賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第11章 パペット・パニック!

ににんばおり!

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 次の日、ギルドハウスの庭で、俺はフィッツにけいこをつけていた。

「本当にいいのか? 相手はこんなタイプじゃないと思うんだが」
「いいんだにゃん、苦手を潰すのもいいけど、得意を伸ばすのも大切にゃん。まずはパワー、圧倒的なパワーがあれば、パリイしようとした腕ごと吹き飛ばせるにゃん!」

 正しいような正しくないような……。
 まあいいか、本人が納得することも大切だからな。

 俺は呪文を唱え、巨大ゴーレムを作成する。

『――打ち砕け、お前の命は私が保証しよう
 不幸な息子よ、土に還る前にもう一度動き出す
 私の仮面を借りて、蠢くがいい

  ――≪自我を得る土塊クリエイト・ゴーレム≫!」

 魔力で作り出した核を中心に、土の塊が集まってヒト型を成す。俺はデザインセンスがないから、ぶかっこうだがな。足より手の方が大きいし、腰回りもやけに太い。
 ゴリラ型といってしまうと、ゴリラに失礼か。

 しかし、作成者は俺だ。強いぞ。

 起き上がったゴーレムは、すぐにフィッツにむけて剛腕を繰り出す。彼女が目指している、圧倒的なパワーってやつだな。

 動きが鈍いせいか、ゴーレムの初撃はあっさりとかわされる。カウンターでパンチを繰り出すフィッツだが……。

「うななーっっ!!」
 ぽいーん。

 なんだあれ、パンチの音ではないな。

 あっさり弾かれるフィッツ、めげないフィッツ。再びとびかかり、こんどは蹴り飛ばされる。
 ううむ、見ておれん。

「おいフィッツ、ちょっと力を貸してやる」
「大丈夫だにゃー、一人でやらないと意味が――って、うあーんにゃん」

 よそ見をしたところに、ゴーレムのチョップが襲い掛かる。
 やれやれ。

 俺は大勢を崩したフィッツの背後に回り、優しく抱きしめるように体を支える。

「にゃっ、ちょ、イングエー、なにするにゃんっ!
「二人羽織という状態だ。俺の前にいた世界では、先輩が後輩の技術を指導するときに普通に使われていた。気にするな」
「きにするなって、にあんっ、そこはおっぱいにゃん!」
「ぶつぶつ言うな、お前の体には、まだ使いこなせていない魔力がある」

 俺はフィッツの胸にたまった魔力を、背後から優しくほぐしてやる。
 フィッツは野生で育っただけあり、魔力による肉体操作は天性の物がある。その結果があの素早さと攻撃力の両立なのだが、残念なことに100%自分の力を使い切れているわけではない。フィッツの胸には常に一定以上の魔力をため込むように、ストッパーがかかっている。

 俺は、それを野生の生存本能によるものだと推測していた。
 野生の中では、戦いで勝ったとしても食べ物が無くて飢えてしまうこともある。野生の勝利とは、戦いではなく、生き残ること。
 忘れかけていたが、彼女にはミルメコレオの血が流れている。食べずとも生きていけるように、彼女の胸はラクダのコブの役割を果たしているのだ。

「安心しろ、何かあっても飯くらい俺が食わせてやる」
「そ、それはもしかしてプロポーズかにゃんっ? いけないわイングウェイ、あなたにはサクラやキャスリーが、……ぶにゃあっ、このゴーレム、空気読まないにゃんっ!」

「ほら、油断するな。ちゃんと全身に回る魔力を感じろ」
 俺は胸に当てた手に、ぐっと力を込める。フィッツの魔力はなかなか頑固で、強い弾力が手の平をはじき返してくる。
 負けじとさらに力を込める。

「あ、あんまり強く握らないでほしいにゃん」
「我慢しろ、力を抜いて俺に体をゆだねろ。お前のためだ」

「ふ、ふにゃあぁ」

 フィッツがうまい具合に脱力する。
 俺は角度を変え、残った魔力も全身に循環させる。

 迫るゴーレム、ふやけるフィッツ。
「今だ、やれ」

「にゃ、にゃあー!」

 ばごんっ、どかっ!

 弾かれたように俺の腕から抜け出したフィッツは、ゴーレムの剛腕に真正面から向かい、そのまま打ち砕いてしまった。

「ぜ、ぜはー、ぜはー、は、恥ずかしかったにゃん……」
「よくやったな、フィッツ」

「イングウェイ、お前、責任とってもらうからにゃあっ!」

「ん? よくわからんが、かまわんぞ。途中で修行を投げ出すような無責任なことはしない、安心するがいい」
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