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第11章 パペット・パニック!

なぞのぶったい、えっくす!

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 ――フィッツとゴーレムが死闘を繰り広げた、その夜のことだ。ギルドハウス地下にある工房アトリエにて。

 皆が寝静まった後も、マリアは一人で研究を続けている。いつもの日課だ。
 今夜は、イングウェイの持って帰ったいくつもの鉱石の調査。大部分は正体がわかったものの、一つだけ難航している鉱石があった。削ったりしながら特徴を調べていたが、結局よくわからないのだ。古文書にも載っていないし。
 マリアは首をこきこきとならし、大きく背伸びをする。
「んー、なんだか変な鉱石だなー」

 つぶやきながら、部屋の隅にある一升瓶に向かう。休憩と、傷口の消毒のためだ。
 コップにとくとくと注ぎ、匂いも楽しまずにぐびりと飲み干す。

「けほっ、くはー。割らないと効くなあ、やっぱり」
 元来マリアはあまり酒に強いほうではないが、アンデッド化してからは定期的に飲んでいる(というか、飲まざるを得ない)のだが、最初のころは苦労していた。
 毎日飲んでいれば、少しは酒に強くなるだろうと思っていたのだが、一向にその気配はない。コップ一杯の水割りで、頭はいつもふらふらだ。
 結局マリアは酒に慣れるのではなく、酩酊状態に慣れてしまおうと、考え方を変えた。酔った状態で普段通りの作業をし、それを普通の状態に持っていくのだ。

 もちろん一筋縄ではいかなかった。寝ぼけて頭を炉に突っ込みかけたり、貴重な鉱石を酒のつまみにかじったり。柄の部分が刃で刃の部分が柄の武器を作ったこともある。敵に奪われても大丈夫という盗難防止用だとして売り出してみた。売れなかった。
 ともかく、そのような多大な苦労の元に、今のマリアは立っている。

 ことり。かたり。

 後ろで物音がして、何気なくマリアは振り返る。
 そこいたのは、謎の生物。
 キャンポーテラ教徒が泣いてうらやみそうな、非常に機能的な体型。全身に広がる、痛々しい縫い目。アクアマリンを溶かしたような、透き通るようなクリアブルーの髪。金属製の光沢をもつボディ。
「あれ? え、あれ? 変だな、ボク、酔っぱらってたっけ?」

 普段が酩酊状態なのだ。言うまでもなく酔っぱらっている。が、それは幻ではない。確かにそれはそこに存在している。
 メタルマリアだった。

 メタルマリアは人形のように動かない。が、その瞳は確かにマリアの動きを追っている。

「ちょっと待ってよ、ええと、何があったんだっけ。インギーの持って帰った鉱石を解析してたんだよねー?」
 マリアは考えつつも、メタルマリアにゆっくり触れようとする。
 次の瞬間、

 ぎしゃあああっっ!!

「うっひゃああああああ!!!」

 メタルマリアの腹が大きく裂け、どろりとした赤黒い内臓とともに白く太い肋骨が伸び、マリアの手を食らおうとする。
 そうだ、それは腹ではない。口だ。肋骨ではなく、歯だ。

 ほとんど反射だけで、かろうじてマリアは、メタルマリアを突き飛ばす。
「ぎゃああ、化け物だーーーーっ!!」

 ドアがマリアの後ろ側にあったのは幸運だった。マリアは転びかけながらもドアを開ける。履いているホットパンツが少々生温かいが、今は考えないことにした。腰は抜け、膝で這いずるように廊下を、階段を這いあがる。

 イングウェイを探さなければ!
 なんで自分ばっかりこんな目に合うのだろうと思わなくもなかったが、とりあえずは目の前の恐怖を何とかすることだ。

「いんぐうぇーーーーっっ!!」
 ありったけの声で叫ぶ。震えて裏返った声だったが、気にしてはいられない。



 実際には一分と経っていないだろうが、マリアにとってはほとんど永遠のような時間だった。
 ガチャリとドアが開き、寝間着姿のイングウェイが現れる。
「どうした、全く騒々しい」
「ああ、いんぎー、良かった、ばっ、化け物、化け物出たのっ!」

 目をこすりながらはいはいと適当にあしらおうとするイングウェイ。マリアは必死に説明する。

「あのね、石、たぶんあれ、金属っ! ボクの体になって、なんかばくうぅっって!」

 さっぱりだ。これでわかるはずがない。焦るマリアをぐっと抱きしめ、イングウェイは言った。
「ああ、今わかった。あいつだな、原因は」
「ふえ?」

 イングウェイが見据える先。暗がりの向こうに、一匹の蠢く影が見えた。
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