。
ブレーキふんづけて、エンジンかけて、サイドブレーキを外してシフトをDにいれて準備整った。
車から動くぞという振動がくる。
そこで先生の解説が始まった。
「AT車は、今踏んでいるブレーキから足を話すと勝手に動き出します、クリープ現象といいます」
え?勝手に動いてくれるの?
運転するって、発進するって、ブレーキから足を離すということなの?
先生の指示でブレーキから足を離すと自動車がソロ~リと動き出した。
これが「運転」なのか?勝手に車が動いている他人事の感覚しかない。
先生の
「ブレーキをかけて」
の指示でブレーキから浮かした足をブレーキに戻したーというかブレーキを力いっぱい踏み込んだ。
ガックン、からだが前のめりになって車が止まった。
自分が運転している、という感覚を初めて体験した。
先生は私の思考と関係なく
「力いっぱい踏みこんだら、急ブレーキになりますので、速度に合わせてブレーキの踏み方を加減しなければなりません」
速度に合わせたブレーキの踏みこみ方というのが、よく理解できないが、力いっぱい踏んだらガックンとなるーそれが、私が最初に覚えたことだった。
「ではコースに出ましょう」
ブレーキから足を離すと車が動き出し、助手席から先生がハンドルの下を動かして、車をコースに戻した。
ハンドルを握る私の手はほとんど添え物状態だった。
「足は基本的にアクセルの上の添える形がポジションです」
と先生は言うが、クリープ現象とやらで動き出した車のスピードが怖い。
足はほぼブレーキの上をさまよい、カーブがどんどん近づいて来る。
「速度落として」
先生がブレーキを踏むタイミングを指示してくるが、ハンドルが!ハンドルを回した手がばってんになったところで、私の頭はオーバーフローした。
足の動きと手の動きが全く連動しないのだ。
車が走るコースってこんなに狭いものなのか。怖かった。
時計回りで2週ほどの間、私はからだが固まったまま、足はブレーキの上をさまよい、先生の
「アクセルふんで」
という声で泣きそうな気分でちょっとだけアクセルを踏んで、恐ろしい車のスピードに、自分が取り残される感覚に陥った。
半世紀、自らの意思で体感するスピードはママチャリが出せるスピードまでだった。
それ以上のスピードー時速20キロを自動車のメーターが示す世界は恐怖だった。
慣れなくてなくてはいけないと先生が言い、自分の頭もそうだと感じるが。足も手も何もかもバラバラだった。
これは、異次元なのか?
理解の範疇の遥かに超えた世界が終わった時、魂が抜ける感覚は意外になかった。
魂が抜ける余裕すらなかったので、初めての運転が終わった私の意識は、ちゃちなドライブシミュレーターの後よりしっかりしていた。
ただし、帰宅の途につきながら、運転免許証が確実に遠のいたことをはっきり自覚していたのだった。
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